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【100の職種プロジェクト】第11回 ASD・ADHD・うつ・適応障害×IT企業の障害者向けインターン講師

100の職種プロジェクトは、社会で働くさまざまな障害や特性がある人たちが、どんな職種や業種でどのように働いているのかインタビューし、障害種別・特性と職種・業種をかけ合わせた100通りの働き方を発信するプロジェクトです。個人が診断を受けている障害名に左右されず、それぞれの経験や環境に着目しながら、多様な人たちの働き方・環境について発信しています。

第11回は、IT企業でインターン講師などをして活躍している鮪つな(仮名)さんにお話を伺いました。


障害の内容と発覚時期

Q. まずは鮪つなさんの障害について教えてください。


ADHD・ASD・うつ病・適応障害です。ADHDとASDの特性のなかで、突き詰めて考えるのが好きで、かつ行動力があるフットワークがとても軽いなどは強みだとも思っています。ただ、ASD絡みでは「この一言余計だったな」とか「もっといい言い回しがあったな」とか毎日反省していますね。
今一番悩まされているのはうつ病で、動けなくなったり思考力が鈍ったりすることがあるのですが、ASDの特性がうつ病を引き起こしている感じでもあります。

Q. それぞれどのタイミングで発覚・発症しましたか。


小学4年生の時に、ADHDとPDD(広汎性発達障害)の診断が下りました。まだその頃はASDという言葉がなかったんです。
その後、特別支援級の教職を取るために教育実習に参加したところ、コミュニケーションや不注意の面で特性の悪いところが出て、大失敗しまして・・・もう一度精神科に行ったら改めてASDの診断が降りました。
うつ病も、同じような時期、大学二年生の春に失恋がきっかけで発症しました。お恥ずかしい話ですが、大学時代は色々重なって、何度か自殺未遂までしていました。
適応障害は、前職で発症しました。前職は福祉系でしたが、一般的に言われるブラックなところで、罵声を浴びせられるのが日常茶飯事だったんです。最終的に職場で過呼吸を起こして倒れてしまい、職場に全く行けなくなって、その時に適応障害と診断されました。その後現職に就いた後も仕事や人間関係が上手くいかなくなった時に度々適応障害を起こしています。

頭を抱える男性のイメージ画像

Q.ご自身の特性は周囲の人から見て目立っていると感じますか?

いえ、周囲からはほとんど分からないみたいです。障害年金をもらってるというと「不正受給じゃん」と言われたり、「ヘルプマークいらないでしょ」と言われたり、「お前が障害者なら俺だって」と言われたり、嫌なことは一通り言われましたね。でも、それは自分の特性に向き合って対処しているから目立たないだけで、そこに至るまでの努力を見ずに結果だけを見て「障害者じゃない」と言われるのは心外です。

現在の働く環境について

Q.現在の勤務先について教えてください。

データサイエンスをベースとした、IT系の会社に勤めています。
僕の会社の特徴は、NPO法人に所属していて、同じNPO法人内で就労移行支援事業も行っているというところです。そのため、就労移行支援期間(原則2年)を終えた人を、受け皿として僕の会社で雇用しています。
僕もこのNPO法人の就労移行支援を利用して、そのまま今の会社に就職しました。

Q.現在の業務内容を教えてください。

会社の規模が小さいので、営業、広報、開発、人事の仕事を少しずつ任されていて、よく言えばオールラウンダー、悪く言うと総合雑務です(笑)
今一番大きな仕事は、障害者向けインターンのITサポート講師です。インターンの内容はIT関連の基礎知識、いわゆるITリテラシーがメインで、もうちょっと踏み込んだアプリ開発に関する専門用語とか、技術的な話もあります。僕は、理解が追いついていなさそうな参加者に声がけして他の講師に繋ぐ担当をしています。
また、先ほど述べた、会社が所属するNPO法人の就労移行支援利用者のカウンセリングもしています。同じ立場だからこそサポートできることが多いと感じますね。

スーツを着た女性にタブレットを持って指導する会社員の男性のイメージ画像

Q.インターン講師などの業務で、ご自身の障害特性に合っている部分はありますか。

1つめは、これまで自分が身につけてきた特性や状況への対処法を、同じような当事者の方にアドバイスできることです。相手がどこでつまずいて、どういう悩みを抱えているのか、聞かなくてもある程度想像できるのが楽だなと思います。
2つめは、即興トークができるということです。僕はWAISというIQ検査でも言語理解と処理速度のIQが突出していて、その場で言葉を紡いで話すことが得意なので、講師のような業務とは相性がいいと感じます。僕の会社は発達障害・精神障害の当事者が就職しているため、コミュニケーション面に困難を抱える人が多いんです。その中では僕は喋りが得意な方とされているので、喋りやコミュニケーションを必要とする業務をよく引き受けています

Q.逆に、ご自身の障害特性に合わない部分や、困っている部分はありますか。

インターン講師としては特にありません。でも、社内での人間関係は少し苦労しています。特性が強い人たちが集まっている中で、僕が比較的健常者に近い立ち回りができるので、僕にしわ寄せが来ることが多くて、ストレスが溜まったり、うつ病のように心身への影響が出たりしてしまいますね。

Q.職場でどのような配慮を受けていますか。

特別扱いというよりは、理解をしてくれています。
僕は報連相を忘れがちでその度に申し訳なくなるのですが、相手も僕の特性は知っているので「リマインドを忘れたこっちも悪かったよ」と言ってくれます。
ちなみに前職はオープン(障がいを周囲に知らせた状態)で入ったのですが、そのせいで「これだから(障害者は)」と心無い言葉を言われたので、職場によってはオープンが必ずしもいいとは言えないかもしれません。

Q.今の仕事のやりがいを教えていただけますか?

