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空想を現実に( 田中浩也『SFを実現する』レビュー)

 SFを実現するために、今こそ「SF」を導入する時だ!

 何を言っているか分からない?
 一つ目のSFは「サイエンス・フィクション」(あるいは、藤子・F・不二雄流に言えば「すこし・ふしぎ」)を意味するのに対して、二つ目の「SF」は、「ソーシャル・ファブリケーション」のこと。ファブリケーションは「ものづくり」を意味する。と言われれば、3Dプリンタをイメージする人もいるだろう。

 これまでは、アナログからデジタルへ、物理的=身体的(フィジカル)な現実がデータに置き換えられ、コンピューターを経由してネットワークに接続されてきた。データ化された情報は、物理的現実とは異なり、自由な編集が可能である。
 しかし、僕たちが今、手に入れつつあるのは、現実をデジタルのように操作する技術だ。
 筆者は『ドラえもん』に登場する「スモールライト」のような「ひみつ道具」を引き合いに出しつつ、こう述べている。

 こうした装置が描かれた背景には、時代も関係していると私は考えています。「ドラえもん」が描かれた時代には、まだ現代のようなICT(情報通信技術)の想像力はあまり浸透していませんでした。むしろ身のまわりの「物質」を、自由自在に「操作」したいという欲望があって、その想像力が漫画として表出しているのだと私には思われるのです。つまりこの時代の想像力は、「情報処理」ではなく、「物質処理」のアイデアが大半だったのです。(p.209)

 実は、「ものの拡大・縮小」といったデジタルな操作感覚は、スキャナーとプリンタを通じて、我々の現実のものづくりに既に入りこんでいる。実際、2Dのデータを拡大・縮小して紙に出力する、なんていうのは、誰もが持っている感覚ではないだろうか。
(それこそ、二種類のサイズのポスターを作ろうとした時に、それぞれを完全に別個のものとしてデザインしようとする人は、あまりいないだろう。)
 3Dスキャナーと3Dプリンタの存在は、この感覚を、そのまま三次元に持ち込ませてくれる。

 もちろん、現実はそうやすやすと(データのように)編集されてはくれないわけだが、むしろ重要なのは、我々のものづくりの感覚が変わっていくという点である。
 つまり、現実は編集可能になったということだ。
 かつて巨大な機械の集合体だったコンピューターは、小型化されてパーソナルになった。ものづくりにも同じことが起きていると筆者は言う。

 「小さな『工場』が自宅の机の上にやってきたのです。」(p.38)

 これまでのものづくりは、専門的な技術や能力を持った一部の人たちのものだった。DIYもまた、技術的な習熟が欠かせなかった。それが変わりつつある。

 僕は今、この文章をパソコンで執筆・編集している。書いては削り、引用してはつなげ、言葉を選んでは順番を入れ替え、と。ここには、原稿用紙に文章を書いていた時代とは全く別の考え方が存在する。
 これからのものづくりには、同じような考え方が入りこんでくる。発想と試行錯誤が同時に進行し、創造性(クリエイティビティ)と創作(クリエーション)が直接つながる。
 もう、ワクワクしかないよね!

鵜川 龍史(うかわ りゅうじ・国語科)

Photo by ZMorph Multitool 3D Printer on Unsplash


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