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「このミス」珠玉の3作!シリアスからユーモアまで、傑作作品の特徴とは?

『このミステリーがすごい!』とは、1988年から別冊宝島で発行されているミステリーランキングを掲載したガイドブックのことです。

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ちなみに「このミステリーがすごい!大賞」は新人作家の作品を募集したもので、2002年に創設されました。

どちらも選ばれると本屋さんの平台にたくさん積まれるので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。今回はそんな「このミス」国内編にランキング入りした作品から、おすすめしたい3作をご紹介します。

宮部みゆき 『火車』 (新潮文庫)

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1993年国内編1位、2008年までの20年分で国内編ベスト・オブ・ベスト1位。

休職中の刑事、本間は遠縁の男性に頼まれ、彼の婚約者・彰子の行方を探すことになります。

彰子はなぜ失踪したのか、そして何者なのかを、本間が追っていきます。次第に明らかになってゆくのは、自己破産者の凄惨な人生でした。

カードローンなど、借金の恐ろしさを痛感した一冊です。そして、それが見事なエンターテイメント作品に仕上がっていることに心から感動しました。本間の視点で描かれるので、謎が少しずつ明らかになっていく過程をドキドキしながら一緒に追うことができるところがとても面白いです。

それにしても、借金の落とし穴って、実は私たちのすぐそばに、常にあるものなのかもしれないですね。この作品を読んだために、筆者は未だにクレジットカードを持っていません。作ろうと思うと『火車』が脳裏をよぎるのです。皆さんも、ご利用は計画的に。

伊坂幸太郎 『陽気なギャングが地球を回す』 (祥伝社文庫)

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2004年国内編6位。

人間嘘発見器、演説の達人、正確な体内時計の持ち主、天才スリの、史上最強のギャング団。

逃走中の現金輸送車強盗犯に「売り上げ」を奪われた彼らが奪還に向かいます。

4人の天才がそれぞれに特技を活かして活躍する姿に、銀行強盗なのに思わず「かっこいい」と思ってしまいます。軽妙な筆致で描かれ、わくわくしながら、映画を見るように読めるので、読書慣れしていない方にもオススメです。

また、会話が多くユーモアがちりばめられています。はちゃめちゃで桁違いな非日常が詰まっている一冊です。

ミステリーというよりはサスペンスで、謎解きの要素は薄いですが、随所に散りばめられた伏線を鮮やかに回収していく手腕はまさに伊坂流名人芸。

ルパンしかり、怪人二十面相しかり。「怪盗」に憧れる少年のような気持ちを思い起こさせてくれる、素敵な作品です。

天童荒太 『永遠の仔』 (幻冬舎文庫)

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2000年国内編1位。

石鎚山から下山する途中、少女・優希と二人の少年・モウルとジラフは、優希の父親を殺害します。秘密を抱えたままそれぞれの人生を歩んでいた三人が17年後に再会したとき、運命は動きだします。

虐待という重いテーマを扱いながら、ぐいぐい読ませる筆力に圧倒させられます。

これだけ『読ませる』作品になのはどうしてだろう、と考えてみると、答えは文庫版の後書きにありました。その中で作者はこの小説を、「過去の傷へのとらわれから抜け出せずにいる人に寄り添いたいと願った作品」と言っています。その思いが、読みながら、強く胸を打つのです。「過去の傷」に思い当たらない方も、他者の痛みを想像する力を与えてくれるという点で、大きな価値があるでしょう。どれだけ傷ついても傷つけても生きていく勇気を、多くの人に与えている作品です。

この3作、実はいずれも映像化されています。面白そうだけど本の気分じゃないな、というときには、ドラマや映画で楽しむのもいいですよね。どれも「珠玉の」という枕詞がぴったりな作品たちなので、ぜひ物語の世界にどっぷりと浸かってみてください。

(文/綾乃里綾里佳)

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