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「どらまの生息地」小劇場レポート①稽古場を訪ねる

こんにちは。大学生の演劇文化を紹介する連載を担当させていただきます。Gaku-yomuライターのとりです。

四階建て、黒い鉄骨の四角い建物。
中には70席ほどの小さな舞台。
これが早稲田大学小劇場「どらま館」のごく簡単な肖像です。
右手に油そば屋、左手には定食屋と、飲食店が賑わう界隈に軒を連ね、演劇を志す学生に対して常に自由に開かれています。
この場所で日々「どらま」が錬成され、上演されるのです。

私が取材に伺った4月下旬は、早稲田大学演劇研究会がちょうど公演に向けて準備の真っ最中でした。

どらま館では今、『どらま館の歓待』と題する一連の新入生歓迎イベントが企画されていて、私はその一つ『稽古場ショーケース』に参加しました。
「稽古場ショーケース」では、早稲田で活動する演劇サークルの実際の練習にお伺いし、演劇が作られていく過程を間近に目撃することができます。

『稽古場ショーケース』レポート

座席の取り外された演劇ホールに劇団員が7名。
セットは折りたたみのテーブルとイス7脚のみ。
役者がそれぞれイスに座る、奥に控えるなどして芝居が始まります。

私は演劇の制作過程というものを、初めて現場で目にしました。
それはろくろで土を練り上げるような、不思議で興味深い工程でした。

まず役者が台本に沿ってセリフを言っていくのですが、初めは何となく各自がバラバラにしゃべっているようで、内容があまり耳に入ってこない。
それが、2回、3回と繰り返して演じるうちに、まさに「会話が噛み合う」という現象が起こります。
こちらの役者が驚いて身を引く仕草と、あちらの役者が勢い込んで詰め寄る動きがなめらかに連続し、みるみる会話が会話らしくなっていく。
テーブルを囲んでひとつの世界が組み立てられていくようです。

もちろん、セリフの内容自体が変わるわけではありません。
変わっているのは「間」と微妙な仕草のようです。
それだけで同じ言葉でも、大きく異なって聞こえるのは不思議なことです。

そこで私はふと、ある文章を思い出しました。
別所実さんのエッセイ『台詞と科白』です。

舞台で俳優がしゃべる言葉を「せりふ」と言うが、これを漢字で書く場合、「台詞」と「科白」の二通りがある。もちろん、内容も少し違う。「台詞」は言葉だけのものを言い、「科白」は、それに仕草が加わったものを言うのである。

別役実『台詞と科白』

このように使い分けるのは、演劇が言葉に対して独特の感じ方をもっているからだそうです。
それを表す例として、別役さんは「煙草はせりふを割って吸え」という役者の教訓を引き合いに出します。

言っているのは、舞台で煙草を吸う場合、ひとつのせりふを言い終わってから吸うのではなく、そのせりふの途中で、せりふを割って吸え、ということである。

別役実『台詞と科白』

せりふと動きを同時に、しかもなめらかに表現する。
これは実際に試してみようとすると、かなり難しいです。
スポーツやダンスのように、何度も繰り返し練習しなければ自然な仕草にはなりません。
しかし、それが完成したとき「台詞」は初めて実感を伴った「科白」に変わるといいます。

こうして出来上がったせりふは、一度身体をくぐらせてきたもののように、手触りのあるものに変質している。

別役実『台詞と科白』

私はこれまで演劇を、どこか映画を見るのと同じような心構えで観ていました。
とにかく物語の筋を追うことに注力する。それでも十分面白いのですが、これからは「生身の身体が演じている」ということに、もっと気を付けてみても良いのかもしれません。

今回の取材では演劇が作られる様子をじっくりと見せていただき、そのことーーつまり、演じることと身体は密接につながっているらしいということが、実感として腹に落ちたような気がしました。


まとめ

本記事では、『どらま館の歓待』『稽古場ショーケース』についてレポートを書かせていただきました。
今後も引き続き、どらま館の新歓イベントに参加し、連載企画として記事を公開していく予定です。

連載を始めるにあたってずっとタイトルを考えていたのですが、ふと「生息地」という言葉が思い浮かびました。
取材後改めてどらま館の外観を眺めてみたとき、その黒い、四角い鉄骨造りの建物が何だか非常に有機的な場所に見えてきたからだと思います。たくさんの動物が集まる、森の中の湧水地のようなイメージです。

様々な劇団、学生、大人がどらま館を訪れます。そして、様々な感情や想像力が生まれます
そのような「どらま」が息づく場所という敬意を込めて、本連載を『どらまの生息地』と題しました。

早稲田の演劇文化を少しずつ切り取る連載になるように、頑張ります。

(取材・文:とり)



〈告知〉
今回お邪魔した早稲田大学演劇研究会の新歓公演『センデン会議』は5/13から5/15にかけて3日間上演されます。
こちらは「どらま館」ではなく、大隈講堂裏手の「アトリエ」にて上演ですのでご注意ください。

詳細は以下のサイトから↓


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