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イーロン・マスク(テクノ・リバタリアン)は、なぜ火星にいくのか?

【超訳】テクノ・リバタリアンとは、自由を重視する功利主義者のうち、極めて高い論理・数学的能力を持つ者たちを指す。テクノ・リバタリアニズムは陰謀ではなく時代の必然である。

【超訳】テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想(橘玲)

テクノ・リバタリアンとは何なのか?

飛行機が乱気流に巻き込まれた時、「墜落する可能性は、ベイズの定理による統計的確率によれば、0.0001%以下だから気にしなくてよい」と答え天才たちだ。これは何も屁理屈を捏ねているのではない。世界が豊かで平和になればなるほど人種、国籍、出自、性別などは関係なくなり、個人の能力だけが公正に評価されるのが「知識社会」である。そこで、高い論理と数学的知能の優れたものこそが、行政、金融、テクノロジーなどあらゆる業界で覇権を握る存在になれる。その代表格がイーロン・マスク(スペースX創業)、ピーター・ティール(ペイパル創業)、サム・アルトマン(オープンAI創業)、ヴィタリック・ブテリン(イーサリアム考案)である。彼らは、何よりも束縛を嫌い、テクノロジーによる統治社会こそが万人の幸せを実現することができると信じる究極の自由主義者なのだ。

PART0(4つの政治思想を30分で理解)はもはや思想の芸術

この本は、PART0(4つの政治思想を30分で理解)を読むだけでも購入する価値がある。橘氏の政治思想を体系図にしたものが下記の図表である。中でも、「社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学–(ジョナサン・ハイト)」の600ページをたった5ページに要約し、自身の道徳論に昇華させている。

リバタリアニズム:ひとは自由に生きるのが素晴らしい。規制は不要だ
リベラリズム:ひとは自由に生きるのが素晴らしい。しかし平等も大事だ
共同体主義:ひとは自由に生きるのが素晴らしい。しかし伝統も大事だ
功利主義:最大多数の最大幸福。政治の役割は効用の最大化だ
ネオリベ:国家の過度な規制には反対。自由で効率的な市場が公正だ
クリプト・アナキズム:暗号管理で国家の規制のないを実現しよう
総督府功利主義:功利性に満ちた監視社会による統治コスパを最大化する

なぜ、イーロン・マスクが火星に移住計画を考えるのか?

テクノ・リバタリアンの特徴として、パターン・シーカーという特徴が挙げられる。なぜ潮の満ち引きがあるか、どうしてそうなるのかなど、人類の進化をシステム思考で考える。進化したサピエンスがアフリカからユーラシアに進出し、6万年前にカヌーで海を渡り、インド洋やオーストラリアに到達したことを考えると、イーロン・マスクが人類の火星移住計画を唱えることは、パターン進化の末裔といえるのだ。(彼の常識が私たちにとっての非常識に映ることの典型例だが、明確な論理と理由が存在している)

また、テクノ・リバタリアンの特徴として、自閉症の傾向がある。しかし、最近の研究で論理・数学的知能(SQ)と言語的知能(EQ)は高いレベルで両立させることは難しいことが分かっている。彼らがコミュ力と呼ばれる認知的共感が低いということも、高度なSQゆえの代償であるのだ。ゆえに、現代の常識や法律、ルールで彼らを縛ろうとすることにそもそも無理があると言えそうだ。

天才の行き着いた結論。それは、競争よりも独占こそが最適戦略

ペイパルを創業したピーター・ティールもテクノリバタリアンの代表格である。彼はフランスの比較文学者ルネ・ジラールが提唱した「わたしたちの欲望は他者の模倣である」という模倣理論に気づき、黎明期のフェイスブックへの投資を即決している。そして起業においては、競争は利益を減らす敗者の戦略以外のなにものでもない。大きな利益をもたらすのは独占であり、そのために協力こそが最適戦略であると考えるに至ったのだ。当然、独占はそう簡単な話ではない。しかし、リバタリアズムが孤軍奮闘であったとしても大きなリスクを背負いにいくには上記のような合理的理由と動機に基づくものである。

