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【結婚指輪】
以前のnoteにも書いたが、僕たち夫婦の結婚は〈お見合い結婚〉だった。
会ったその日に僕がプロポーズをして、家内が即それを受けたという訳なのである。
別段、家内が取り分けて美人だったからではないのだが、ついついそうなってしまったのである。
8月に見合いをしてから3ヶ月後には広島に帰って来て結婚式を挙げたのである。
家内は山口に住んでいたので、婚約期間の3ヶ月間、東京にいた僕と家内は3度しか会う機会がなくて、手も握ってはいなかったし、結婚までに、確か3・4通の手紙を家内に書いたくらいの関係だった。
東京を引き払って広島に帰ってからの2人の生活は質素そのものであった。貧乏に近いと言ったほうが近いかもしれない。
新婚旅行だって、弟のクルマを借りて1週間くらいだっただろうか、予定の無いドライブ旅行をしたくらいなのだ。
従って、婚約指輪もなければ、結婚指輪だって買ってやっていない。
・・・・・・・
さて、結婚してから数年経ったある日のことであった。
2人はショッピングセンターに買い物に出掛けていた。そしてある雑貨コーナーの前を通った時であった。陳列棚の指輪が目に入ったのである。
見れば色々な指輪が並んでいる。安物のイミテーションばかりだが、素人目には本物といっても分からないくらいによく出来た指輪ではあった。
並べられた指輪を見詰めながら僕は言った。
「そういや、結婚指輪を買ってやってないよなぁ」
「うん、でも指輪なんかいらないよ」
「カッコだけでもいいからこれ買うか?」
「そうね、それもいいかも」
そして真鍮にニッケルメッキでもしたような銀色の指輪を、2個ペアで買ったのである。
1個が¥1.000―程度の、謂わば結婚指輪擬きなのに、それでも家内は嬉しそうだった。
・・・・・・・
あれから30年以上が経った。
そして、あの指輪と、家内に宛てた何通かの手紙を、家内は今でも大切に保管している。
「そんなもん捨てろよぉ」
そう言うと・・・
「嫌よ、アタシ死んだ時、棺桶に入れて貰うんだから・・」
と、そう言った。
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