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理学療法士・ピラティスインストラクターが考えるオーバーヘッドアスリートの運動連鎖 ~下肢評価編~

1.はじめに

投球やテニスのサーブなどオーバーヘッドスポーツは下肢から体幹、肩甲帯の運動連鎖を必要としています。

この運動連鎖が円滑に機能することで、パフォーマンスアップに繋がります。

反対にこの機能が破綻すると投球の効率が低下し、肩や肘のケガのリスクを高めます。

今回は2020年に報告された論文をもとにオーバーヘッドスポーツに必要なトレーニングをまとめていきたいと思います。


2.運動連鎖とは

オーバーヘッドの動作だけでなく、ボールを投げる、サーブする、蹴るなどのスポーツにおけるこれらの動作は、ほぼすべて運動連鎖によって行われています。

そして、オーバーヘッド動作における運動連鎖は、体幹の強度、股関節の強度と可動域、肩甲骨の動き、肩の強度と可動域、膝・足首の可動域を含む複数の要因が影響しています。


効率的な運動連鎖は、投球中の関節負荷の減少、最大速度および最大の力の生成に役立ちます。

過去『The American Journal of Sports Medicine』の論文では、非効き側と比較して、利き側の股関節の関節可動域の減少が肩の損傷や投球の低下に高い相関があると報告していました。

股関節の可動域低下とバランスの悪さが運動連鎖に沿ってエネルギーを伝達するアスリートのパフォーマンスに影響を与え、肩や肘のストレス増加しケガへと繋がります。

また、肩は下肢と体幹によって生成されたエネルギー伝達を促進するうえで重要となります。

Clinics in Sports Medicine』では体幹から上肢に伝達されるエネルギーが20%減少すると手に同じ量の力を発生させるために、肩の回転速度を34%も増加させる必要があると報告しました。

同じオーバーヘッドスポーツのテニスはどうでしょうか?

テニスのサーブもオーバーヘッド動作です

テニスサーブ中の力の54%は脚と体幹から発生し、肘と手首から発生するのはわずか25%だそうです。

これらを考えると、野球の投球動作やテニスのサーブなどは、ボールに力を伝えるためには、腕の力だけでなく下肢から体幹に力を伝達させるとこが重要であることが分かります。

これらを円滑に伝えるために重要なのが運動連鎖という事です。

3.オーバーヘッド動作の評価例(下肢)

前述したようにオーバーヘッド動作には下肢から体幹の運動連鎖が重要です。

ここでは下肢・体幹の評価として『片足安定性テスト』『Yバランステスト』『股関節内旋可動域』が紹介されていました。
ケガの予防と怪我のリスク認識に関するエリートレベルのテニスプレーヤーの評価は米国テニス協会によるハイパフォーマンスプロファイル(HPP)とよばれるツールの開発に繋がりました。

このツールはエリートレベルのテニスプレーヤーをスクリーニングするために利用されており、その結果片足の安定性テストで体幹と下肢の衰弱を特定できることが報告されています。

実際に健康でケガをしていないテニスプレーヤーで、股関節の衰弱を示す片足安定性テストに失敗した割合は45~55%であり、下肢体幹の安定性改善するための予防プログラムに役立つと思います。

片足安定性テスト

また、野球選手で肘内側側副靭帯断裂(UCL断裂)が確認されたグループで、Yバランステストのスコアが減少しているという事も報告されています。

Yバランステスト

Yバランスのスコアは下肢の強度と神経筋の制御に反映されています。そのため、Yバランステストのスコアが低い場合は、下肢のバランス・筋力および神経筋制御が不足している可能性があるといえます。

野球では体幹と下肢の神経筋制御の不足は、上肢にエネルギー伝達する能力に悪影響を与え、肩と肘にかかるストレスが増加しケガのリスクを増加させます。

そして、投球動作の運動連鎖に重要なもう一つの要因は股関節の可動域です。

過去の研究では、股関節の内旋の可動域制限は投球動作中の上肢負荷に影響を与え、パフォーマンスに悪影響を及ぼし、ケガのリスクを高める可能性があります。

腹臥位股関節内旋可動域

そのため、腹臥位股関節内旋の可動域の評価は、オーバーヘッドスポーツを行うアスリートにとって必要であることが分かります。

今回はオーバーヘッドスポーツに対しての下肢の評価についてまとめました。次回は肩甲帯・肩などの上肢のトレーニングについてまとめていきますので、そちらも参考にしてください。

4.まとめ

・オーバーヘッドスポーツはパフォーマンスアップの為、下肢から体幹・上肢までの運動連鎖が重要である。

・この運動連鎖が破綻するとケガのリスクを上げる。

・下肢、体幹に重要な評価として『片足安定性テスト』『Yバランステスト』『股関節内旋可動域』の3つである。


最後にこの記事を読んで少しでも参考になりましたら、スキまたはフォローをよろしくお願いいたします♪

理学療法士・ピラティスインストラクター   辻川真悟

参考・引用文献
・Step by Step Guide to Understanding the Kinetic Chain Concept in the Overhead Athlete

・Robb AJ, Fleisig G, Wilk KE, et al. Passive range of motion of the hips and their relationship with pitching biomechanics and ball velocity in professional baseball pitchers. Am J Sports Med. 

・Day JM, Bush H, Nitz AJ, UHL TL. Scapular muscle performance in individuals with lateral epicondylalgia. J Orthop Sports Phy Ther. 

・Rabin A, Irrgang JJ, Fitzgerald KG, Eubanks A. The intertester reliability of the scapular assistance test. J Orthop Sports Phys Ther. 

・Kibler WB, Sciascia AD. Disorders of the Scapula and their role in shoulder injury. Springer 2017. 

・DeMay K, Danneels L, Cagnie B, et al. Conscious correction of scapular orientation in overhead athletes performing selected shoulder rehabilitation exercises: the effect on trapezius muscle activation measured by surface electromyography. J Orthop Sports Phys Ther. 

・Staker JL, Evans AJ, Jacobs LE, et al. The effect of tactile and verbal guidance during scapulothoracic exercises: an EMG and kinematic investigation. J Electromyogr Kinesiol.

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