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【みんなの就活体験記 ADHD・学習障害の先輩】

新学期が始まり、就職活動を意識する時期になってきましたね。障害のある学生さんの中には、就活を前に次のような悩みを抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

・自分と同じような障害がある先輩の就活体験談がみつからない
・自分が働ける環境があるのかがわからない
・社会人になる準備をするうえで何をしたらよいかわからない

こんな悩みを少しでも解決できるよう、障害がある先輩の就活体験記をお届けしていきます。

今回は注意欠陥/多動性障害(ADHD)と学習障害(LD)がある、大学生の小寺さん(仮名)にお話をお伺いしました。小寺さんは既に就職活動を終え、春から福祉施設での就業を予定しています。
(※本記事の取材は2024年2月に行いました)

障害特性と、大学での活動

ゆりこ:まず、小寺さんの障害について教えてください。

小寺:ADHDと、アーレンシンドロームによる学習障害があります。アーレンシンドロームの症状で、光などに対する感覚過敏があったり、文字がぐにゃぐにゃ曲がって見えるんです。なので、文字を書いたり読んだりするのがかなり辛いです。

ゆりこ:なるほど。大学では何を学んでいるんですか?

小寺:福祉全般や心理について学んでいます。福祉・心理どちらにおいても、子ども、特に発達障害の子どもに興味を持って学んでいるという感じです。

ゆりこ:学業以外には、大学生活でどんな活動をしているんですか?

小寺:二つの団体で活動しています。
一つ目は、学内のサークルをまとめている団体です。月に一度開かれる学内サークル全体の定例会に向けた資料作成や、大学から受け取った予算を管理してそれぞれのサークルに分配するのが主な業務です。あと、学園祭の運営管理にも関わっています。私は副会長として、企画立案や会議の進行をしていました。
二つ目は多文化交流をするサークルで、月に一度、異文化に触れてみようっていう活動がありました。ウクライナ料理のお店に行ってみたりしていましたね。

ゆりこ:そういった活動の際に、ADHDや学習障害の壁を感じることはありましたか?

小寺:かなりありました。でも、自分の障害はカミングアウトしていて、副会長になった時も周りがそれを理解している状態でした。文字起こしや細かい連絡の取り合いなどの苦手な業務は相方に任せて、逆に自分は企画の立案や司会進行の業務を全部引き受けていました。それぞれの役割をはっきりさせて、連携できていたと思います。

ゆりこ:得意なことや苦手なことを踏まえて、分担しながら協力できるのはすごいですね!サークル以外に、アルバイトはしていなかったんですか?

小寺:アルバイトはしたかったんですけど…コロナ禍の入学だったので、2年間くらいアルバイトをしにくい状況が続いていました。発達障害を理解してもらいにくいという問題もありました。なにより、一番大きな理由としては、自分の「やりたいこと」と「できること」が一致していなかったことです。文字を書く必要のあるアルバイトをしてみたいと思っても、自分は字が書けないからできない、みたいな。そういった理由でアルバイトはしていませんでした。

入社予定の会社について

ゆりこ:入社予定の会社について、業種やそこに決めた理由を教えてください。

小寺:療育と放課後等デイサービスをやっている複合型施設になります。
自分の発達障害をオープンにしている状態で、その施設からオファーをいただいたんです。実際に人事の方と話してみても、正社員雇用の可能性も考えてくれていたくらい理解があったのでそこに決めました。

ゆりこ:そうなんですね。最終的には雇用形態はどうなりましたか?

小寺:契約社員という形になりました。もともと一般枠を希望していたのですが、会社の方と色々話した上で、勤務時間が柔軟になるなどのメリットを踏まえてこの形に決めました。

ゆりこ:業務内容はどんな感じですか?

