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舞台が人を救う時。

『何処か』で『何か』を『救済』しなくてはならない

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芸術は人に影響を与える為にあって、その影響がプラスに働くものであるならば、究極的には人を『救済』する事に集約されます。

きっと私が作品に何度も助けられているから、演劇関係の従事者としてその世界を私が与えなければならないと感じていました。

あなたの大事な作品は、あなたの人生を何度も救っていませんか?

細かな気付きやヒントを、我々は無意識的に芸術家の作品から、その意図をインスパイアさせられているのです。
もし大袈裟な言い方だと感じているならば、きっと日本が平和な証拠です。
文化芸術の必要性に気づくのは、いつも喪失してからなのです。

大事な作品は絶対にエピゴーネンスケープゴートではいけません。
マテリアルに満ち溢れた独創的なエネルギーが必要で、条件を満たせなかった場合は必ず人の心は上位互換の作品に吸い込まれていきます。

だから私は、現場に『オリジナルのエネルギー』を今でも求めます。
わかりやすく表現すると『その団体の持ち味』が『超強力』なところです。
私が継続してお世話になっている劇団・団体は、もれなく『その団体の持ち味』が『超強力』なところです。

しかしながら、私の業務が果たして人を『救済』しているのか、忙しさにかまけて実感する事もありませんでした。
主な業務はチケットの販売と管理・稽古場付きと当日の受付ですが、制作なので様々な案件が日々舞い込んできます。
演出家から断らざるを得ない予算の相談を受け、
代表からチケットが売れないのは努力が足りないからだと責められ、
役者に稽古場の環境が悪いとクレームをもらい、
事務所マネージャーから稽古スケジュールについての無茶ぶりが来て、
お客様からはリピーター特典の内容に納得がいかないと電話で詰め寄られ、
まるで現場でのゆとりはありません。
自宅事務所と稽古場と劇場の報復の中、果たして『何を救えばいいのか』そもそも『どの問題をどの順番で解決するのが正解なのか』まるで見当がつきませんでした。
でも本当は、人を『救済』する事は大事なわけですから、信念を貫くためにも忘れてはいけないのです。でないと、大切なタイミングできっと倒れる事になります。大黒柱の無い家をやたらに増築していくような感覚で、お金の為に仕事をこなすようになっていきました。

ヒントはいつも違和感の中に

一つの答えがわかったのは、やはりお客様の一言でした。

劇場に足をお運びいただいた方に我々は平等に接します。
基本的にチケットをお買い求めいただいた方には観劇をする権利があります。しかし、例外もあります。

皆さんは、舞台やライブのチケットを手にしたことはありますか?
その際に、裏面を確認していますでしょうか。
チケットをお買い求めいただいた皆様は売買契約を結んでいます。
裏には、その契約内容がびっしりと書き込まれているのです。
下記は一例の抜粋です。すべて読むのが煩わしければ、太字だけでも。

~中略~

【チケットの転売禁止について】
■チケット及びチケット購入の権利を正規料金以外で転売したり、営業上の販売促進若しくはそれに類すると判断される行為に使用することは固くお断り致します。上記に該当すると思われる行為が発見された際は、該当チケットを無効とし、ご入場をお断りすることがあります。この場合、チケット料金・旅費等、一切払い戻しは致しません。
尚、転売行為とは、オークションへの出品・落札、インターネット上の売買、チケットショップ、購入代行業者、ダフ屋や悪質な第三者を通じての売買等を含んでおります。
■友人・知人の方に定価以下でお譲り頂く際、またはチケットを同伴者様へ渡される際は、オークション出品等の転売行為をされない様、チケット購入者様から必ずご説明をお願い致します。
※チケットの譲渡等に関するトラブルの責任は一切負いかねます。
※チケットをご購入されたご本人様以外の入場ができない公演チケットは、如何なる場合も譲渡はできませんので、ご注意ください。

