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「いけるか?」⇔「あかんか…」をいったりきたり(マンション共用施設の用途変更⑥)

前回までのまとめ
当マンションでは「居住者専用ミニコンビニ」がマンション共用棟の2階に存在しています。
しかし、マンション居住者だけでは採算が合わないため、運営業者(A社)に補助金を拠出して店舗運営を委託していましたが、過去のいざこざで当マンションとA社は冷めた関係が続いており、次回契約更改時には契約内容見直しが示唆されていました。

その最中に、居住者専用ミニコンビニの営業権を狙って、飛び込み営業してきた別のコンビニチェーンのB社。
しかし、打ち合わせを重ねるも、まさかの「提案辞退」。
その時に苦し紛れに「ミニコンビニ運営場所(2F)ではなく、キッズルーム(1F)を外部利用可能な店舗化してはどうか?」と口にしたところから、今回の話は始まります。

私「ここ、店舗にしたいんスけど…」→「えぇ…(困惑)」

一言でまとめるとこんな感じ。
一応ちゃんと整理しながら進めました…(`・ω・´)

苦しいけど「やめる」はない

ここで今一度振り返りですが、居住者専用ミニコンビニは「居住者からは望まれている施設」でした。

  • 理事会が現在のミニコンビニを誘致する前(数年前)にアンケートを実施し、多くの回答者が「補助金が増えても良いからメジャーブランドのコンビニを運営して欲しい」と回答

  • これを受けて、現在の運営業者(A社)でのミニコンビニ運営が始まったため、一定数以上の区分所有者の意思が存在

理事長たる私の立場としては、「管理費が苦しいからやめる」なんて口が裂けても言えませんし(思ってもいません)、A社が契約更新時にどんな条件を提示しても受け入れる以外の選択肢が事実上存在しないのでした。

私1号「商圏、成立するんじゃね?」

そこで冒頭の「ミニコンビニ運営場所(2F)ではなく、キッズルーム(1F)を外部利用可能な店舗化してはどうか?」という提案に繋がります。

ここで簡単にコンビニを、現在の区画(2F:居住者専用ミニコンビニ)から移転(1F:現キッズルーム)に移転したときの皮算用を整理しておきます。

当時の皮算用

先の通り、次の契約更改時には現行業者(A社)が不利な条件が提示するのは既定路線。
また、表の通り他に手を挙げる事業者はおらず交渉の余地はないことから、「1社依存はよろしくない。他の事業者も手を挙げられるようにせなアカン」と考えておりました。

そのため、もし1F区画にコンビニを移設できるようであれば、

  1. 一般的な店舗面積と同等水準で、品揃え問題はクリア

  2. 屋外に面する1Fで、外部集客も可能であり、商圏人口確保が可能

と、運営事業者が躊躇する理由を大きく減らすことが出来ますので、管理組合側も「品揃えの拡充による利便性向上」のみならず「代替手段(他の運営事業者)の確保」が見込めます。
(参考までに持続可能性を考慮する上で必要となる要件をまとめた記事のリンクを貼っておきます)

【補足:外部利用者を取り込むことを教えてくれたキッチンカー】
余談ですが、この「外からも集客を図る」はキッチンカーの誘致を行った際に、近隣のマンションの方が購入している姿を見て着想を得たのでした。
キッチンカー誘致の段階では自マンションのことしか考えてなかったのですが、どう繋がるか分かりませんね…笑

私2号「いやいや、無理でしょ?」

当然ですが、この時点でデメリットも頭の片隅には浮かんでおります。
一例ですが、当時のメモ走り書きにはこのようなことが書いてありました。

  • 財源:
    工事費用をどこから捻出するのか?

  • 方法論:
    コンビニ運営業者はこの話に乗ってくれるか?
    そもそもどうやって店舗化工事を進めるのか?
    行政との協議や申請は不要なのか?
    外部アプローチ設置時の緑化率は?
    誰が音頭を取るのか?

  • 合意形成面:
    共用施設で苦い思いをした当マンションで検討できるのか?
    外部利用者への開放に伴うセキュリティは?
    周辺環境の治安悪化に繋がらないか?
    現ミニコンビニの跡地活用はどうするのか?
    これらの課題に道筋を付けつつ3/4以上の賛成を得られるのか?

