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066.『インバウンド再生 コロナ後への観光政策をイタリアと京都から考える』宗田好史 著

“──これまで、日本のグローバル化は海外に出かけ買い物をすることだった。ネット時代になってもパソコンから世界を覗くだけだった。でも今は違う。隣の部屋に外国人がいる。今朝着いたばかりの旅行者が出発地の匂いと生活習慣を持ち込んでくる。モノではなくヒト、大勢の外国人が最初は観光、次は居住者としてともに暮らす。未来の地域社会では、彼らの文化を受け容れてわれわれ自身が変わっていく。身近な場所での異文化交流が日本を発展させる時代を取り戻そう。”

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海外からの観光客が途絶えて半年。その経済的損失の大きさにたじろぎ、かつてオーバーツーリズムと言って忌避したインバウンドの再生を切実に待ち望む声が高まっている。しかし、拙速な回復策は禁物だ。同じ失敗は繰り返せない。身近な場所での異文化交流を文化都市に転換する力にする観光政策のあり方を示す。

●はじめに

20年10月になって日本人観光客は回復してきたが、インバウンド受け入れはまだ先になる。

インバウンドはマナーの悪さが話題になったが、そもそも訪れる側も迎える型も不慣れだった。マスコミがトラブルを頻繁に取り上げたことも問題を大きくした。受入業者の一部は安易な稼ぎを急ぎ、客はもとより、周辺住民などへの対応がまずかった。だから荒稼ぎへの批判が高まった。

京都でも当初は観光客が消え静かでいい、リスクの大きな観光業には依存せず製造業重視の産業政策をと言われたが、観光産業は裾野が広い。飲食・宿泊業の成長の雇用効果は大きかった。関係なさそうな仏具店でも、飛び入りのインバウンド客が売上の3割を占めたという。今ではオーバーツーリズムと言って忌避したインバウンドの再生を切実に待ち望む声が高まっている。
とはいえ、そもそも経済性ばかりに目を向けていたから嫌われたのだ。観光の本質は文化交流である。われわれ日本人が海外旅行を楽しみ、留学で何を学んできたか、何を手に入れてきたかを思い出だしてほしい。今、われわれは迎える立場になった。日本を見たい人、知りたい人、愛する人、憧れる人を拒んでいいのか?問題のマナーも実は急速によくなっていた。

インバウンドを待ち望むイタリア人の一人ジャンニ・ラニエリ氏と話した。ローマ都心でホテル・ラニエリを経営している。お母様が始めたペンションを三ツ星ホテルにした。日本大使館に近く昔から日本人客が多い。その後フィンランド人が増え、今は日本語の予約サイトもある。私は、1981年から常宿にしている。ローマ在住時には両親にも泊ってもらった。お母様に昔、絶え間ない設備更新のご苦労を伺ったこともある。
ラニエリ氏は経営者の立場で観光都市の変化を見てきた。ブランド店で働く友人は80年代の日本人客の様子を最近の中国人客と比べてくれる。文化財監督局に努める美術史家はさまざまな外国人観光客を受け入れた美術館の対応を語る。他にも、レストラン、海辺のホテル、タバコ屋、いろんな人が観光客と町の変化を語る。そんな話を集め、資料を添えてその変化を整理した。
ローマでは、むしろ、観光客はローマをよくしたという。観光がなければ、ローマは貧しい田舎町、ちょっと油断すれば変化に取り残される。観光客の求めに応じて何とかEU水準に追い付いた。ホテル・ラニエリは日本水準に近い。有名ブランドは日本人客の好みを受け容れ新商品を開発してきた。観光は異文化との交流を通じて自らを革新し、双方の文化を変容、発展させる。

これまで、日本のグローバル化は海外に出かけ買い物をすることだった。ネット時代になってもパソコンから世界を覗くだけだった。でも今は違う。隣の部屋に外国人がいる。今朝着いたばかりの旅行者が出発地の匂いと生活習慣を持ち込んでくる。モノではなくヒト、大勢の外国人が最初は観光、次は居住者としてともに暮らす。未来の地域社会では、彼らの文化を受け容れてわれわれ自身が変わっていく。身近な場所での異文化交流が日本を発展させる時代を取り戻そう。

●書籍目次

序章 激増と消滅—経験から何を学び再生に活かすか
第1章 コロナ直前、日本で起こっていたこと

外国人観光客の急増
観光公害? 誰が悪かったのか?
郷に従うようになってきたアジア系外国人観光客

第2章 イタリア観光現代史—反発と受容・活用を振り返る

ヨーロッパ観光産業の四つの発展段階
19世紀後半から戦後、イギリスとアメリカ
日本人の登場とその購買力
ベルリンの壁の崩壊と東欧人の登場
東アジアからの観光客の急増
観光急増から成熟へ

第3章 観光客の変化に応じて変わったイタリアの社会—交流の中で生まれた融合

団体旅行の誕生から個人旅行への転換
アメリカとの融合
日本との融合
リピーター客は層をなし やがて第二の故郷とした
受容から能動へと転じ母国を変えた観光客

第4章 イタリアの観光公害と観光政策—都心整備・創造都市・持続可能性

地方の小都市の観光公害と交通まちづくり
観光振興が招いたヴェネツィアの繁栄と終わりなき混乱
観光客の総量規制と選別
商業サービスの適正配置
観光都市の町並み保存
町なかの歩行者空間化
EUの文化観光政策と〝創造都市論〟
持続可能な観光の模索

第5章 観光を生かしたイタリアの稼ぎ方—ホストとゲストの出会いが生んだスモールビジネス

歴史的環境を活かした厚利少売
試行錯誤をへて成熟した市場
地方都市の再生 田舎に押し寄せてきた国際社会
ホストとゲストが育てたグローバルで小さなビジネス

第6章 女性が変えた京都の観光政策—町家・町並みを育てたアウトバウンド経験

観光都市ではなく文化・芸術都市を目指す
京都で起こっていたこと
四つに区分できる京都観光の戦後史
モータリゼーションへの対応
アンノン族の時代 そして女性化、成熟化
バブル崩壊と〝そうだ 京都 行こう。〟
観光都市の景観論争
観光客も後押しした景観政策と町並み整備
京都の持続可能性と進化する文化・景観・観光政策

第7章 アウトバウンドとインバウンドが生んだ四つのシフト—国際水準の歴史観光都市への転換

京都観光四つのシフト
「都心シフト」は 装い・味わう・暮らしの贅沢をセットメニューで
伝統産業から生活文化産業へ
地域性を目立たせたもう一つの要因
アジア・シフト
コロナ後の京都に求められること

第8章 コロナ後に向けた地方都市の観光再生—量を制御し質を高め地域を豊かにする八つの戦略

観光公害とコロナ・ショックから何を学ぶべきか
求められるリスペクトと負担、量の規制
量を制御する二つの戦略
地元を優先し厚利少売で世界と結びつく三つの戦略
生活文化を創造し惹きつける三つの戦略
世界の地方都市で進む国際化・個性化

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『インバウンド再生 コロナ後への観光政策をイタリアと京都から考える』宗田好史 著

体 裁 四六・284頁・定価 本体2400円+税
ISBN 978-4-7615-2750-1
発行日 2020/11/20
装 丁 KOTO DESIGN Inc. 山本剛史・萩野克美

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