作品タイトルをめぐる冒険[about UKIYO-E]
名付けの歴史をたどると、美術の違った側面が見えてくる!
というわけで、「美術作品の名前(タイトル)」というテーマをどんどん深掘りしていくシリーズです。
前回は、日本美術(絵画)の作品名について触れました。
江戸時代までは、作品ひとつひとつに作者がタイトルをつけるという習慣はなかったこと。
そして、明治時代に展覧会制度が導入されるに従って、作品名という概念が定着していったこと。ただし当初は、作品名と言っても絵の内容をそのまま記述するだけのものだったこと、などの説明をしました。
そもそも、日本特有の絵画形式と言えば、皆さんぱっと思いつくのが掛け軸、屛風、襖などでしょう。
これらは言い換えれば、建築物の一部であったり、室内を間仕切りしたり、飾ったりするための調度です。家具に近いイメージですね。
このように、日本の伝統絵画は、ヨーロッパのようなファイン・アート(純粋芸術)ではなく、何かしらの実用性をともなっていたのです。
このことも、作品名という概念が生まれなかった理由の一つかもしれません。家具や調度に名前をつけることはありませんから。
しかし、です。
ここまで説明をしたことは、話をややこしくしないための、大枠のストーリーです。
ひとまず大枠は押さえることができたので、ここからは遠慮なくややこしくしていきますよ(笑)。
実は、江戸時代以前にも、明確な意図をもって、こだわりのタイトルを作品につけた作家たちがいました。私の知る限り、大きく分けると二つのジャンルで。
今回はそのうちの一つに焦点を絞って、ご紹介しましょう。なぜ、このジャンルだけ、早々と名付けの意識が芽生えたのか。皆さんも一緒に考えながら読んでください。
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