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きっかけ

パッポー……パッポー……


街の騒音のど真ん中で無機質なカッコウの鳴き声がこだまする。


交差点を行き交う人々は皆、何か悩むような顔つきで足早に歩いている。

突然、カッコウが鳴き止んだ。するとさっきまで俯き気味だった人々が一斉に顔を上げて走り出した。

まるでさっきまで急かすように鳴いていたカッコウが鳴き止むと、次は見えない何か急かされるように。


「なにを慌ててんだか……」


なんでも他人事のように客観的に人を見る自分が嫌いだった。


私も止めていた足を一緒になって動かし始めた。

周りの大勢に釣れられて横断歩道を渡った。


横断歩道を渡りきって後ろを振り返った。表情のない赤い人が直立したままこちらを見ている。

彼はいつも私に、いや私たちに指示をくれる。


「止まりなさい」
「進みなさい」
「急ぎなさい」


彼に指示されて自分の意思とは関係なく人は皆、動き出す。



大学。就職。恋愛。結婚。将来についていくつもある選択肢。

その岐路に着く度にこの交差点みたいに指示をしてくれる誰かがいればどれほど楽だろうか。


でも、そんな誰かはいない。正解を知っている誰かはいない。

自分の人生なんだから後悔はしたくないから思ったまま、衝動のままに未来を信じる。

さっきみたいに一斉に走り出す人の流れに身を任せて、考えるのをやめることだけはしたくない。



またカッコウが鳴き始めた。赤かった彼は青くなった。


「進みなさい」

彼はそう指示をした。

私は交差点に向かう人混みの中、踵を返して1歩踏み出した。


自分で生き方を決める。この1歩はその最初の1歩だ。


心の衝動のまま。それが私の決心の



きっかけ。


<完>


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