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アートなのにマンガ?と思うなかれ。DOMANI・明日展@国立新美術館

「DOMANI・明日展」。毎年そんなタイトルの展覧会が国立新美術館で開催されていることはなんとなく知っていました。
ただ、具体的にどんな内容なのか知らず、足を運んだことはありませんでした。

そんな私ですが、今回はじめて同展覧会を見るために、六本木の国立新美術館へ行ってきました。

くもり空

なぜ今回に限って、そんな気持ちになったのか。
理由は2つあります。

一つは展覧会チラシがかっこよかったから。まずこれがきっかけ。

このチラシに使われている作品がむしょうに気になったことに加えて、参加作家を見ると近藤聡乃(あきの)の名前が。これが2つめの理由。

私、この人のマンガ『ニューヨークで考え中』をたまたま持っていて(そもそも何で買ったのか忘れましたが…)、絵も内容も好きだったので、美術館でどんな展示になるんだろうと興味がわきました。

ジャンルで言うとエッセイマンガ

そんな理由から初めて行ってみた「DOMANI・明日展」ですが、面白い作家との出会いがたくさんあって大満足でした。

「DOMANI・明日展」とは

DOMANI・明日展 2022-23
2022.11.19 - 2023.1.29
国立新美術館(六本木)
一般1,000円

展覧会の主催は文化庁です。
文化庁は、半世紀以上前から国内の若手アーティストが海外で研修することを支援する「新進芸術家海外研修制度」を継続的に実施しています。
「DOMANI・明日展」は、その研修を経たアーティストを日本のアートシーンに紹介するために、毎年開催される展覧会なのです(さっきまで知らなかったのに「なのです」て)。

特に今回は第25回目の節目ということで、90年代に海外研修をしてすでに豊富なキャリアを築いている作家と近年研修を終えたばかりの若手作家を組み合わせ、全10名の作家が紹介されています。

名前だけざっと挙げておくと

  • 池崎 拓也

  • 石塚 元太良

  • 伊藤 誠

  • 大﨑 のぶゆき

  • 北川 太郎

  • 黒田 大スケ

  • 小金沢 健人

  • 近藤 聡乃

  • 谷中 佑輔

  • 丸山 直文

会場は1人1ブースという形で構成されています(↓)。

会場の作品目録より

さすがにどの作家も見応えがあったのですが、10名全員に触れると長大な文章になってしまうので、中でも私個人が気になった3名にしぼってご紹介します。

近藤聡乃(こんどう・あきの)の原画にうなる

一人目は、そもそものきっかけとなった近藤聡乃です。
すでにマンガ家として活躍していて、開催初日のギャラリートークを任されたり、10名の中で唯一2度目のDOMANI展参加だったり、と展覧会の目玉になっていました。

「え?アートなのにマンガ?」と思われるかもしれませんが、そもそも作者は大学在学中にマンガ家デビューして、2002年には文化庁メディア芸術祭奨励賞を受賞しています。文化庁の在外研修でニューヨークに行ったのは2008年ということですから、その時点ですでにマンガ家として活躍していたわけです。

とは言え、私もなんとなく「会場ではマンガではないアートな作品を展示して、マンガ家とは違う一面を見せるのかな」と想像していました。
が、行ってみると、潔いほどにすべてマンガ・マンガ・マンガ
無意識のうちに、マンガとアートを切り離して考えていた自分に気づかされました。作者にとっては、マンガこそが描かずにはいられない自己表現の手段なのでしょう。

会場には、作者がなんと10年以上連載をつづけている『ニューヨークで考え中』の原画がずらっとならんでいました(壮観)。作者は2008年の在外研修をきっかけに、そのままニューヨークで活動を続け、今にいたります。

『ニューヨークで考え中』は、エッセイマンガです。誇張することなく淡々と、作者がニューヨークで過ごす日々の一コマが、基本的に4ページ1話で描かれます。

私も第1巻を持っているのですが、あらためて時系列でならぶ原画をじっくり見て、いくつか発見したことがあります。

一番大きいのは、作者の立ち位置の変化です。
私は第1巻しか読んでいなかったので、その巻ではなんというか作者のニューヨークの日常もまだ物見遊山的な視点で描かれています。ちょっとしたカルチャーショックを感じた出来事がつづられているんですね。

それが時が経つ内に段々と変化を見せます。なんせ14年も暮らしているわけですから。最初はお客さん的なヨソ者としてニューヨークを見ていた作者が、移住者へと変わっていきます。さらに言えば「移民としての自分」です。
大統領がオバマからトランプに変わり、バイデンに変わり、BLM運動はどんどん過激化し、そうしてパンデミックが起こります。それらの変化を作者は当事者として受け止めつつ、日常を過ごします。

2020年8月、誰もいなくなった街。その裏で鬱屈した市民感情と呼応するように高まるBLM運動。
2022年、作者も時事ネタが増えたと振り返っている。

そうした心の機微を、コツコツと10年間描き続けているのです(全話の末尾に日付が記されている)。これは、会場で初期から最新作までの原画で一望すると、ゾクッとする怖さにも似た不思議な感情を覚えました。やわらかな筆致の中に静かにただよう凄みのようなものを感じたのです。

2つめの発見としては、もう少し表現上の話で、作者の絵作りへのこだわりです。
会場にはネームや下書きも少し展示されています。そしてペン入れされた原画を間近で鑑賞すると、本当に線が美しい。これは声を大にして言いたい。
説明のための輪郭線ではなく、その一本一本を楽しみながら気持ちよく引いている線なのです。滑らかでいて、表情がある線。

そして文字にも注目です。吹き出しの文字なども活字ではなく、すべて手書きなんですよ。コミックスで読んでいる時も「きれいな字だなぁ」と思っていたのですが、そんな単純な話ではありませんでした。

これを見てください(↓)。

この一コマ(↓)の中で使われる一文「みんなで大晦日に餃子を作ったのが」なのですが、文字のバランスを何通りか試した上で決定しているんですよ。

またここで、ちょっとゾッとしました。
作者はマンガの1ページを1枚のグラフィックとして完成させようとしているのです。だからこそ文字もすべて自分で書くのでしょう。文字も線の一部であり、イラストの一部なのです。

いやぁ、これだけでも見に行った甲斐がありました。

おっと近藤聡乃だけで結構長く語ってしまいました。続きはこちらで(↓)。


■「オトナの美術研究会」やってます。
「美術が好き、その一歩先へ」をコンセプトに、美術好きな仲間がゆるくあつまるコミュニティを作りました。私自身、これを始めてから張り合いが出て展覧会に足を運ぶペースが上がりました(笑)。興味がある方はこちら(↓)をご覧ください。

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