【チケットに関して】
■チケットは1枚につき指定の会場・期日のみ、1名様1回限り有効です。
■チケットは、いかなる事情(紛失、消失、破損など)があっても再発行は致しません。またチケットご購入後のキャンセル・払い戻しも一切できません。公演の終了まで大切に保管して下さい。
■入場前に半券(控券)を切り離すと無効になります。また、チケット券面記載事項が故意に改ざんされ、変更されている場合はご入場をお断り致します。

【その他重要な注意・禁止事項】
■泥酔者の入場はお断り致します。
■都合により、興行内容の一部を変更する場合がありますのでご了承下さい。
■不可抗力により表記日時の興行を中止する場合以外は、他の日時、別種チケットとの交換または払い戻し等は致しません。
■不可抗力により表記日時の興行を中止した場合の払い戻しは、所定の期日内に限り所定の場所にて行います。但し、本券を紛失したり、著しく汚損・破損した場合、払い戻しは致しません。また、興行中止・延期の場合の旅費等の補償は致しません。

公演の内容によっては『未就学児童の入場はお断り致します』の文言が入るケースがあります。
いくつか入場をお断りするケースが見受けられますね。
実際、私の現場でも過去に2回ほど、泥酔したお客様をお断りした事があります。泥酔がどれくらいなのかは現場の判断になるので明確に線を引くのは難しいですが、観劇が難しい状態(まともに席まで向かえない等)ならお断りする、というのが現実的なラインです。

その他、舞台の進行に支障が出るような事は避けなければならないので、
実は、表方は入場に関しての労力をかなり割いています。

私が悩んだのは、携帯用ボンベを利用しているお客様の来場でした。

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独立行政法人環境再生保全機構ホームページからの画像を拝借しました

まずはその方のいでたちに驚きました。顔が真っ青な上に、携帯用ボンベをキャリーでひいてきたのです。キャリーから伸びた管は鼻に挿入されていて、おそらく空気を送り込んでいるところまでは想像に難しくありませんでした。チケットを持ってまっすぐ劇場の入口に向かってきます。

後から聞いた話ですが、そのお客様は『呼吸器系の病気』を患っていて、酸素がうまく吸入できない状況だったようで。

その当時、恥ずかしながら私は勉強不足で、酸素療養をしている方だとはわかりませんでした。その場ではそのマシンの性能やら効果やら特性やらを知る術が無く、例えばその酸素ボンベが音を発するのかどうかもわからない有様です。もし音が鳴るようであれば、可能な限り音を小さくしていただく等のお願いをしないと演出効果の妨げになるのでアナウンスが必要です。
何より、見たところ本人の息も上がっていたもので、最後まで観劇可能かどうか不安な面もありました。最後まで安全に観劇できるか、疑問でした。

しかし、その思考にほんの少しだけ違和感を感じました。
私の仕事は、サービスは、どこを目指しているものだろうか。
チケットの裏面に記載された注意事項には、このお客様を止める内容は一つもありません。逡巡しました。
劇場内で倒れるような事があっても困るから止めるべきか。しかしそれは差別にあたるのだろうか。
といって、手放しに自己責任なのでと突っぱねて客席にそのまま案内するのもサービス内容として疑問を感じる。
このお客様は心配されることを望んではいないだろうが、状況的には一度お伺いが絶対に必要だ。しかし何とお声がけしたものか。どのようにお声がけをしても、そのお客様を傷つけてしまうのではないか。

切ったチケットをしまうお客様に「あの…」とお声がけしたまま、固まってしまいました。対面して数秒の事ですが、私の中では長い時間争っていたように感じます。
すると、そのお客様が口を開きました。
「ありがとうございます」
と聞こえました。

蘇る逆転

聞き違いかと思いました。
「はっ?ばっはっ?」みたいな言葉を言ったような気がします。
驚いている間に、お客様はスタスタと劇場内へ入ってしまいました。

しまったと思いましたが、言い淀んでいる時点で私の力不足です。
何か思い違いをさせてしまったのではないだろうかと、本来なら追いかけてお話するところなのですが、その足取りと凛とした背中を見て思いとどまりました。

