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スラッシュリーディングを/言語学的に/考える (3)-2|関係節/そこで/切ったら/意味/変わる

前回に引き続き、本記事でもスラッシュリーディングと、実際に英語を話す際にポーズを置くべき箇所・置くと不自然な箇所について解説していきます。

今回は、特に日本人英語学習者が誤解をしていることの多いという印象のある、関係節を含む文の区切り方をみていくことにしましょう。

理解のための﹅﹅﹅﹅﹅﹅スラッシュ(/)は補助線になりうるが…

スラッシュリーディングの手法を取り入れた英語の教材・参考書では、ほぼ例外なくと言って良いほど、先行詞と関係詞の間にスラッシュが引かれています:

(1) The woman / who lives next door / is an artist.
「女性は / 隣に住んでいる / 芸術家です」[関係代名詞・主格]

(2) This is the book / which I bought yesterday.
「これが本だ / 私が昨日買った」 [関係代名詞・目的格]

(3) Osaka is the city / where I was born.
「大阪は都市だ / 私が生まれた」[関係副詞]

上のようなスラッシュも、英語学習の初期段階において、関係詞という文法項目を理解するための補助線として機能しうること自体は否定しません。

以下に示すように、、一度区切って、先行詞が関係節の中のどこに・どんな形で戻るのか?という考え方に習熟することは有効であると言えるでしょう:

(1): 関係節 [who lives next door] → 先行詞 womanを修飾
she lives next door.’ (she = woman)の関係が成立(人・主語・代名詞)

(2): 関係節 [which I bought yesterday] → 先行詞 bookを修飾
‘I bought it yesterday.’ (it = book)が成立(モノ・目的語・代名詞)

(3) 関係節 [where I was born] → 先行詞 cityを修飾
‘I was born there.’ (there = city)が成立(場所・副詞)

話すときに区切るのはNG!!

しかし、上の (1)~(3)の例もそうですが、先行詞と関係詞の間がカンマ(,)で区切られていない、いわゆる制限用法の関係節の場合、話す際に関係節の前でポーズを置いて区切ることはありません!(他方、以下の(4b)のような非制限用法の場合は、カンマに合わせてポーズを置いて区切ります。)

(4) Who's Nikki?
「ニッキーって誰?」
— (a) She's my sister who lives in CANada.
「カナダに住んでいる姉/妹です。」[制限用法]
— (b) She's my SISter,|who lives in CANada.
「姉/妹です。カナダに住んでいるんです。」[非制限用法]

太字はそれぞれ区切られたグループ(専門的には「イントネーション句:Intonation Phrase (IP)と呼ばれる)の中で強く読まれる音節・大文字+太字は最も重要なアクセント(核アクセント)が置かれる音節を表しています。

『英語のイントネーション』p.302

日本の英語教育では、(4a)と(4b)のニュアンスの違い、すなわち、(4a)では話し手に姉/妹が2人以上いることが暗示され、その中からカナダに住んでいる1人を特定して選び出し、その人が Nikkiである(別の姉/妹ではない)と答えているのに対し、(4b)では、話し手には姉/妹が Nikkiの1人しかおらず、「(ちなみに)カナダに住んでいる」という情報を付加的に述べている…ということは時間を取って詳しく説明されることが多いでしょう。

ですが、いくらその区別を知識として理解していても、正しく発音し分けることができなければ、せっかく学んだニュアンスの違いも伝えられず、「使える英語」になりません。

もっと言えば、スラッシュリーディングで、制限・非制限用法を適切に区別せずに、味噌クソ一緒に関係詞を見かけたらその前で区切り、つまりは一様に非制限用法であるかのように読んでいくという悪癖をつけてしまうことは、理解・実用の両方の意味で、正しい英語力を身につけていくことから離れていく行為だと言えます。

英語教師としては、目の前の生徒が、制限用法であるにもかかわらず、先行詞と関係詞の間で区切って話したり音読をしているのに気づいたら、学習段階のなるべく早い段階からでも、「そこで切らない!もう一回!」とやり直させるのが「指導をする」と言うに値する姿。ましてや、教員自身がそこで切った読み方を生徒に示すなどというのは問題外でしょう。

言語学的な背景:制限用法では先行詞と関係節の間で区切らない理由

それでは、なぜ制限用法では先行詞と関係節の間では、ポーズやイントネーション上の切れ目が置かれないのでしょうか?

