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045.『団地図解 地形・造成・ランドスケープ・住棟・間取りから読み解く設計思考』篠沢健太・吉永健一著

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“ ―― 限られた敷地の中で土地の特徴を読みつつ、共通の設計ルールの制約のもと、それを工夫して解きほぐし、新しい生活空間の「快適さ」をつないだ、ぼくらが良いと思う“団地像”がつくられていた時代の空気を堪能してもらえれば幸いです

団地はどれも同じ…だなんて大間違い。地形を生かしたランドスケープ、コミュニティに配慮しつつ変化に富む住棟配置、快適さを求め考案された間取りの数々。目を凝らせば、造成から植木一本まで連続した設計思考が行き届き、長い年月をかけ育まれた豊かな住空間に気づくはず。あなたも知らない団地の読み解き方、教えます。


●はじめに―ぼくらはなぜ「団地」を目指すのか?

建築・都市計画分野で「団地」は近年、“ 少子高齢化が進む住宅地”の側面ばかりが過大に語られ、まちづくりやリノベーションの介入などでこうした課題の解決が試みられています。でも団地には山積する課題しかないのでしょうか? ぼくらはそうは思いません。「団地」には、まだまだ体験・経験し熟考すべき価値があると考えています。

実際ぼくらの経験では、むしろ一般の人たちのほうが団地の良さに気がつき始めています。予備知識がない若い建築学生や、物件候補として下見に訪れた多くのクライアントたちが、「あぁいいねぇ」と言います。しかし、建築・ランドスケープ業界の人たち、特に団地を「ネガティブな住空間、都市計画である」と専門教育で習った世代は冷ややかです。「今どき団地?」「レトロ趣味?」……いや、そうじゃないのです。だからこそ、一般の人たちが気づいた団地の“良さ”を、ぼくらが建築やランドスケープ、計画・設計手法の側面から、きちんと言葉で語りたい、そう思って本書をまとめました。

・団地の本当の魅力とは?

本書で取り上げる団地の“良さ”は、文学・漫画・アニメなどのサブカルチャーにも浸出するいわゆる「失われゆく団地への郷愁」とは一味違います。 そもそも、団地の良さとはなんでしょう? ぼくらが団地を歩くとき、最初は「あ、懐かしい」とか「なんかいいかも」とか、「団地の空間そのままの良さ」をなんとなく感じているのです。でもそれをそもそも感じたことのない人に共感してもらうのは簡単ではありません。ただ写真や図面を見るだけではもの足りないし、ディテールを取り上げるのも、部分にとらわれすぎて全体を見誤ってしまいます。ありのままの「団地」に真正面から取り組みたい! そのために、まず団地を図解・読解することにしました。作業しながら、どうやら団地の魅力は造成とかランドスケープとか、住棟配置とか建築と、分野ごとに分けては語りきれないことに、言い換えれば、「地形→造成→配置→住棟→間取り」の各分野間の《つながり》に団地ならではの魅力があることに気づきはじめました。団地の《つながり》はどうやって生み出されたのか? その視点から読み解きを進めつつ、その過程や意図、思考をヒアリングなどで裏付けていきながら、この本は生まれました。

・一人称で語りたい!

1章では、2団地で「まち歩き」をします。後の章で語られていく様々な《つながり》のヒントやインデックスが散りばめられています。2章はやや固めの「団地解説」です。3章は7団地を「地形→造成→配置→住棟→間取り」の連続性、つまり《つながり》を意識して図解します。この章は1章の解題でもあります。4章では、敷地や技術、経済性など様々な制約のなかで試行錯誤し、団地を計画・設計された方からの生の声をお聞きしています。この本のもう一つのキーワードは「団地係」です。団地係の方々が試行錯誤された設計過程は、中ほどに綴じこまれた2枚の長大折図、日本住宅公団関西支社「団地設計思想 昭和30→43」を見て感じてください。

限られた敷地の中で土地の特徴を読みつつ、
共通の設計ルールの制約のもと、それを工夫して解きほぐし、
新しい生活空間の「快適さ」をつないだ、

ぼくらが良いと思う“団地像”がつくられていた時代の空気を堪能してもらえれば幸いです。

当時の創意工夫は、現代の空間計画や建築・ランドスケープ設計にも多くの示唆に富んでいます。調査研究といった“他人ごと”としての冷めた目線ではなく、かといって自分のなかで完結してしまうのでもない。“ 自分のこと”としてこれらの計画設計への示唆を見出したいし、見出してほしい。これが、本書をまとめた“一人称”のぼくらから、読者の皆さんへ伝えたいことです。

2017年8月吉日 篠沢健太・吉永健一

●書籍目次

はじめに|ぼくらが団地にひかれる理由―建築・都市計画・土木・ランドスケープを横断する住空間

1章|団地フィールドワーク―現地で見つける団地の計画・設計のツボ

1.1 千里ニュータウン編
1.2 金沢シーサイドタウン編

2章|団地解剖―空間の読み解き方

2.1 地形―団地が“置かれた”場所
2.2 造成―標準・制約・束縛をいかに越えるか?
2.3 配置/ランドスケープ―中間領域の豊かさ
2.4 住棟―状況を解決する“箱”
2.5 間取り―工法からコミュニティまでを包み込む標準設計
2.6 間取り選
・折図団地巻き物「団地設計思想 昭和30→43」

|column1|団地と子ども

3章|団地7選:知られざる設計思考の探求

3.1 千里青山台団地―高原のような団地を生んだ包括的な設計プロセス
3.2 千里津雲台団地―溶け出す造成と揺らめく南面平行配置が生む景観と共有スペース
3.3 高座台団地・高森台団地―尾根・谷が生み出す“骨太”な計画
3.4 新千里東町団地(公団)―囲むこと/広げること・公団配置計画の集大成
3.5 千里高野台住宅―緩やかな谷に生み出された公-私の連続性
3.6 鈴が峰第2住宅―地形から間取りまで総動員で獲得した眺望
3.7 並木1丁目・2丁目団地―平坦で自由な土地に築かれた建築家たちの団地設計思考
3.8 7団地から読み解く設計思考
・7団地を通して眺めてみると
・団地の設計思考を読むキーワード
・団地MAP

|column2|団地と少年

4章|団地への証言

4.1 INTERVIEW:中田雅資さんに訊く 土木仕事から建築設計まで。「団地係」という仕事
4.2 団地年表

|column3|団地と大人

おわりに|団地の設計思考が語りかけること



☟本書の詳細はこちら

『団地図解 地形・造成・ランドスケープ・住棟・間取りから読み解く設計思考』篠沢健太・吉永健一著

体 裁 B5変・140頁・定価 本体3600円+税
ISBN 978-4-7615-3235-2
発行日 2017/10/10
装 丁 アートディレクション:水内智英 / デザイン:仲村健太郎

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