スラッシュリーディングを/言語学的に/考える (2)|それは/まとまり?
前回の記事では、スラッシュリーディングにおいて、どこで区切るかを判断する基準として、「意味のまとまり=構成素 (constituent)」であり、できるだけ大きな構成素どうしの間でスラッシュを入れると良いことを解説しました。
今回は、「ある単語の羅列が本当に構成素をなしているかどうかは、どのように判断すれば良いの?」という疑問に対し、言語学的視点から、語学学習者にとっても直観的に使いやすいと考えられる構成素テストの方法を紹介・解説します。
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Fragment Test: 疑問文の答えになるか?
最初に紹介する構成素テストは、the fragment testと呼ばれるものです。こちらを使う際には、疑問文に対して(反抗期の中学生のように)なるべく「ぶっきらぼう」に答える…ということを考えてみてください。
調べたい単語の羅列が、それだけで過不足なく疑問文の答えとして成り立つ場合、構成素をなしていると判断できます。具体例として、前回の記事でも用いた (1)の文を考えてみましょう:
まず、‘the teacher’が本当に構成素であるかテストしてみましょう。そのために、‘the teacher’だけが過不足なく答えになるような疑問文を考えます:
上から明らかなように、‘the teacher’は、ぶっきらぼうな答え方ではあるにせよ、(2)の疑問文への応答として適切なものです。したがって「‘the teacher’は確かに構成素である」と判断することができます。
一方、‘the teacher scolded’だと、どうでしょうか?
(3), (4)いずれの疑問文にしても、‘The teacher scolded.’と答えようとすると、疑問文の中に既に現れている情報との重なりが生じ、「過不足ない応答」にはなり得ません。
‘Who did what to the students in the garden?’「庭で/庭にいる学生たちに、誰が何をしたの?」という疑問文を作れば、‘the teacher’と ‘scolded’という2つの情報を一度に尋ねることは不可能ではないにせよ、その場合でも ‘The teacher scolded.’だけで答えるのは不自然と考えられます(解釈①なら ‘The teacher scolded them there.’, 解釈②なら ‘The teacher scolded them.’のように、疑問文の中に現れた情報は代用表現 them, thereなどで補って答える方が自然と言えるでしょう)。
以上のことから、‘the teacher scolded’という羅列は (1)の文で構成素をなしているものではないと判断できます。
‘the students’については、解釈①の場合なら、それだけで構成素であると言えます。以下の応答を考えてみましょう:
解釈②の場合、‘Who did the teacher scold?’「先生は誰を叱ったの?」に対して ‘The students.’だけだと厳密には正確な答えになりません。なぜなら、学生たち全員が叱られたのではなく、あくまでも「『庭にいる』学生たち: the students in the garden」という下位集合に属するメンバーだけが、先生に叱られたという状況だからです。
それに対し、‘the students in the garden’は、解釈②の場合のみ構成素を形成していることになります:
最後に ‘in the garden’に関しても、解釈①・②の違いによって、それが構成素であるかという判断は分かれます。そこだけを過不足なく尋ねる疑問文が作れるのは、解釈①の場合のみです:
解釈②の場合、‘in the garden’は ‘scold’の行為が行われた場所を表しているのではないため、疑問詞 whereを用いて尋ねる対象になりません。
他にも、たとえば ‘teacher scold the’や ‘students in’のような羅列が構成素を形成していないことは、それだけで過不足なく答えが成立する疑問文が作れるか?と考えてみることで可能性を排除できることが分かるでしょう。
Substitution Test: 置き換えられるか?
構成素をテストする方法として、もうひとつ the substitution testというものもあります。ある単語の羅列が代用形 (pro-form)で置き換えられるならば、それは構成素をなしている、と考えます。
最も分かりやすいのは、名詞句→代名詞の代用でしょう。たとえば (1)では、‘the teacher’を she/heまたは性別の区別をつけずに単数形を受ける代名詞としての theyで置き換えることができます:
このように、代名詞は「名詞句全体」の代用となるため、正確を期すならば本当なら「代名詞句」と呼ぶべきなのです。しかし、英語の ‘pronoun’にしても日本語の「代名詞」にしても、もう既に用語として定着しきってしまっているため、今さら人為的に変更できないというのが現実のところです…
さて、では (1)の ‘the students’の代用はどうでしょうか?こちらについては、解釈①と②の違いを考慮する必要があります:
解釈①の場合なら、「先生は庭で彼らを叱った」の意味で、‘the students’は themによって置き換え可能です。しかし解釈②では、‘the students’だけを themで代用することはできず、置き換えるならば ‘the students in the garden’全体をターゲットにしなければなりません:
次に、動詞句の代用形 do soを試してみましょう。(1)の解釈①では、‘scolded the students’および ‘scolded the students in the garden’全体のどちらも、did soで置き換えて繰り返しを避けることができます:
ここでも、解釈②を採用すると、did soで代用できるのは ‘scolded the students in the garden’「庭にいる学生たちを叱った」全体のみになります:
最後に ‘in the garden’についても、解釈①であれば代用形 thereによる置き換えが可能です:
まとめと注意点
構成素テストに共通する「気持ち」の部分とは、まとまりをなしている要素であれば、そこだけを取り出したり (→ fragment test)、置き換えたり (→ substitution test)することができるというものです。
色々な制約のために上手くいかないケースも多いため、本記事では省略しましたが、構成素であれば、そのまとまりだけを動かすこともできるというテスト方法もあります。参考までに、分裂文(いわゆる ‘It is ~ that…’の「強調構文」と呼ばれるもの)の例だけ軽く紹介しておきましょう:
このように、‘It is ~ that…’の「〜」部分に動かすことのできる要素は、それぞれの解釈において構成素をなしていると判断することができます(※ただし、このテストは名詞句と前置詞句にしか使うことができません)。
また、構成素テストを用いるときの注意点として、「疑問文の答えとして成立したり、代用形によって置き換えられるならば、その単語の羅列は構成素である」という方向では成り立つのですが、「いずれかのテストにパスしない場合は構成素ではない」という方向では成り立たないということです。言ってみれば、「テストに合格した者は学生である」のが妥当であるとして、「テストに不合格なら学生の身分を即剥奪される」というわけではない…といった感じでイメージすると分かりやすいでしょうか?
本記事で本記事で2つのテスト方法を紹介したのもそのためであり、構成素かどうかを調べる際には、特定のテストだけで判断するのではなく、複数の方法を試してみるという考え方を持って、活用していただければと思います。
参考文献
→「第8章 文を作る仕組み:統語論1」(牛江一裕, pp. 102-117)
→ 2.6 Testing structure (pp. 58-69)
→ 2. Diagnostics for Syntactic Structure (pp.65-122)
→ 3.4 Constituency Tests (pp.91-93)
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