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現代アートは難しい、それは学芸員でも同じなのよ

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小さな美術館で学芸員として働いています。

恥もてらいも無く言いましょう。

現代アートは難しい!

なぜ、学芸員のくせに恥ずかしげも無くそんなことを言い切れるかというと、「だって現代アートは専門じゃないし。日本美術が専門だもの」と開き直っているからです。何でも専門家ヅラしてわかったふりをするのは、このnoteではやりません(現場では時と場合に応じてやったりします)。

正直現代アートに関しては、いまこれを読んでいるあなたと同じ目線で、ながめていると思ってください。抽象画を目の前に「はい、どうぞ」と出されても、「うーんと・・・」となるのも、同じです。

ただ、わずかなプライドをかき集めて学芸員の威厳を保つならば、まず時代も分野も違えど、表現することに心血を注いだ作家がわんさかいることを研究を通して知っています。そして、歴史のふるいにかけられても後世まで残るような絵とは、どんなものかを理解しています。まぁ、後々まで受け継がれなければ意味が無いのか、という別の疑問もわいてきますが。

さて、その道のプロはどんな風に現代アートを見ているんだろう、と興味があって、元フリーキュレーターの小説家原田マハさんと香港のCHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)でチーフキュレーターを務める高橋瑞木さんの対談集『現代アートをたのしむ—人生を豊かに変える5つの扉』を購入しました。

長年、一緒に国内外の展覧会を観に行くほど仲がいいらしく、テンポ良くアーティストについて語り合う様子が、文章からも伝わってきます。書名の通り、仕事ではなく純粋な好奇心でワクワクしながら現代アートと接しているのが、よくわかります。

前段として「現代アートとは何を指すのか」が定義されています。

ひとつの考え方としては、コンテンポラリー(同時代の)・アートを指している。つまり、今私たちが生きている時代に生まれたアートが、現代アートなのだと。

もう一つの考え方としては、歴史的な枠組みとして「近代」の次に来た「現代」のアートというもの。一般的には第二次大戦以降が現代とされるので、その時代から今にいたるまでのアートが現代アートだというのです。

同時代のアートという最初の考え方からすれば、印象派もピカソもその時代の現代アートだったというわけです。ただ、いまの私たちがピカソの価値を判断できるのは、ある程度の時が流れたことで俯瞰して論じることができるからだと、いいます。

今の私たちにとっての現代アートは、まだ俯瞰するには近すぎる。だから理路整然と理詰めで語ることはできないので、どうしても難解に感じてしまう、ということのようです。「いまのところは同時代だから、いっしょに走っている感じです」という高橋さんの言葉が、とても腑に落ちました。分からなくても、判断がつかなくても、ただならぬ感じがするから、追いかけながらその意味を探る、みたいなアーティストとの関わりも必要なのでしょう。

そして、19世紀半ばの写真という新たな技術の登場も、アートのあり方に大きな影響を与えたと言います。目に見える景色をまるで本物のように写実的に描くことに意味がなくなり、何のために絵を描くのかという問いをアーティストが意識する必要性が出てきたのです。「アーティストが、自分自身に対して批評性をもつということの始まり」と本書では語られています。

具体的な見た目より制作意図や意味、行為などを重視するコンセプチュアル・アートはこうして登場したわけです。

このあたりが、現代アートの一筋縄ではいかない難解さの原因であり、だからこそ作品と対峙した時に色々と鑑賞者も思考をうながされるような面白さにもつながるのでしょう。だってアーティスト自らが、創作することの意味を自問自答しながら生み出すわけですからね。

高橋さんは、コンセプチュアル・アートを「乱暴にいってしまうと、とんちに近いところもあると思います」と語っていて、本質をついてるなぁとうなりました。

そう、作者が作品に込めたメッセージを読み解くのは、とんちを解くような知的ゲームと言えます。これ相当難易度の高いゲームと言わざるを得ませんよね。

それゆえに現代アートは、鑑賞者に対しても思考することをうながす、鑑賞者自らが問いを立て、答えが出なくても思考の過程そのものを楽しむことを求める、ある種の仕掛けとして機能していると言えるのかもしれませんね。

うん、ちょっと楽しみ方がわかった気がする(ほんとか?)。みなさんはどんな風に楽しんでますか?


■「オトナの美術研究会」やってます。
「美術が好き、その一歩先へ」をコンセプトに、美術好きな仲間がゆるくあつまるコミュニティを作りました。私自身、これを始めてから張り合いが出て展覧会に足を運ぶペースが上がりました(笑)。興味がある方はこちら(↓)をご覧ください。

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