小寺:シフト制で、9時半から業務が始まります。午前中は療育で、未就学児の相手をしながら、その子たちの得意・不得意をどうケアできるかなどを考えていきます。午後は放課後等デイサービスで、小学生から中学生までを対象に集団療育をします。
重度まではいかないくらいの、発達障害や知的障害を持つ子どもたちが主な対象です。

ゆりこ:入社後はどのような配慮を受ける予定ですか?

小寺:相談中ですが、終わりの時間を伸ばす代わりに、勤務開始時間を少し遅くしていただけそうです。月に一回、精神科に通院する日があるのですが、シフトに空きを作っていただくこともできそうです。
あと、服装がかなり緩いのは助かります。私服勤務なんですが、帽子やサングラス、場合によっては耳栓も可能だそうです。

就活スタート

ゆりこ:就職活動は何月ごろに始められましたか?

小寺:企業探しを就活のスタートと呼ぶとしたら、実は高校3年生からなんです(笑)
高校3年生の時点で、就職か進学かを決めるタイミングがあって。その時、ある福祉の企業に入りたかったんですが、そのためには社会福祉士という資格が必要ではないかと思ったので、大学進学を選んだんです。なので、ある程度就職したいところを決めたうえで大学に進学しました。

入学後は、2年の後期くらいから自己分析や企業研究を少しずつ始めました。福祉の仕事が自分に本当に合っているのか考えたり、自分の発達障害についての理解や言語化を進めたりしていましたね。色々な企業に勤めている方と面談もしました。もともと行きたかった会社に関しても、2年も経っているので現状がどうなっているのか聞いていました。

ゆりこ:もともと入りたかった企業には、なぜ入りたかったんですか?

小寺:私も小中高とお世話になっていた、放課後等デイサービスのような個別支援の施設なんですが、そこの先生にすごく良くしていただいて。その先生のいるところなら、一緒に働いてみたいって思ったんです。でも、結局その先生は辞めてしまっていましたし、業務内容も変わっていて、自分の目指しているものとは違うと思ってやめました。
その後も、子どもに対して学校以外の居場所をつくることができるような会社を探していました。

ゆりこ:そうなんですね。自己分析・企業研究の次にはどんなことをしたんですか?

小寺:3年生の前期に、大学の就活支援講義を受講しました。履歴書の書き方から始まって、実際にスーツを着て面接練習もする授業です。同時に、一般向けの就活サイトに3つほど登録しました。あとは、合同説明会に何度か行きました。その後、オンラインの1dayインターンシップに何度か参加して、グループディスカッションをしたり、業務体験をしたりしました。

ゆりこ:就活の初期段階で困ったことや不安だったことはありましたか?

小寺:就活について相談したくても、発達障害に理解がある人がなかなか見つからない、というのが一番困りました。最初は大学の就活相談室に行ったんですが、一般の就活を前提としていて、障害者雇用の話はできませんでした。先ほど話した就活支援の講義でも、履歴書の書き方は教えてくれるけど、「そもそも手書きで履歴書を書くことが難しいんですがどうしたらいいですか?」という悩みには対応してくれない。スーツが苦手とか、光過敏でまぶしいとか、相談しても突き放されてしまって。
障害者向けの就職エージェントも利用しましたが、事務職ばかり紹介されました。事務職には向かない障害特性があるということを知らないのかな、と感じました。就労移行支援事業所にも行きましたが、発達障害に理解があるとは思えませんでした。企業の方と話しても、身体障害にはある程度対応するものの、発達障害には理解がなかったり。発達障害に理解がある人はどこに行けばいるのか、と悩みました。それで、合理的配慮などを専門にしている教授に相談したところ、色々なアプローチを教えてもらいました。

ゆりこ:具体的にはどういったものですか?