なんのかんので、この時点では私も「これ、無理じゃね?」と考えていたのでした。

理事会「どこから出てきた話?」

2020年9月。コンビニ各社(メジャーコンビニブランドの運営業者・A社と、売り込みに来たパンがおいしそうなB社)と本件の協議が水面下ではじまりました。
水面下というのは、私自身が「課題が多いだろうし、合意形成は無理だろうしで、期待させた挙句に失敗するリスクが高い。そんなものに他の理事役員を巻き込めない」と思っていたからにほかなりません。

過去に散々ミニコンビニの運営が厳しいと言われ続けたこともあり、鼻で笑われるのではないかなぁ…などと思っていたのですが、結果としては、

A社「ウチは乗り気じゃないけど、本部が前向き。協議可能」
B社「居住者専用ミニコンビニは辞退したが、この話は協議したい」

…と、予想外に前向きな回答が返ってきて、

両社「図面作成に進みたいので現地調査と建物情報提供をお願いしたい」

前向きなリクエストが出てきたのでした。

こうして、「キッズルームおよびコンビニの最適化」という「どこから出てきたんだ、この話は?」という内容が2020年秋の理事会で議題に上程され、多くの理事役員が戸惑いの表情を浮かべつつ、「まぁ、情報提供だけなら…」と全会一致でご承認頂くことになったのです。

【言い訳】
こんな早く話が進むとは思わなかったのよ…。

コンビニ各社「工事どうすんの?」

そして理事会承認から2週間もたたないうちにコンビニ各社(A社・B社)から図面が提出されました。
業界特性だと思いますが、早すぎでしょ。

但しここでコンビニ各社からは以下の内容で解消すべき課題が示されました。

  1. 工事分担を決めたく打ち合わせを設定して頂きたい

  2. 店内調理は必須であり、電力容量増強とネットワーク配線についてはこちらで引き込み工事が必須

  3. マンションは再開発エリアで容積率緩和等の諸条件が行政と取り決めされているため、その点は組合側で解消して欲しい

まぁ、書いてあることは今であれば「そうですよね」といった内容ですが、本業が不動産と無縁な業界に属する私が理解するのには少し時間が必要となったのでした。

【まとめると】
要するに、「店舗運営には今の1Fキッズルームの設備じゃ足りん。工事が必要。マンション共用部分を理解している施工業者を連れてこい。話はそれからだ」ということです。

売主&施工業者「10年経ってる」

実は先のコンビニ事業者ヒアリングと前後する形で、管理会社のマンション担当者(フロントさん)とは「この話、どうやって進めましょうね…」等と話をして、そして途方に暮れていました。

理由としては以下の通りです。

  • 当マンションは築10年を経過し、売主が面倒を見る期間は終了

  • その間に(売主のチョンボに伴う)トラブルが多々あり、過去の理事会もそして10年を経過した私の代においても交渉事が発生。(私が察するに)売主側の姿勢としては「あまり関わりたくない管理組合」入り

  • 施工業者からしてみても、理事会の合意形成に手間がかかる割には、工事費用としてはまとまった額にならないため、引き受ける積極的な理由がない

【売主も施工業者もビジネス】
マンションを買うと「死ぬまで売主が面倒を見てくれる」と思っている方も見受けられますが、基本的には瑕疵担保責任に伴う期間が終わったらアフター部門含めて手が離れるわけですから、これらの見解は至極当然の内容だと言えます。

なお、「管理会社はフォローできんのか」と思われるかもしれませんが、共用施設の用途変更とそれに伴う工事は管理会社としては未経験の内容であり、こちらもまた頼ることは出来なかったのでした。

コンサル「売主の協力ないと無理」

とはいえ、コンビニ各社からは「話を進めたければ工事打ち合わせが分かる人を連れてきて欲しい」というリクエストが出ているわけですから、この話を進めるためには何とか話をまとめてくれる人を探すほかありません。

ダメもとで長期修繕計画見直し等で協力頂いたコンサルや、当時お世話になっていたマンション管理士、さらには私自身も何社かに相談を持ち掛けてみましたが、

コンサル「手に余る。せめて、売主/施工業者の協力が得られないと…」

という反応でした。

【大規模修繕工事はコンサルが何社もいるのに…】
本件は最後までコンサル業者を入れずに、最終的な開店まで至っています。
大規模修繕工事とかだとコンサルは何社かありますが、中途半端な規模かつ大掛かりな内容(電力増強等)が入ると施工業者の支援がないとどうにもならないんですね…かなり驚きました。

フロント「やったりましたわ!」

というわけで、完全にここで終わりかなと思ったのもつかの間、フロントさんから以下のお話が…。

フロント「売主と管理会社(売主の子会社)で、既存のマンションに対する付加価値向上を図る取り組みの社内公募がありました!申し込もうと思ってます!」
私「お願いします!」

その後、

フロント「やったりましたわ!」

無事に対象プロジェクトに選ばれ、売主が施工業者に仲介してくれることになり、この話はまた一気に進むことになります。

この期間、コンビニの図面提供から約2週間。
嬉しいですけど、早すぎでしょ。

そのため、コンビニ各社への情報提供決議から次の月の理事会には、「共用施設最適化」という文字がならび、いつの間にか理事会として注力するプロジェクトの仲間入りを果たしたのでした。

