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スラッシュリーディングを/言語学的に/考える (1)|どこで/区切る?

YouTube解説動画 ver.

どこで/区切るか/それが/問題だ。

外国語学習法、特にリーディング力を伸ばすことを目的とした学習法として、スラッシュリーディングというものがあります。具体的には、文(章)を意味のまとまりごとにスラッシュ (/)を入れて区切り、そのまとまりごとに語順通り内容を読解していく方法で、以下のようなメリットとデメリット(学習上の難しさ)が考えられます:

メリット

  1. 意味のまとまりや文の構造に意識が向くようになる。

  2. 語順通りに意味を理解しながら読んでいくため、返り読みを防ぐことができる。

  3. それにより、読解スピードが上がることが期待できる。

  4. 「返り聞き」のできないリスニングの理解力向上にもつながる。

デメリット(学習上の難しさ)

  1. あらかじめスラッシュが引かれている教材の文章なら良いが、自力でスラッシュを入れる際に、初学者はどこで区切れば良いか分からない自分の引いたスラッシュの位置が正しいか自信が持てない

  2. 文(章)を理解するためにはスラッシュを入れるのが妥当な箇所であっても、話す際に同じ箇所で区切ると誤解を招いたり、自分の意図する意味で正確に伝わらない場合がある

実際、Google検索窓に「スラッシュリーディング」と入れると、「区切り方」や「どこで区切る?」のようなキーワードと一緒に検索されていることを見て取ることができ、学習者にとって上記デメリット1がスラッシュリーディングを自分の学習に取り入れる際のハードルとなっていることが推察できます。

Googleで「スラッシュリーディング」と一緒によく検索されているキーワード
黄色ハイライトはガリレオによる。

そこで今回の記事では、スラッシュを入れる基準として言われる「意味のまとまり」とはどのように考えたら良いのかを言語学的な視点から解説し、上記デメリット2についても少し触れておきたいと思います。(デメリット2で挙げた「理解のためのスラッシュの位置と、話す際にポーズを置く際のルール(英語の場合)」については、別記事として改めて詳しく解説する予定です。)

「意味のまとまり」とは? → 構成素 (constituent)

具体的に考えていくために、まずは以下の英文を例にスラッシュの入れ方を見ていくことにしましょう:

(1) The teacher scolded the students in the garden.
「先生は庭で学生たちを叱った。」

英語のイントネーション』(J.C. ウェルズ, 長瀬慶來 [監訳], 2009, 研究社)
p.281掲載の例文を参考に改変

(1)くらいの英文なら、わざわざスラッシュを入れなくても理解できる!…と思うかもしれませんが、この例にはちょっとしたカラクリもあるので、まずはここから読み進めていってもらえればと思います。(ですが「簡単すぎる!」と感じる場合は、目次機能を使って先の節まで進んでください。)

(1)に限らず、文というものは単語が適当に並んでいるものではなく、特定の語(句)は別の語(句)とより緊密な関係性にあり、階層的な構造を作り上げます。例えば (1)では、文頭の Theは teacherと結びついて文の主語として機能する名詞句を構成し、動詞 scoldedは、まず目的語としてはたらく名詞句 the studentsと結びつき、前置詞 in + 名詞句 the gardenによって構成される前置詞句によって修飾されます。

…などと、ことばで説明するよりも、以下の図を見てもらった方が早いでしょう(もちろん、このような樹形図が自分で書けなくても、学習上は全く問題ありませんので安心してください):

(1) The teacher scolded the students in the garden. の構造を示した樹形図
(1) The teacher scolded the students in the garden. の構造を示した樹形図本記事の議論に必要な要素に絞って示した(これでも!)簡易的なものであり、学術的・専門的な厳密性を追求した図ではありませんので、ご了承ください。

【用語の説明】
上の図で、青字は文法的なカテゴリー(ざっくり言えば品詞)・緑字は文中での機能を表しています。

・Sentence: 文
・NP: 名詞句 (Noun Phrase)
・VP: 動詞句 (Verb Phrase)
・PP: 前置詞句 (Prepositional Phrase)

・Subject: 主部/主語* (S)
・Predicate: 述部/述語*
・Object: 目的語 (O)

※ガリレオ個人的には、「語 = word」とするなら「主部・述部」という訳語を用いる方が正確と考えていますが、慣習的に「主語・述語」も多用されるため、本記事では併記しています。

この樹形図を見て、心が折れそうになっている読者の方もいるかもしれませんが、大丈夫です!なぜなら、いわゆる学習英文法でよくやる、S, V, O, C, M (or A)といった構造を考えていく「文型分け」と、基本的にやっていることは同じだからです。

上の樹形図をもとに (1)に適切なスラッシュを入れていくことを考える場合:

  1. ‘The teacher’(主部)と ‘scolded the students in the garden’(述部)に分けられる。
    → The teacher / scolded the students in the garden.//