小寺:自分の発達障害がどんなもので、企業にどんな配慮を求めたいのかをまず書き出しました。それから、自分がどういう仕事がしたいのか伝えて、どんな場所でならそれを実現できるか、などについても相談に乗っていただきました。
履歴書については、デジタル入力して印刷すればいいと教えてもらいましたし、スーツが苦手といった特性は早めに企業に伝えた方が良いとアドバイスもいただきました。入社予定の企業についても、訪問した時にスーツのことを話したら「面接も私服で来ていいよ」と言われてその場で解決しました。疑問に思ったことをとりあえず聞いてみるっていうことを心がけるようになりましたね。断られたら仕方ないので、そのまま辞退する。最低限のことは聞いて、その後の行動を決めていました。

ゆりこ:小寺さんの場合、履歴書は手書きが多かったんですか?

小寺:そうですね。多くの場合履歴書に「一言」の欄があるので、そこに自分の障害について書いてました。加えて、こういうところに苦労しているが、こういうふうに乗り越えていますということを書いていました。学業とかについてはあまり書くことがなかったぶん、一言欄がガクチカみたいな感じでしたね。

ゆりこ:強みに変えたんですね。

小寺:そうそう。でも、そこに辿り着くまでには時間がかかりました。マイナスなことをプラスに言い換えるのはすごく苦手で。回数を重ねるにつれて上手くなったという感じですね。
あと、母の友人で人事の仕事をしている方とお話する機会があって、それは自分の障害を理解するうえでものすごく役立ちました。お話しする中で、自分の障害についてや何に苦労しているかが整理されていきました。方法としては、今まで自分の中で当たり前にしていたものを分析していく。例えば、寝る前に歯を磨くけど、歯を磨く前にはいつも何をしているっけ?みたいな。自分の無意識下で決まっているものを有意識下するっていうことをして、自己理解につなげていましたね。

就活中盤から終盤へ

ゆりこ:就活の中盤では、どんなことをしていましたか?

小寺:3年の終わり頃、就職活動がしんどくなってしまって、一回全部止めたんです。登録しているサイトを全部消してメールが来ないようにしたり、情報を遮断してリフレッシュしました。
その後4年生になったくらいで、逆求人のサイトに登録しました。企業が学生のプロフィールを見て、気になる人がいたら企業側から連絡するというシステムなんですが、それが僕には合っていたと思います。自分の障害についてもあらかじめプロフィールに書いていたので、そこを知ってもらったうえでやり取りを始められたのが良かったですね。

あとは、ある方から紹介してもらい、就職前・就職後に使えるビジネス的な知識についてお話を聞けるサイトに登録しました。面談中に何を表現したら良いかだけでなく、給与明細書の見方なども学びました。

ゆりこ:就活を進めていくにつれて、企業選びの軸を修正することはありましたか?

小寺:かなり修正しましたね。理想としては、子ども達が自由な主体となって、彼らのやりたいことを支援できるようなシステムを実現したいというのがあって。でも、それはある程度、規模が大きい会社じゃないとできない。でも、規模が大きいと小回りが難しい。砂漠の中からダイヤモンドを探すような作業になってしまったんです。なので、もうちょっと範囲を広げて、子どもに関われる地域福祉の会社全般を探すことにしました。

ゆりこ:なるほど。では、ご自身の就活を振り返って、やらなくても良かったと思うことはありますか?

小寺:ないですね。というのも、失敗してもその行動の振り返りをして改善につなげられたから。やらなきゃ良かったという後悔じゃなくて、やったからこそ改善点が分かったという感じです。反省して改善点を見つけるのは面倒くさい作業ではありますが、一番やって良かったことでもあります。これから就活する障害のある学生さんにも、とりあえずいろいろなことに挑戦して欲しいと思いますし、失敗を恐れないでほしいと思います。その方がポジティブに生きられます。

ゆりこ:他にこれからの就活生に伝えたいことがあれば教えてください。

小寺:自己分析は早めにやっておいた方が楽だよ、とは伝えたいですね。4年生になってからだと、時間がうまく取れなくなるかもしれないです。


いかがでしたでしょうか?
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この記事をかいたのはかのん。高度難聴の大学生。趣味は映画鑑賞で、特にインド映画が好きです。

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