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スラッシュリーディングを/言語学的に/考える (3)-1|音読/そこで/切って/大丈夫?

一般に、スラッシュリーディングを取り入れた教材では、英語のテキストを意味のまとまりごとにスラッシュ(/)で区切り、その区切られたフレーズごとに音読練習を促すものがよく見られます。

しかし、「スラッシュリーディングを/言語学的に/考える (1)」の記事でも軽く言及したように、理解のためにスラッシュを入れる位置として妥当な箇所と、実際に英語を話すときにポーズを置く位置として自然な箇所は、必ずしも一致しないことがある点には注意が必要です。

そこで本記事では、英語学習者が押さえておくべきポイントを取り上げて、文中でポーズを置くべき位置・置くべきではない位置について解説していきます。

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大原則:ポーズ(休止)の後は構成素

まず絶対に覚えておいてほしい原則は、以下のようなものです:

(1) 休止によって分割される右側の語連鎖が統語句に対応しているなら、休止の位置は適格であるとみなされる。

『授業力アップのための 一歩進んだ英文法』p.17

この「スラッシュリーディングを〜」の記事シリーズでは「構成素と構成素の間で区切る」ということを繰り返し強調してきましたが、(1)が言っていることは要するに、英語を話す際には、ポーズ(休止)の【後】が構成素であることが必要ということです。具体例を見てみましょう。

主語名詞句の直後

主語(S)として機能する名詞句の直後には、典型的にポーズが置かれます。以下、スラッシュ(/)と区別するために、ポーズの位置は縦線 (|)・文の境界の大休止は複縦線 (‖)で表記します:

(2) The head of a large school|has a lot of responsibility.
「大きな学校の長は、多くの責任を持つ。」

(3) London and the southeast|will have showers.‖The rest of the country|will be dry.
「ロンドンおよび南東部は、にわか雨でしょう。その他の地方は、晴れるでしょう。」

例文出典:『英語のイントネーション』p.296

以下の樹形図で例示するように、この位置は主部と述部の境界となり、ポーズの右側(=後)は述部として機能する動詞句 (VP)という構成素をなしているので、(1)と照らし合わせると、適切な休止の位置となります。

(2)の樹形図
(2)の樹形図

(2), (3)では、主語名詞句が The head of a large school, London and the southeast や The rest of the country のように比較的長く、息継ぎのためにも直後にポーズを置くと話しやすいでしょう。

他方、非常に短い主語名詞句の場合であっても、対比や強調によって核アクセントが置かれると、直後にポーズを置くことが可能になります:

(4) The children|say they don't like her.‖But I|think she's wonderful.
「子供たちはね、彼女が嫌いだって言うんだ。でも私はね、彼女素晴らしいと思うんだけど。」
the childrenIが対比されている。

(5) THEY|are doing their best.
「彼(女)らはね、全力を尽くしているよ。」
they「彼(女)ら以外」が対比されている。

例文出典:(4)=『英語のイントネーション』;(5)=『授業力アップのための 一歩進んだ英文法』
(5)の日本語訳はガリレオによる。

ここで切るのもOK

また (1)は、ポーズの右側、すなわち後ろのことだけを問題にしています。これは裏を返せば、ポーズの左側(=前)が構成素であるかどうかは問わないということ。したがって、以下のような箇所にポーズを置くことも可能です:

(6) I know Mary|preferred his first book.
「メアリーが彼の処女作を好んでいたのは知っている。」
従属節﹅﹅﹅の主語名詞句の直後

例文出典:『授業力アップのための 一歩進んだ英文法』p.16
日本語訳はガリレオによる。
(6)の樹形図
(6)の樹形図
※PRN = 代名詞 (Pronoun)

(7) Chickens are eating|the remaining green vegetables.
「鶏は残りの野菜を食べている。」
動詞(V)と目的語名詞句(O)の間

例文出典:『授業力アップのための 一歩進んだ英文法』p.16
日本語訳はガリレオによる。
(7)の樹形図
(7)の樹形図
※AUX = 助動詞 (Auxiliary)

(8) I gave the book you asked about|to the girl at the checkout.
「君が尋ねてた本あげちゃったよ、レジの女の子に。」
目的語名詞句と前置詞句の間

例文出典:『英語のイントネーション』p.296
(8)の樹形図
(8)の樹形図

まとめと次回予告

以上をまとめると、英語を話す際のポーズの位置は、まず「一息でどこまで言えるか?」に関わるフレーズの長さによって調整され、休止の後が構成素に対応するところで区切られるのが大原則となります。

また、区切り方によって対比や強調といった効果を際立たせることもできるわけですが、逆に言えば不用意に区切ってしまうと、自分の意図していないニュアンスで相手に伝わってしまう危険性もあるわけなので、注意しなければなりません。

今回の記事を書いている途中で、紹介したいトピックを一気に詰め込むと、とてつもなく長い記事になってしまい、最終的にポイントが記憶に残らなくなってしまう可能性があると判断したため、話す際の区切り方についての記事は小分けにして更新することに方針変更しました。

今後、that節・関係節・等位接続・副詞的修飾語句・およびポーズの直前の要素に課される制約について、それぞれの記事の長さを考慮しつつ、解説を加えていく予定です。引き続きお楽しみに!

参考文献

→「第1章 音声」(岡崎正男, pp. 1-19)

→「4. トーナリティー:グループ分け,あるいはIPへの分割」(pp. 278-310)

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