やりがいは、肯定的なフィードバックを得られた時ですかね。相手が自分に心を開いてくれたなっていう瞬間があったり、僕のおかげで苦手意識を克服したと言ってもらったり、テストの結果をみたときに僕が教えたところがグンと伸びていたりすると、とても嬉しくなります。教えるのが好きで、しかも子どもよりも大人と関わるのが好きなので、インターン講師や就労移行のカウンセリングは、僕にぴったりの業務ですね。

今の働き方や仕事への想い

Q.働くうえで大切にしていることがあれば教えていただきたいです。

今模索している最中ですが、大きく分けて2つ。
1つめは、倫理的に筋が通らないことは、自他ともに許さないということです。法律や社則はもちろんですが、勤怠が不安定な人に対して少し厳しかったり、礼儀にうるさかったり。結構昭和マインドかもしれないです(笑)これは特性上のこだわりにも近いですね。
2つめは、その場にいる全員が楽しめるように立ち回ることです。
例えばインターンの現場では、参加者の中でも結構IT知識に差があって、できる人の方が鋭く指摘してしまって空気が悪くなることがあります。そういうときは言われた方の心のケアをしつつ、言っている方の指導を担当者にお願いしています。
僕はもともと障害が専門で臨床発達心理士(発達の支援に特化した心理士資格)も持っているので、当事者に対して間違った関わり方をしている人を見たら、正しく関わって欲しいと強く思いますね。

Q.臨床発達心理士は学校で取得したのですか?

はい、大学院で取りました。授業と200時間の実習が必須で、実習は障害がある子の家庭教師を行いました。取るのも労力がいるし、臨床心理士と同じで取得後も講座を受講しないと失効してしまうので、専門性を担保できる資格だと思います。
ただ、資格を見込まれて採用された前職(福祉職)では、上司から「心理士だからって偉そうにするな」と嫌味を言われていましたけどね(笑)

Q.将来のビジョンはありますか。

1つめは発信活動です。自分の在り方としては、自分と同じように発達障害だったり何かしらのハンディがあったり、もっと言うと何らかのマイノリティに属している人たちが、僕の背中を見て「こいつでもやっていけてるんだから自分も大丈夫」と少しでも心が軽くなって、社会を渡り歩いていってくれるといいなと思います。僕は奔放に生きているので、良くも悪くも前例を切り開いてお手本になれたらいいですね。自分でもnoteやSNSで発信しているし、こういうインタビューにもどんどん参加していきたいです。
2つめは転職です。今の職場の経営が不安なので、最近、転職活動をしています。
文章を書くのが好きなのでライター系とか、マーケティング系、営業、人事あたりを見ています。落ちまくっていますけど(笑)自分の強みを活かせるところを見つけられたらと思います。

学生のみなさんに伝えたいこと


Q.学生時代にやっておいて良かったことはありますか。


まず自己分析。特に発達障害に関して言うと、人間関係でできるだけ失敗しておいた方がいいと思います。社会に出て思ったことですが、大学時代の人間関係って疎遠になることが多いので、失敗が後に響きにくいんですよね。なので、色んな人と関わって、たくさん転んで転び方を覚えるには、大学時代が手っ取り早いと思います。
サークルにたくさん入るとか、いろんなコミュニティに首を突っ込んでみるとか。合わなかったらすぐフェードアウトすればいいだけの話なんです。いい友達が見つかるかもしれないし、苦い経験をすることで「この立ち回りだと失敗するんだな」という気づきを将来に活かせるかもしれません

大学のサークル仲間たちで談笑するイメージ画像

やっておいたほうがいいことではないのですが、業界選びとして、IT業界を目指すのはかなりおすすめです。
IT業界のいいところは、自分1人でも勉強すればある程度の知識はつくし、極めることもできるところです。僕は独学が得意なタイプなので、前職を辞めた後、就労移行支援に所属しつつ独学でPythonなどプログラミングを勉強して、翌年にIT人材として雇ってもらいました。
IT業界は人材不足なので、意外と自分で学んでその後飛び込むと歓迎されることが多いと思います。就労移行支援を受けるとか、講座を受講するとか、Youtubeや本で勉強するとか、何らかの方法で最低限の知識を身につけたら入り込めるんじゃないかなと思います。

Q. 最後に、就活をする障害学生へのアドバイスをお願いします。

不安になったり悩んでいる方は、自分がここまでやれてこれた、というところを誇って欲しいです。
僕の新卒就活は、もつれるにもつれて、2月の最終週に内定が決まったんですよ。それで、深く考えずそこに行って結局3ヶ月で倒れたので(笑)働くことが必ずしも幸せに直結するかと言われると、そんなことはないです。1年2年就職浪人して、その後幸せにやってる人もいますし。焦ったり自分を責めたりしないでください
それから、例えもし正社員になれなくても、発達障害においてはそれがマジョリティだし、そういう社会構造を変えたいんだったら、もっと社会に対して凹むんじゃなくて食ってかかるような勢いで動いてもいいんじゃないかなって思いますね。



ご自身の特性や環境で苦労されながらも、対処法を見つけたり、自分の意思を持って道を切り開いていくという姿勢が印象的で、インタビュアーを担当した私もとても勇気づけられました。
インタビューにご協力いただき、ありがとうございました!

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この記事を書いた人

ゆりこ。大学4年生。料理を作ることと食べること、動植物が大好き。低音障害型感音性難聴をときどき発症。

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