「死」を回避したいという究極の欲望

アーネストベッカー曰く、人類の歴史や個人の人生の根底にあるのは、「死」を回避したいという強烈や欲望(あるいは恐怖)だという。テクノ・リバタリアンにとって、生き物も機械も情報という観点では同じ理論で説明できる。”わたし”とは自己の活動を伝え、それによってさらに生成されるデータを伝える読み取り可能な事実と統計数字の集合であり、それこそが人格なのだ。ゆえに死は「技術的問題」であり、テクノロジーによって解決できる課題にすぎないと考える。トランスヒューマニズムの時代には、ひとびとはもはや神を信じることはなくなり、その代わりテクノロジーを崇めることになることとで、「死」の存在がより顕在化してきている。テクノ・リベタリアンにとって死は解決されなければならない問題であり、彼らを突き動かすための究極の原動力といえそうだ。

功利性に満ちた監視社会でひとは幸せに生きられる

ピーター・シンガーによる「効果的な利他主義」という考え方がある。これは善意もコスパで考えるべきで、同じ1万円事前活動に投じるなら、「かわいそうな人たち」ではなく「もっとも有効に使われる団体」に寄付されるべきという考えだ。効果的な団体かは全てランダム化比較試験で客観的に数値化されることで、人的介入を許さずもっと合理的かつ公平な資源分配を実現できる。功利主義的な総督府にとって、統治におけるコスパが最重要である。暗号化という名の総督府がデータ管理することで、全ての市民のニーズを把握、管理、満たすことができるようになれば、ひとびとは目の前の欲望を我慢しなくてよくなる。将来の自分に配慮することはなくなり、人格というものから解放され、刹那的に生きることになる。そのため、総督府功利主義においては、テクノロジーによる監視システムが絶対的に不可欠なのだ。テクノリバタリアンは、アナキストではなく、大半が総督府功利主義者と呼ばれる所以である。

知識社会とは、「賢い者がそうでない者を搾取する」社会

しかし全てをデータ管理化するとは、それを牛耳るものに富と権力が集中し、不平等格差が拡大することを指す。紀元後の世界各地の一人あたりの所得が上昇したのはここ200年の話で1800年間はずっと貧しい時代だった。今後は、さらに上昇し、一人あたりの生活は豊かになるが、一方で圧倒的な貧富の差が生まれる格差社会になることは必然的な流れである。経済格差がなくなると今度は「生きがい」「誇り」の消失による絶望死が増えてくることも米の研究では実証されており、日本でもさらに大きなテーマとして人々が直面する問題である。これは人によっては経済格差を生きるよりも苦しみを生む社会になるのかもしれない。

世界の根本法則「コンストラクタル」

この世界に存在する全ての物質(人間含む)はひとつの単純な規則に従っている。それが「流れがあり、かつ自由な領域があるなら、より速く、より滑らかに動くように進化する」という原理だ。重力に逆らえないように、あるべき形に進化、変化するということだ。これを自由という概念に置き換えると、自由が拡大すれば必然的に階層化が進む。すなわち、社会が豊かになるほど(自由になるほど)不平等格差は拡大していくことである。これは冷徹な進化の法則であり、不公正は生じていない。この不公正を暗号管理で極力排除し、ひとりあたりの所得や満足度の効用最大化を図ろうとうするのがテクノ・リバタリアンの使命なのだ。

自由を恐れる日本社会とパワハラ問題

コンストラクタルの法則は全てを詳らかにしてしまう。新卒入社で40年間終身雇用を前提とした日本社会では年次間の序列と、同期の平等がなにより重要である。能力の格差を暴くことは最大のタブーである日本の社会においてテクノ・リバタリアンの考え方に賛同できない(したくない)という考えは「日本の良き伝統を守れ」「終身雇用は従業員が働くうえでの安心材料」と都合よく言い換えられてしまう。日本の組織制度は「採用されること」と引き換えに、会社にくびきをつけられることを無意識のうちに許容してしまっているのだ。結果、「辞めたくない」「逃げられない」という呪縛にとらわれ「会社に従属するしかない」という考えに至ってしまうのだろう。「会社から逃れられない」というストレスは想像以上に負荷がかかる。追い詰められた思考に陥ると、健全な思考、良好な人間関係は築きづらい。このようにギスギスした人間関係が生まれやすい日本の職場環境は、パワハラの温床にもつながっているのかもしれない。

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