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【事故物件に住む男】

〈事故物件〉というものがある。〈事故物件〉とは、殺人・自殺・変死などがあった不動産物件のことである。

さて、松竹芸能に所属している「松原タニシ」という、〈事故物件〉にだけ住み続けているピン芸人がいる。彼のことは数年前に知ったのだが、その時は正直、なんか胡散臭そうな奴がいるなぁくらいにしか思っていなかった。

お笑い芸人として、テレビの〈 R―1グランプリ〉で準優勝までしたのに全く売れなかったようだ。

ところが2012年、テレビ番組の企画で〈事故物件〉に住んだことがキッカケで「事故物件住みます芸人」となり、少しずつイベントなどに出演するようになってきた。

以降、既に8軒目の〈事故物件〉に住もうかという程のキャリアを積み重ねて現在に至っている。

そんな松原氏・・何年も〈事故物件〉に住み続けた結果、ヤバい霊障を受けたり、何体もの霊に取り憑かれたりしたそうである。怨霊の影響を受けたためか、体調を崩した時期もあったようで、霊感がある同業の〈怪談師〉から、「あなたには複数の霊が取り憑いている。陰陽の陰が強過ぎて生命が危険な状態だ」などと言われたこともあったそうだが、現在では、陰陽のバランスが取れてきているので大丈夫だろう、ということらしい。

本人は霊感がないと言っているのだが、写真を撮ると彼の顔だけが黒く塗り潰されたように写ったり、霊能者には背中に覆い被さる女の霊を指摘されたりと、霊に弄ばれたり好かれたりする能力だけは秀でたものを持っているようだ。だから彼の霊体験の数は尋常ではなくて、話のネタには苦労しなくて済むようである。

そして・・彼に大きなチャンスが訪れる。2021年、彼の著書「事故物件怪談  恐い間取り」が、亀梨和也主演で映画化され、大ヒットを飛ばしたのであった。石の上にも3年・・どころではない長い低迷期を経て、彼は「事故物件住みます芸人」として不動の地位を確立したのである。

現在、彼はラジオやYouTubeでも活躍しているのだが、おかっぱ頭に黒縁メガネの、俳優:六角精児に似た風貌の彼が、落ち着いた口調で話す体験談には妙に説得力があって、聴く人の心を掴んで離さない。

今や彼の財産となった〈事故物件生活〉なのだが、何処かに目ぼしい物件はなかろうかと更に物色しつつ、彼は今日も〈事故物件〉に住み続けているのであった。

ところで、〈事故物件〉に住み続けるということは凄いことだと思う。僕なんかひと晩だって無理に決まっている。

日頃から幽霊の存在を否定しているパキパキの唯物論者に訊いてみたい。

「じゃあ〈事故物件〉でも平気で住めますよね?」

そこでどんな弁解をして断るのか、ひとつ聞いてみたいものである。日頃から鼻で笑いながら幽霊を否定している唯物論者が、もしも平気で〈事故物件〉に住んだとしたら、座布団100枚を進呈したい。


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