前回の記事で解説した、「ポーズ(休止)の後は構成素」という大原則だけを考えれば、関係節というのは、それだけで構成素をなす要素ではあります。

しかし大事なこととして、制限用法の関係節は、先行詞である名詞(句)を修飾する、大きな名詞句の一部として機能する要素であり、意味的にも先行詞と関係節は切っても切れない結びつきの強さがあります。

例文として、(5)を検討してみましょう:

(5) She married someone that she met on a bus.
「彼女はバスで知り合った人と結婚した。」

Practical English Usage 4th ed. 234:2
日本語訳はガリレオによる。

(5)を樹形図で示すと、概略、以下のようになります:

She married someone that she met on a bus.の樹形図
(5)の樹形図
※PRN = 代名詞 (Pronoun)

ここで、上図で赤い丸で囲われている、目的語 (Object)として機能している名詞句 (NP)に注目すると、意味的に関係節の情報がなければ十分な情報が伝えられない文となってしまうことが見てとれるでしょう:

(5') She married someone. (!?)
「彼女は誰かと結婚した。」(≠(5))

さらに、「スラッシュリーディングを/言語学的に/考える (2)」の記事で紹介した構成素テストを適用してみても、「ひとまとまりの要素」として疑問文の答えとして成立したり、代名詞による置き換えが可能なのは、先行詞+関係節からなる名詞句全体であることがわかります:

(6) Fragment Test: 疑問文の答えになるか?
Who did she marry?
「彼女は誰と結婚したの?」
Someone that she met on a bus.
「バスで知り合った人と。」
Someone.
誰かと。

(7) Substitution Test: 代用形で置き換えられるか?
She married someone that she met on a bus.
→ ◎ She married him.
She married someone that she met on a bus.
→ × She married him that she met on a bus.

以上のことから、制限用法の場合、先行詞と関係節の間で区切ってはいけないということが、より強力に示されたのではないかと思います。

他の後置修飾の構造でも同じことが当てはまる

ここまで解説してきたことは、先行する名詞(句)がどのようなものであるか細かく指定する役割を果たす後置修飾であれば全般に成り立ちます。

まず、会話で頻繁に用いられる、(目的格の)関係詞が省略された、専門的には接触節 (contact clause)と呼ばれる関係節の場合も、先行詞と関係節の間で区切られることはありません:

(8) Where's that pen I was using?
「私が使ってたあのペンどこ?」

(9) That's my coat you've taken!
「あれってあんたの持ってった私のコートじゃん!」

英語のイントネーション』p.303
太字は文中でアクセントが置かれる音節を示している。

同様に、関係節でなくても、以下のような場合も、先行する名詞を後置修飾する要素が「どのようなものであるか?」と制限する役割を担っており、従って名詞と修飾句の間で区切って発話すると不自然になります:

(10) Look at that house near the bus stop. (= not the other houses)
「バス停近くのあの家を見て!(=他の家ではなく)」
(11) Bicycles chained to the railings|will be removed.
「チェーンで柵に固定された自転車は、撤去されます。」

同上

ではどこで区切れば良いのか?

(11)の例で縦棒(|)によって示したように、関係節や後置修飾句の【後】にはポーズおよびイントネーションの切れ目が置かれる傾向が高くなります。これは単純に、「先行詞+関係節/後置修飾句」からなる名詞句は比較的長くなるため、まさに「ひとまとまり」を言い終えたら一呼吸…という感じで捉えてもらえば良いでしょう。

非制限用法はカンマに従って区切る

他方、非制限用法の関係節については、カンマを手掛かりに区切れば大丈夫ですので、学習上の問題となることはないでしょう。

非制限用法の関係節は、先行詞に対する補足情報を述べるだけであり、上で解説した制限用法の場合と異なり、関係節を除いても、完結した情報を伝えられる文が残るという違いがあります:

(12) She married a very nice young architect from Belfast,|whom she met on a bus.
「彼女は Belfast出身のとても素敵な若い建築家と結婚しました。バスで出会った人なのですが。」

→ She married a very nice young architect from Belfast.
「彼女は Belfast出身のとても素敵な若い建築家と結婚しました。」

Practical English Usage 4th ed. 234:2
ポーズを示す縦棒(|)および日本語訳はガリレオによる。

あまり言語学(特に生成文法)の世界で見るような樹形図ではありませんが、The Cambridge Grammar of the English Languageという著名な英文法書の p.1062を参考に (12)を図示すると、以下のような構造になります:

She married a very nice young architect from Belfast, whom she met on a bus.の樹形図
(12)の樹形図

まとめ

以上、今回はスラッシュリーディングを英語学習に取り入れた際に、最大と言って良いほど問題になりやすい、関係節を含む文の区切り方について解説を行なってきました。

必須情報なのか補足情報なのか?・関係節を除いても相手に十分な情報を伝えられるか?ということを考え、関係節の前で何でもかんでも区切るという、日本人英語学習者に多く見られる悪癖﹅﹅を改善していきましょう!

参考文献

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