行くあてのない僕たち
ギギッ……ポーン……
「4時30分に出発致します。それまでに……」
まだ空が青暗いサービスエリア。横一列に整列して息を潜めている夜行バスの群れの中のひとつで僕は目を覚ました。
窓側の席で寝息を立てている君を見て、胸が締め付けられる。あどけない寝顔の君はどんな夢を見ているのか、想像するのも苦しくなって頭を冷やすために外に出た。
小さい頃からいつも一緒だった。世間が羨む『幼なじみ』ってやつだった。
喧嘩をしたこともあったけどひょっとすると僕はずっと好きだったのかもしれない。でもその事には気づいていなかった。
あの日。学校の屋上で君は突然涙を流して言った。
「愛ってなんなんだろうね」
何があったかわからなかったし、聞くこともできなかった。でも、何もしないのは自分が許してはくれなかった。
僕は何も言わずに君の手を引いた。君が止めないのをいいことにこの夜行バスに乗り込んだ。
行先もわからない。この後どうするのかもわからない。それでも僕は君の手を引いてバスに飛び乗った。
少し白くなり始めた地平線を見ていた。コンテナを積んだトラックがエンジンをかけて走り出した。
そんな音を聞きながらどうしようもない気持ちを抱えていると首筋に温かいものが当たった。
「っ!」
「何黄昏てんの?」
振り返ると缶コーヒー持った君が笑っていた。いつから居たんだろう。
「……本当にいいの?」
「君が連れてきてくれたんでしょ?」
「今戻ればまだ間に合うよ」
「……私は君について行くよ?」
このままバスにまた乗り込めば学校は無断欠席だ。もう戻ることは無いだろう。
この旅の先にどんな結末が待ってるんだろうか。しあわせなのかな。衝動だけで動いた愛は誰を傷つけるのだろうか。
しあわせだけを求めたって何も見えず理想の生き方は出来ないことはわかっている。それを支える愛が無力なものだから。
覚悟とか決意とかそんな大それたものはなかった。でもあの時君の手を引いた決断に迷いも後悔もなかった。
これまでもこれからも君がいれば僕は何も怖くないから。それならこの先の決断もただ一つだった。
「ありがとう」
「よろしくね」
エンジンの音だけが響く人もまばらな駐車場。見つめ合って涙を流して抱き合うのは
行くあてのない僕たち。
〈完〉
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