【フロントさんの協力がなければ実現できなかった】
この社内公募申込で一気に進展したのもしかり、この先何度も検討中断の危機を迎えることになりますが、その都度フロントさんの仲介(最後は押し切り)で事なきを得ており、この話の最大の功労者は間違いなくフロントさんであると断言できます。

全部言ってよ、一つずつ潰すから

対外的なプレーヤーがようやく揃いつつありましたが、詰めなければならないことはここからボコボコでてくるのでした…。

おじいちゃん「なつかしいなぁ…」

さて、売主から施工業者への働きかけが終わったら、すぐに工事に関する打ち合わせへ。

この時点では、「頓挫する可能性の方が高いし、負け戦になったら責任問題にもなりかねんしなぁ…」で管理組合・理事会側からは私のみで出席対応していました。

■ざっくりとした参加者
・管理組合側:私(理事長)
・組合側サポート:フロント(管理会社)、売主担当、施工業者担当
・コンビニ運営事業者(A社 or B社)

ここでラッキーだったのは、売主の担当者(おじいちゃん)が建設時の当マンションに携わっていたため、行政周りの調整事項や必要要件(例・緑化率等)を把握していたことです。
これにより、おっかなびっくりで話し合いに臨まなくて良くなったので、精神的な安定感は一気に上がりました。

電力会社「1建物1引込、知ってる?」

とはいえ、スムーズに進まないってことは分かっていましたさ!
今度は電気がボトルネックになりました。

コンビニ各社「店内調理はコンビニの収益源。譲れない。区画の電気動力が足りないから増強すべし」

ここをクリアできないことにはまた話が止まってしまうため、施工業者に対応方法を確認したところ、

施工業者担当「コンビニがある共用棟に現在マンションから電力を供給していますが、共用棟に直接送れるように電気を引ければ解決します。但し、電気は1敷地1引込の原則があり、通常は新たに引き込むことは出来ません。もちろん確認しますが…」

と歯切れの悪いコメントが。

1需要場所・1引込みイメージ(経済産業省「「一需要場所・複数引込」及び「複数需要場所・一引込」の電気事業法上の取扱い(電気保安)」についてより図面拝借)

結果→電力会社からはNG回答。
施工業者(詳しい人)、管理会社(社名でいけないか?)、私(マンションの管理者)の立場でそれぞれで当たってみましたが、やっぱりNG。
またしても話が止まってしまうことに…辛い。

【分散化は徐々に進む】
この時は前述の通り1敷地1引込の原則でどうにもなりませんでしたが、その後少しずつこの原則の見直しが進みつつあります
以下、抜粋を記載しますが、申請用途は限定されています。
お願いですから大規模マンションではこの原則を外して欲しいです。

「一需要場所・複数引込」及び「複数需要場所・一引込」の電気事業法上の取扱い(電気保安)について
https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/oshirase/2021/04/20210401-03.html

(抜粋)
令和3年4月に施行された令和3年経済産業省令第11号による電気事業法施行規則(平成7年通商産業省令第77号)の一部改正により、災害による被害を防ぐための措置、温室効果ガス等の排出の抑制等のための措置、電気工作物の設置及び運用の合理化のための措置その他の電気の使用者の利益に資する措置に伴う設備である場合にあっては、「1需要場所・複数引込み」が一定の条件の下、可能となりました。

理事会「コンビニ跡地、どうする?」

電気の話と並行して議論は、
「仮にコンビニを1Fに移設できたとして、2Fのミニコンビニ跡地をどうする?」
という話題に理事会内ではシフト。

結果としては、「ミニコンビニ跡地はキッズルーム化することを想定して、アンケートで需要を確認する」ということに。

【廃案になった私案】
私個人としては、ミニコンビニに隣接するラウンジ(スタディールーム的な空間)も巻き込んで一体整備できないか…とか目論んででおりました。

(がすたま私案)
【ミニコンビニ跡地】
今流行りの半個室のスタディールームにして、そこを年齢制限(例・中学生以上等)を設け、静かな環境を提供
【現ラウンジ】
こちらは小学生程度が使える什器備品も入れて、ある程度会話を許容する空間へアップデート

このアイディアが否決されたのは、「費用が大きくなるし、意思決定プロセスも煩雑になるから」というもの。

結果としては大正解。
アンケートの結果でもキッズルームを残して欲しいという要望は多く(使う使わない以前に、子供がいる空間を排除しないで欲しいというメッセージ性が強い)、最終的な総会上程を考えると、この時の理事役員の皆さんの冷静な判断に今でも感謝しています。
(少し残念ですけど…笑)

