§6.3 “法律できめる”がくせ者/ 尾崎行雄『民主政治読本』
“法律できめる”がくせ者
例えば,第24条の結婚の自由を認めた条文の第2項には,配偶者の選択・財産権・相続・住居の選定・離婚並びに家族に関するその他の事項に関しては,法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければなあないとあって,この法律のでき工合いかんが,家庭生活の全面に大きな影響をもって来ることは一目瞭然であろう.
また第27条の勤労権を認めた条文の第2項で,賃金・就業時間・休息その他の勤労条件に関する基準は法律でこれを定める.とあってこの勤労権の実体はほとんどこの法律のできあんばいと,その運用いかんにかかっている.
また第31条には,何人も法律の定める手つづきによらなければ,その生命もしくは自由を奪われ,またはその他の刑罰を科せられないといい,第29条の財産権の第2項では,財産権の内容は公共の福祉に適合するよう,法律でこれを定めるという調子で,真に最大多数の幸福になるような法律ができなければ,国民は決して憲法が保障しているような権利自由を,完全に享受することはできない.
その法律をつくるものは代議士であり,その代議士をつくるものは選挙であり,その選挙はわれわれの1票を入れることである.選挙が正しく行われなければ,新憲法のかがやきもうすれるわけだ.
しかし,選挙のことは別に1章を設けて詳しくかくから,ここでは方向をちょっと変えて,この新憲法を最も民衆的に運用する上に相当大きな役割をもつであろうと思われる問題を二つとりあげて一言をついやしたいと思う.
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底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)
本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。
2021年3月1日公開
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