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ハロウィンのカボチャが割れた

昼休みのグラウンド。秋晴れの抜けるような青空の下でシャツと学ランが入り乱れてサッカーボールを追う。

その風景を眺めながら僕は「オセロなら白が優勢だな」なんて思っていた。


「……い、おい!」

「びっくりした。なんだよ」

「何ボケっとしてんだよ。話、聞いてたか?」

仲のいいクラスメイトがしかめっ面をぐっと寄せていた。

「ごめん、聞いてなかった」

「ったく。こっちは心配してやってるってのによ」

「ごめんって。で、なんだっけ」

「だから、お前の彼女。見かけたって話」

アメリカのコメディドラマばりのオーバーリアクションでそいつは話し出した。こいつがこのテンションの時はかなりめんどくさい。

「あぁ、そうだっけ?」

「そう、駅前でな。それも男と2人!これはもう浮気だな」

Vサインまで掲げて、お前は浮気調査の探偵にでもなったつもりか?蝶ネクタイの小学生に弟子入りでもしてこい。

「そんなわけないよ。ほら、彼女と仲のいい2組のサイトウさん。あの子の彼氏とかなんじゃない?」

「なんで、そう思うんだよ。めちゃくちゃ仲良さげだったぜ?」

「だって、もうすぐ誕生日なんだって。だから、一緒にプレゼント選んでたとか」

「だったらどうして、2人でレストランなんかに入るんだよ」

なんでレストランに入ったの知ってるんだよ。暇か?

「それはほら。プレゼント選びに付き合ってくれたお礼とか?」

「いやいや、休日の昼間とか平日の夕方ならわかるぜ?週末だぜ、週末。それももうほぼ夜だよ」

「週末ったって彼女もそいつも忙しいだろうし、その日しかなかったんじゃないか?」

「だいたい、なんで週末に彼氏と会わないんだよ。お前、暇だっつってただろ?」

「いや、それは……」

そこまで言われて思い出した。彼女は週末、「歯医者に行く」と言っていた。だから会えないと。

「それは、なに?」

「……ううん、なんでもない」

「まぁ、なんだ。1度聞いてみな?やましい事がなかったらそれでいいんだし」

「いーや、あの子は浮気するような子じゃない」

「あっそ。ま、忠告はしたからな」

そう言ってやつは去っていった。



「なぁ、あのさ」

「んー?」

彼女が僕のベッドの上で僕のジョジョを読んでいる。パンツ見えるぞ、バカ。

「この前の週末さ、歯医者行くって言ってたじゃん?」

「言った」

「友達がさ、駅前で君を見かけたんだって。誰かと一緒だったの?」

「駅前?人違いじゃない?」

「そうかなぁ?そいつは間違いないって」

「電車で行ったから、駅前にはいたかもね。でも1人だったよ」

「男といたって」

彼女が少し不機嫌そうな顔で身体を起こした。白か。

「何が言いたいの?」

「……浮気しちゃった、とか?」

僕は精一杯おどけて見せた。サーカスのピエロよりもおどけて見せた。

それがいけなかったのだろうか。後に煽ってきていたあのクラスメイトは「そういう時はシリアスにいかないと」と語った。



「ふざけないで!」


今週末のためにわざわざ買ってきて飾り付けしたハロウィンのカボチャを彼女は思いっきり投げた。

飛んできたカボチャは僕の横をすり抜けて、壁にぶつかって真っ二つになった。

「っぶないな。何怒ってんだよ」

「そりゃ怒るよ!なんで、浮気って決めつけるの?」

「いや、ごめん。冗談だよ」

「言っていいこととダメなことあるでしょ!なんで1ミリでも疑うようなこと言うの?」

「だから冗談だって」

「もう知らない!」

極めつけに手に持ってたジョジョ47巻を僕にぶつけて出ていった。



開いて落ちた漫画と真っ二つに割れたカボチャだけが残った部屋に僕は呆然と座っていた。

カボチャを投げられたことよりも、なんであんなにムキになったのかがわからなかった。

「してないよ」その一言さえあればよかった。それなのにあんなムキになるなんて何かあるんだろうか。

「いやぁ、まさかな」

全部あいつのせいだ。変なことを吹き込むからこんなことになったんだ。あいつがあんなこと言わなければ……


「いや、僕のせいだな」

僕は床のカボチャの欠片を拾った。

「どうすんだよ、今週末」

僕はまだ迷いながら、それでもスマホの中の彼女の番号を押した。

呼出音がしばらく流れた後、彼女が出た。

「あ、もしもし。あのさ……」

僕たちの仲はまだ直せるはず。仲直りしてハロウィンの夜は一緒に過ごしたい。


でも、もしかしたら。このカボチャのようにもう戻らないかもしれない。


〈完〉



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