  2. 述部 ‘scolded the students in the garden’は、述語動詞 scoldedと目的語 the studentsがより緊密に結びついた core VP(用語は Haegeman (2006)による)と、修飾部としてはたらく PP ‘in the garden’に分けられる。
    → The teacher / scolded the students / in the garden.//

  3. 以下は、あまり細かくスラッシュを入れすぎて、最終的に単語ごとにぶつ切りにしてしまうと、スラッシュリーディングの趣旨から外れてしまうので、STEP 2くらいまでが妥当なところと考えますが、理屈上は単語ごとよりも1つ大きなレベルで、次のように区切ることが可能です。
    → The teacher (誰/何が?) / scolded (どうした?) / the students (誰/何を?) / in / the garden. (どこで?/いつ?/どんなふうに?なぜ?などの捕捉情報) //

ですので、最初に (1)くらいはスラッシュなしでも理解できる!と考えた人は、別な言い方をすれば一番上の節点:Sentence単位でスラッシュを入れている、ということになります。

以上より、本記事の最大のポイントとして覚えてほしいことは:

意味のまとまり=構成素 (constituent)として1まとまりになっている単位

ということであり、構成素と構成素の間にスラッシュを入れている限り、読解の目的においては、それが間違いになることはないと考えてもらって大丈夫です。

次回予告:では/構成素か/どうかは/どうやって/判断する?

…となると、次に湧き上がってくる疑問は、「ある単語の羅列が本当に構成素をなしているかどうかは、どうやって判断すれば良いの?」ということになるでしょう。

これについては、いくつかテストの方法が存在し、言語学(特に統語論:syntax)を学び始めると、最初に徹底的に鍛えられる重要なポイントです。

そのようなテストの中から、学習者にとっても直観的に使いやすく、判断もつけやすいであろうものをピックアップして、次回の記事で詳しく解説しようと思いますので、そちらの公開をお待ちください。

【🚨会話の時には注意】:本当に/そこで/切って/正しく/伝わる?

さて、最後に伏線回収。

実は (1)の文はあいまいで、(2)に示すように、前置詞句 in the gardenが動詞 scoldedの示す行為がなされた場所を示すのではなく、名詞 studentsを修飾する解釈も可能なのです:

(2) The teacher scolded the students in the garden.
「先生は庭にいる学生たちを叱った。」

英語のイントネーション』(J.C. ウェルズ, 長瀬慶來 [監訳], 2009, 研究社)
p.281掲載の例文を参考に改変

すなわち、生徒たちを叱った先生自身は庭にいる必要がなく、たとえば「勝手に庭に出て遊んでいる学生たちを職員室や教室の窓から見つけて、室内から『おい!お前ら何やってんだ!』と叱りつけている」といった状況の場合の解釈が (2)に相当します。

こちらの解釈に基づいて文構造を樹形図で表すと、以下のようになります:

(2) The teacher scolded the students in the garden. の構造を示した樹形図

(1)の解釈の場合の樹形図と見比べてもらうと理解しやすいでしょうが、(2)の解釈では、前置詞句 ‘in the garden’が名詞 ‘students’とより密接に結びついています。

したがって、英文理解のために studentsと in the gardenの間にスラッシュを入れるのは、構成素の間で区切っていることになるので問題ないとは一応言えるのですが、この文を発話する際に  studentsと in the gardenの間でポーズを入れると、(1)の解釈の方が自然となり、(2)の意味では伝わりにくくなってしまいます:

(3) The teacher scolded the students in the GARden.
→「先生は庭で/庭にいる学生たちを叱った。」(解釈はあいまい)
(4) The teacher scolded the STUdents | in the GARden.
→「先生は庭で学生たちを叱った。」(こちらの解釈が自然)

※太字で示した音節が強く発音され、大文字で示した音節に核アクセント(イントネーション句として区切ったまとまりの中で最も重要な情報を示す)が置かれる。|はイントネーション句の境界を表し、発音時にポーズが置かれる。

参考:『英語のイントネーション』(J.C. ウェルズ, 長瀬慶來 [監訳], 2009, 研究社)

このように、理解のための﹅﹅﹅﹅﹅﹅スラッシュリーディングにおいて、スラッシュを入れる箇所として妥当な場所であっても、話す際にポーズを置ける場所とはズレが生じる場合もあることは、あまり学習者に知られていない盲点であるという印象を持っています。

この点についても、特に日本語ネイティブの英語学習者が注意すべき箇所を取り上げて、より詳しく別記事にて解説を深めていく予定ですので、続きをお楽しみに!

参考文献

こちらの訳本が以下のものになります:

本記事で示した樹形図は、UCLの Syntax Iの授業テキストでもあった、Haegeman (2006)の考え方を参考にしています:

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