A社「うちは迷惑してるんですよ!」

アンケート取得前にどうしても見通しを付けたかったのが「賃料」。

当初は冒頭の通り、「コンビニの持続性が確保できればそれで良い。品揃えが拡充し、商圏が成立すれば良い」と思っていたのですが、

売主「この店舗区画は商圏として成立する…お金を取れる立地です。タダ同然で貸すことは区分所有者の皆さんから理解は得られにくいと思いますので、今後の交渉は頭を切り替えて望んでください」

というアドバイスをいただきました。
今までは「コンビニにいてもらっている」という意識が強かったので、いずれ賃料相談が出来ればなと思ってたくらいだったのですが、経験豊富な売主から見ると正当に要求しても問題ないとのことだったんですね…。

最終的に提案者となる私の立場としては、工事費の回収期間は補助金支出を減らして相殺するモデルよりも、賃料も得ることで少しでも短くするモデルに出来れば言うことはありません。

とはいえ、この話はまだ課題が多く残されており、総会上程すら見通しが立たない状況でしたので、特に現在の運営業者・A社に対しては、下手に賃料のご検討をお願いするところから始めました…が、

「今までうちが売り上げを伸ばして世話してやったのに、賃料とはなんですか!」

・・・怒られてしまいました。。。

私の立場は、「現在は代替業者が他にいないので、何を言われてもキレない」ということで、

私「当組合は深刻な財政難に直面しており、管理費の大幅値上げを決めました。その過程で多くの組合員から支出に対して厳しい意見をいただいております。本件は、今後も御社と共に歩むために必要なプロセスに位置付けており、当組合側でも相応の工事費をもって転換させていただくので、多くの区分所有者の皆様に前向きに受け止めていただけるよう、ご協力頂けないでしょうか」

A社担当「うちは今のままでも困ってないです。今回の話も組合が言い出したことで工事費を持つのは当たり前です。うちも今まで投資した什器代だって無駄になってしまうし、この話自体迷惑してるんですよ!」

と、ひたすら頭を下げてお願いするも平行線。

フロント「さっきから聞いていれば何なんですか、その言い方は! 組合は毎年多額の補助金を支出し、出血し続けているんですよ! 補助金がないと維持できない事情は考慮されないんですか!?」

最後は、横で聞いていたフロントさんがブチぎれて、ようやく検討いただけることになりました・・・。

後にフロントさんから
「理事長が何も反論されないので、つい…すみません」
とお詫びされて、思わず爆笑しながらも御礼を述べたのでした。
本当に私は何も言えない立場でしたので、その心意気がありがたかったのです。

【什器代って…もう8年くらい前の備品っすよね?】
この先何度も「うちは什器代も回収完了していない!」と怒られ続けるのですが、A社とは5年単位で契約しているので、初回の契約は満了しています。
つまり、回収できていないのはA社とコンビニ本部の間の契約なので、本当は私たち管理組合には何も関係ないんですよね…。
(そもそも補助金払ってますし…)

ファシリテーターに徹せよ

先の電気の問題や賃料交渉等、徐々に各種調整・交渉が停滞していったのが2020年の年末頃。
先の通り、理事会議事録にも進捗が乗るようになってしまったことから、停滞が続くことは避けたいという事情もありますので、焦りは募ります。

このあたりで一度初心に帰り、「理事長の私が出来ること=ファシリテーターに徹する」ことに。

打ち合わせには出てますが、私は商業誘致の経験もなければ、工事内容や設備に関しても素人。
どこまで行っても、私に出来ることは理事会で議論できるように前に進めるよう障害を排除することがだけなのです。

(例:電力問題)
私「無理は承知していますが、他に方法はありませんか?」
施工「マンション本棟から共用棟に引き込む方法はありますが…難しいです」
私「例えば何がありますか?」
施工「技術的にできるか技術者の確認が必要です。しかし、技術者は自社社員じゃないので、出張費用は発生します」
私「であれば、それは理事会で承認を取るようにします。金額を見積願います」
施工「技術的にできたとしても、露出するので景観に影響しますし、工事費用も結構なコストが…どこかで全館停電する作業になるでしょうし…」
私「懸念点は全部言ってください。一つずつ潰していきましょう」

このノリ(辺獄のシュヴェスタ第2巻より拝借)

この時点では課題はまだまだま山積していますが、対外的にはこうして一つずつ課題を出しては潰していくことを繰り返していきました。

一方で、マンション内の合意形成~総会上程という大きなヤマが控えています。

次回その⑦は「合意形成」です。

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