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§6.2 法律と議員と選挙/ 尾崎行雄『民主政治読本』

法律と議員と選挙

 明治憲法でも言論・集会・結社・出版・住居等,人間生活の多方面にわたり,幾多の自由と権利を認めたが,それは大抵法律のはんい内でとか,法律によるにあらざればという条件の下においてであった.ために憲法で与えた自由や権利を法律で奪うというような詐偽が行われる余地があった.すなわち過去の藩閥・官僚・軍閥の政府または財閥のかいらい政党による政党政府は,巧みにこの欠陥に乗じて,人民の権利自由を束縛することに成功した.
 すなわち,新聞条令だとか,治安警察法だとか,治安維持法だとか,総動員法だとか,戦時刑事特別法だというような幾多の法律をつくって,憲法が国民に与えた権利自由を奪ったのである.そうして,そういう法律は国民が選んだ代議士がつくったということを忘れてはならぬ.
 今度の憲法にも,もし国民が油断したり,選挙をやりそこなったりすれば,せっかく憲法で与えられた権利自由が有名無実に化するおそれは十分ある.すなわち,前述のごとく,この憲法の解釈と運用を積極的にするか消極的にするか.或いは保守的にやるか,革新的にやるかで,国民の権利自由の実体は大いに違って来るし,これからの法律のつくりかたでもまた大いに違って来る.なぜなら今度の憲法にも法律のでき工合一つで,伸縮自在に決定せられる権利自由が,なかなかたくさんあるからである.


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底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)

本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。

2021年2月28日公開

誤植にお気づきの方は、ご連絡いただければ幸いです。

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