あまりにも爽やかな雰囲気だったもので。
そう、お客様はすでにその劇場という非日常空間を楽しんでいたのです。

率直に言うと、意外でした。苦しがっているような表情だったからです。

考えてみれば、酸素ボンベを使っているだけの普通のお客様なのです。
舞台を楽しみに来場されるのは至極当然の事でした。
これは、他の障がいを抱えている方も同様です。
耳が聞こえないだけ。
手足が動かないだけ。
思ったことがはっきり言えないだけ。
それだけなのです。

振舞いから察するに、観劇慣れしているお客様のようです。余計な事は言わずご観劇いただいたほうが吉と判断しました。
念の為、本番中に扉前で配置しているスタッフさんにそっと存在をお伝えして、何かあったら呼んでくださいとお願いしました。

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アクション多めの本番が終わり、終演後に楽屋前でお客様を見つけました。どうやらキャストの知り合いらしく、ご面会されているようです。素敵な笑顔で舞台の感想をああでもないこうでもないとお話されていました。本当にそのキャリー必要なの?ってくらいに。

ふと私に気づいて、お話をきってこう言いました。

「あなたのおかげで楽しく拝見できました。ありがとう!」

またも聞き違いかと思い、「をっはっりがとうござますっ」とかなんとか発音したような気がします。いづれにしろ間抜けな言葉です。

この時に気づいたのです。
私は救われていました。

なるほど、真っ先に救わなければいけないのは私自身でした。
何考えて仕事してたんでしょうね。

『何処か』で『何か』を『救済』しなくてはならない
に当てはめるのであれば
『劇場』で『私』を『まず救済』しなくてはならなかったのです。

そこに人がいることがまず芸術

語弊を恐れず言うならば、おそらく私は区別ではなく差別をしていたのだろうと、振り返って思います。逆にです。
本当に色々思っていたのならば、あの時、自分の知識不足をお伝えし、堂々とヒヤリングをすればいいし、必要な内容をお話すればいいのです。
どこかでカッコつけたかったのと、余計な思いを拗らせてしまい、妙な対応になってしまいました。
おそらくあのお客様は、行く先々で気をつかい、気をつかわれているのでしょう。その方が困ることがあれば手を差し伸べればいいだけ。偶然その形になっていたのでお礼を言われたのではないかと推測しています。
そんな三流のスタッフにもお客様が優しい言葉をかけてくれる場所。それが劇場です。

冒頭で触れた『芸術』についてですが、
人に影響を与えるものが芸術なら、一番身近なのは『人間』です。
まず我々があるがままに生きている世界が『芸術そのもの』なのです。

日々お忙しいとは存じますが、
皆さんも是非、劇場に芸術を感じに来てください。
人が生きている、ただそれだけ感じられれば充分です。

やがて人だけでなく世界に意識が拡がっていき、無機物の『紙』『石』に時を閉じ込めたりして影響を与えられるところが芸術の素晴らしいところではないか…と個人的に感じます。

「パリのルーブル美術館の平均入場者数は、一日で4万人だそうだ
この間、マイケル・ジャクソンのライブをTVで見たがあれは毎日じゃあない
ルーブルは何十年にもわたって毎日だ
開館は1793年
毎日4万人もの人間がモナリザとミロのビーナスに引きつけられ
この2つは必ず観て帰っていくというわけだ」
ジョジョの奇妙な冒険『ストーンオーシャン』第11巻 DIOの台詞より

ご来場いただいたお客様に私は『ありがとうございます』と言います。
これはもちろん『舞台を観に来てくださって本当にありがたい』という気持ちも含まれていますが、もっとこもっているのは『生きて逢えて嬉しい』という喜びです。

お帰りになる際に必ず『お忘れ物にご注意ください』と言います。
これには『今日という人生を忘れないでください』とこめています。

また、言える日を楽しみに、日々、生きていきます。
それまで、くれぐれもお忘れ物にご注意ください。


尚、購入したチケットに稀に手書きで暗号が書いてある事があります。
これは助けを求めている者がいる動かぬ証拠です。しっかり感じ取れば微弱な信号ですが暗号を解くキーが脳に直接届きますので、頭のアルミホイルをただ巻くのではなく三角錐の形に整え

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