見出し画像

展覧会ができるまで(美術館の舞台裏)vol.3

美術館で展覧会が開催されるまでの工程を、学芸員の立場からひとつひとつ解説していくコーナーです(前回の記事)。

全工程はこちら(↓)をご覧ください。

07 各社から見積もりをとって予算を立てる

展覧会の企画概要や出品作(ただしこの時点ではドリームプラン)が決まりました。
なんだかんだで、来年度にその展覧会が控えているぐらいの時期になってきました。ここからはどんどん具体的な話になってきます。

当たり前の話ですが、展覧会を実行するには予算が必要です。
いま計画している展覧会が、通常の予算で実行できるものなのか、それともいつもより予算を割り当てないといけないものなのか、そこをはっきりさせないといけません。

そこで、各社から見積もりをとる必要が出てきます。こうした見積もり関係のやり取りは、美術館によって学芸員がやるところと事務方がやるところがあります。

見積もりをとるのは、基本的に大きな金額がかかるものに関してです。
ざっと挙げると、以下のような感じ。

  • 作品輸送費(運送保険含む)→ヤマトや日通から見積もり

  • 展示作業費→ヤマトや日通から見積もり

  • 図録印刷製本費→印刷会社から見積もり

  • チラシ、ポスター印刷費→印刷会社から見積もり

  • 図録や広報物のデザイン費→デザイナーから見積もり

  • 展示造作費→展示デザイン会社から見積もり

額が大きいもの(50万円以上とか)に関しては、複数社から見積もりを取る必要があります。見積もり合わせというやつですね。

見積もりをとるということは、その時点で作業内容や仕様がおおまかに決まっている必要があります。
図録の印刷費にしたって、ページ数も未定、使う図版の数も未定、では印刷会社だって見積もりの作りようがありませんからね。

こうして各社から集まった見積もりをもとに、次年度の予算要求をします。
地方自治体の運営する公立の美術館・博物館だとその予算案の妥当性が地方議会で承認されないといけません。
私立の館であれば、経理部門の理解が必要になります。

いずれにしても、どんぶり勘定で予算を立てると却下されるので、見積もりは大事です。

08 助成金、後援などでお金をかき集める

見積もりをとって、費用の総額が見えてきたものの、美術館の通常の予算ではどうしてもそこまでまかなえないことが判明した場合、二通りの対処法があります。

ひとつは、予算の範囲内でできるように展覧会の規模を縮小する方法です。
借用する作品の数を減らすとか(輸送費の削減)、図録のグレード(ページ数や紙質)を下げるとか。

もうひとつの方法が、外部からお金を引っ張ってくる(←言い方)です。

展覧会などの文化事業は、収益をあげられないのに費用はかかります。
そんな文化事業を支援する助成金制度が、国や地方自治体、また公益財団法人などで用意されています。

助成金については、こちら(↓)で詳しく書きました。

こういった助成金にバンバン応募してみるのも一つの手ですし、他にも企業やメディアなどから後援という形でスポンサードしてもらうことも検討します。

新聞社が展覧会企画自体を持ち込んできた時は、新聞社が主催や後援に入って予算をつけてくれますが、そうでない場合は後援してくれる相手を探す努力も必要です。

展覧会によっては、複数の企業やメディアが加わって「○○展実行委員会」みたいな組織を起ち上げます。そして展覧会にかかる経費は折半する形で支出するというものですね。

***

大型企画展を実現したいのなら、このようにあの手この手でお金を工面するという努力が欠かせないんだよ、ということをお伝えしておきます。

つづく

■「展覧会ができるまで」全工程一覧(↓)

■過去記事のバックナンバーはこちら(↓)から


この記事が参加している募集