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夕陽1/3

キーン……コーン……


誰もいない夕暮れの教室。全生徒下校の時間を知らせるチャイムが鳴った。



私は読んでいた小説から顔を上げると窓の外を見た。カーテンの隙間から霞んだ夕陽の赤い光が差し込んできた。

チャイムが鳴り終わったら私はカバンを取って教室を出た。さっきまで吹奏楽部が練習していた廊下にはもう誰もいなくなっていた。


廊下を進んでいって中央階段に着いたとき、なぜか階段を登った。帰らなきゃいけないから登る理由なんかなかったんだけど、なんとなく誰もいない場所に行きたかったのかもしれない。



一番上まで階段を登って重く錆びた扉を開いた。錆が削れ落ちるような音を立てて開いた扉の隙間から風が吹き込んできた。


木枯らしの吹く屋上に差す夕陽に誘われるように手すりまで歩いて行った。

手すりの錆を手で払い落してそこに肘をついてぼんやりと校庭を見下ろした。さっきまで人が走り回っていたのに今は部活が終わって帰る生徒の影が伸びていた。



遮るもののない地平線に夕陽が沈み始めて空が一気に赤く染まった。


「はぁ……」


思わず溢れたため息に押されるように涙が溢れて景色がぼやけた。吹いた突風に煽られて崩れたマフラーをもう一回首に巻きなおす。




この時間が好きだった。吐き出した息に紛れて悲しみとか幸せまでもすべてこの夕陽に染まる空に少しずつ迫ってくる暗闇に消えていくみたいで。

誰からも邪魔されずに空が暗闇に少しづつ覆われていくのを見ていると自分の感情に素直になれた。


「今日も終わるんだ……」


赤く染まった空を見ているとなぜか涙が止まらなくなった。溢れる涙は頬を伝って吹いてくる風で乾かされた。




夕陽はさっきよりも沈んで空は暗闇が大きくなってきた。暗い空の中に一番星を見つけた。

沈む夕陽はきれいな星空を連れてきた。そんなふうに今日は終わって今日よりきれいな明日を連れてくる、私はそう信じている。


乾いた頬の筋をまた涙が伝ってきた。


空は星空が広がり始めた。そのきれいな空の下、地平線にまだ残ってる



夕陽1/3。




<完>





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