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「どらまの生息地」小劇場レポート②演劇を巡る

大学生の演劇文化を紹介する連載『どらまの生息地』
前回に引き続き、第二回目も早稲田大学小劇場どらま館の新歓イベント『どらま館の歓待』を取材させていただきました。

今回はツアー形式で「早稲田演劇」に関わるスポットを巡ります。

「早稲田大学演劇ツアー」レポート

① 早稲田大学坪内博士記念演劇博物館

まず訪れたのが、大学の敷地内にある早稲田大学坪内博士記念演劇博物館、通称「エンパク」
早稲田大学の教授であった坪内逍遥の長寿と「シェークスピヤ全集」の完成を祝し、1928年に建てられました。

Return to the Origin.
エンパク創立の謝辞において、逍遥はこのように述べました。

今の所謂劇は余りに分化し、integrateし、余りに専門化し、Specializeした結果、実人生、活社会とは離れ過ぎてゐます。もっと剴切に社会に接触すべきではありますまいか?劇は単なる娯楽機関以上の一種博大深淵な文化機関ではありますまいか?

『演劇博物館五十年 昭和の演劇とともに』

かつて演劇は、宗教的・社会的なイベントとして、人々の生活の中に大きな意味を与えるものでした。すでに爛熟期を過ぎ、数ある娯楽のひとつとなった演劇文化の新しい可能性を模索するためには、演劇とは何か、その根本に立ち返るべきだ、というのが逍遥の考えです。

若しも果たしてさういふ必要があるとすると、劇の成立を、先ず社会学的に、否、人類学的に深く遠く根本的に研究することが第一義とならざるを得ません。で、あるとすると、其為の準備としては、世界ぢうの劇を古今を一貫して比較研究することが最も緊要な事となります。

『演劇博物館五十年 昭和の演劇とともに』


まさに、そのような研究資料を収集する場として、エンパクは創られました。
エンパクの本館正面には”Totus Mundus Agit Histrionem”というラテン語の標語が掲げられています。その意味は「全世界は劇場なり」
これは「演劇をもっと普遍的なものに」と願った逍遥の思いや、エンパクが担っている役割について、非常に示唆的な言葉だと思われます。

▲坪内逍遥の銅像。手を握ると語学力向上、大学合格などのご利益があるとかないとか。



②アトリエ

一部のサークルは、大隈講堂の裏に「アトリエ」と呼ばれる専用の稽古場を持っています。
練習もできる、道具類の製作もできる、そのまま公演を行うこともできる、演劇を志す学生にとってはすばらしい環境です。

「アトリエ」にはそれぞれのサークルの個性が滲み出ています。
例えば、100年以上の歴史を持ち、堺雅人など数多くのプロを輩出してきた早稲田演劇研究会は、最大90人の観客を収容できる立派な舞台設備をもっています。

▲早稲田演劇研究会のアトリエ

一方、劇団木霊の「アトリエ」の収容人数は70人ほどですが、座席の配置を変えることもでき、より柔軟な演出が可能です。また「新人部屋」が併設されているため、新入生同士で自由に語り合い、結束できる場となっています。

▲劇団木霊のアトリエ

舞台美術研究会の「アトリエ」は、主に大道具や小道具の製作のために稼働していました。大きな資材が運び込まれる様子は、まるで文化祭前夜のような賑わいです。

▲舞台美術研究会のアトリエ

舞台美術研究会は、主に舞台装置・照明を手掛けるサークルですが、他サークルから役者や演出家を募集し、公演も行っています。

早稲田の演劇サークルはそれぞれに歴史や文化があり、そのサークル内だけでも演劇の世界にどっぷり浸かることができる懐の深さがあるといいます。しかし、それゆえに他サークル同士の交流がおろそかになってしまった時期もあったそうです。
その点で、他団体から人を集めるという舞台美術研究会のあり方は、学生演劇をより豊かなものにする可能性のひとつと考えてもよいのではないでしょうか。

以上のように、大隈講堂裏の「アトリエ」というスペース全体が、他のサークルの熱気を間近に感じながら、自らの活動を深めることができる場所となっていることがわかります。
交流と自己探求の可能性に開かれた施設を学生が自由に使えるという環境が、これからも「早稲田演劇」と呼ばれる豊かな文化を築く土壌になって欲しいですね。


③どらま館

早稲田大学小劇場どらま館は、前回の記事でもお伺いましたが、今回はその歴史と施設の特徴に着目して紹介させていただきます。

どらま館は、これまで三度の転身を遂げてきました。
まず初めは「早稲田小劇場」という名前で、鈴木忠志、別役実らが結成した劇団のための劇場として創られました。
その後、鈴木らが活動拠点を移したことで民間経営となり、「早稲田銅鑼魔館」という名称に変わります。
1997年になると、早稲田大学が劇場を買い取った形で、学生演劇の場として発展することになりました。。そこでまたも名前が変わり、「早稲田芸術文化プラザどらま館」となります。
しかし、旧「どらま館」は耐震強度が不足しているという理由から、一度取り壊されてしまいます。それから3年の年月を経た2015年、現在の「早稲田小劇場どらま館」が誕生します。
(どらま館のこれまでhttps://www.waseda.jp/culture/dramakan/about/history参照)

新しいどらま館は鉄骨造りの丈夫な建物で、一階は楽屋、二階と三階は吹き抜けの上演ホールになっています。
三階には舞台の上から照明・音響機器を操作できるスペースがあり、楽屋は舞台の様子がリアルタイムで分かるモニター付いています。

▲ここから照明機器類を動かすことができる

また、どらま館独特の黒い外観は「幕開け」をイメージしているそうです。幕を通して演者と街が見え隠れする、日常と非日常をつなぐ場としての劇場、といった思いが込められているそうです。(早稲田小劇場どらま館https://www.takenaka.co.jp/majorworks/21409692015.html 参照)


④学生会館

学生会館は、様々なサークルの活動拠点です。
文学部・文化構想学部がある戸山キャンパス内に位置しています。
演劇サークルの部室や、大道具が作れるレンタルスペース、公演を行うことができる会場もあります。

▲大道具が作れるスペース
▲地下203号室 ここで公演が行われる

学生会館で公演をする場合、原則として入場料を徴収することはできません。
その点、他の劇場で行うときよりも自由で思い切った公演が可能になってきます。
また、学生会館は、演劇サークル以外のたくさんの学生が訪れます。そのため、普段はあまり演劇に関心がない学生に演劇の楽しさを布教する場所としての役割も担っていることでしょう。


まとめ

今回の記事では、どらま館主催『早稲田大学演劇ツアー』で巡った4つの演劇スポットについて紹介しました。大学周辺を少し歩くだけで、これほど豊かな演劇文化と出会うことができるという事実に、改めて気付かされたイベントでした。
今も昔も、学生演劇出身の劇団や俳優の方々が、その世界で数多く活躍されています。
早稲田近辺を散歩しながら、新たに生まれつつある「どらま」を間近に感じてみてはいかがでしょうか。

(取材・文:とり)





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