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園長は、万能なのか?

園長は、園によって役割も権限もキャリアもそれぞれだ。

できなければいけないことや、時間の使い方も、正直なところ"正解"がないし、背中から学ぶこともできない。
当然ながら、誰かがつきっきりで理を教えてくれることもない。

記憶を辿ってみると、私が園長だったころにお付き合いしていた園長たちは、住職、養成校の非常勤講師、不動産オーナーに社会福祉協議会の元職員、元トップセールスマン、ツアーコンダクターだった人に実業団出身者とバラエティに富んでいた。保育士として長年勤めた先に、身内でもないのに園長職が巡ってきた人は稀だった。

一法人多施設の運営形態を除くと、多くの場合は"身内"そして"マネジメント的"な立ち位置で園長職を担っており、私もまさにそのように仕事をしていた。


私は、20代前半で園長になった。
就任時に持っていた資格は幼稚園教諭と小学校教諭(いずれも2種)、普通自動車と普通自動二輪車の免許。

保育士資格に至っては、園長就任1年目に国家試験で取得し、いまだにペーパー保育士だ。

今回は、そんな私が、どのように保育園の園長としての仕事をしてきたか、その中で見つけた、園長の役割を記すことにする。

就職後2年間は、園の事務職員として仕事をしていた。
事務所には、当時の主任保育士がいるだけで、園長は入院中。まず初めに驚いたことは、保育料以外に多額の運営費が入ること。保護者の収める保育料で、どうやったらこんなにたくさんの人を雇えるのか?という疑問はすぐに解決した。

そして、行政からの連絡を頼りに、運営費の請求書作成や監査に向けての書類準備、指摘事項への対応、理事会の開催や登記、社会保険や雇用保険の手続きなど"決まっていること"から着手した。
インターネットも、まだまだおぼつかない時代である。
もちろん、日々の電話対応や発注、保育材料の買い出しや銀行や市役所周りもしながら、である。
そして、自主事業で開いていた学童保育の補助にあたる時間に、随分救われていた。

先代から付き合いのある園長が同じ市内にいたこと、パソコンスキルと福祉制度の知識が多少あったこと、そしてただ単に"若い"ということが、ずいぶん助けになった。

そして、2年後に園長になる。

就任の理由はさておき、とにかく"誰かがやるしかない"と、大きなものを背負った気持ちでいた。
事務はこなせるようになったとはいえ、たかだか24歳。子どもも2人抱えている。今考えると、保育士たちも保護者も、相当不安だったに違いない。

保育の方は、就任したての主任の人柄と経験に助けられた。そして、離職予定だった保育士が、ほぼ全員残ってくれたことで、4月を迎えることができた。

よく乗り越えたと思う反面、もう2度と、こんな4月は迎えたくないと心から思う。


この経験から私が得たことは、園長に必要なことは"働く人を不安にさせないこと"に尽きるということだ。

不満の種は、ほとんどの場合"不安"であるし、不安も不満も、職場を"不穏"にする。
そして多くの場合、視野の狭さや知識不足、相談が慰めで終わっていることが、不安を引き起こしている。つまり、職場内での人間関係の問題は、適切な教育によって、8割以上解決する。

園での立ち位置や、本人の価値観への理解ができていないのに、発揮を要求する園が、いかに多いことか…
以前の私もそうだった。

保育の安定は、間違いなく"保育士の安心"からしか生まれない。その場限りの"楽しい"は、すぐに消えてなくなるが、一度得られた安心感は、人をそこに留め、貢献する意識へとつながるのだ。

保育士の安心のために、園長がやるべきことは
○人材育成や適材適所以前に、一人ひとりの保育士を適正に評価する。
○一人ひとりのキャリアプランを描き、本人とも確認し、擦り合わせた上で、認識してもらう。
○働き方や仕事内容ではなく"役割"や"存在"は、等しくすべての職員にあるからこそ、園にとって、どのような存在であり、今後はどのような役割を担ってほしいのかを伝える。

安易な励ましや、子ども騙しのような褒め言葉は、感情的な保育士にしか届かない。
つまりは、思考し、行動し、振り返りから質を向上させるスキルのある保育士には、通用しない。


また、園長に求められスキルも、時代背景や組織の状況、そしてタイミングによって、大きく変わる。
私自身も1〜2年目の創成期、3〜5年目の成長期、そしてその後の安定期を見ると、無意識ながらに引き継ぎと登用をしていた。

そして、職員は見事に育ち、身内でない保育士が、園長を務めて8年が経つ。離職者もほとんどいない。
これは私の手腕でも運任せでもなく、一人一人の意識と努力、そして今の園長をはじめとする職場内での教育の成果だといえる。園長だった私がしたことは、仕組み化と教育が必要だと考え、時間とお金をかけたことだけだ。

我が身を振り返っても、園長は万能ではない。

だからこそ、自分と園の現実を直視し、現状を捉えることが必要だ。
直視することは怖いが、目を伏せていて、取り返しのつかない事故や大量離職につながることに比べたら、大したことはない。

知らないままでも日常は流れ、資金は回り、なんだかんだ運営はできるがそれでいいのか?

ここで、私の経験から出した、いざという時の園長の仕事を列記してみよう。

万が一事故が起きた時に必要な園長の仕事の一部。
これを全て一人でできる園長は、万能かもしれない。

こうしてみると明らかに、園長は万能ではない。
しかし、あたかも万能かのように仕事をしなければならない。
そのための助けを用意し、保育士に安心をもたらすことが最重要であることもまた、確かだ。

これまで出会ってきた、有能で穏やかな園長は皆、自分にできること、できないことを明確にし、その上で園と一人ひとりの保育士のためにと、専門家に頼ることが上手い。
おかげで、私たちも様々な種類の仕事を依頼してもらってきた。
どうにか自分たちでやろうとすると、結局は無駄に終わることが多く、園内研修や研究発表のみならず、マニュアル作成やミーティングサポートまでも、プロが入れば、教育の一環となる。
ただでさえ、保育の現場は忙しいのだから、働く人たちの不安を減らして充実感を得るための方法を冷静に考えると、自ずと答えは出る。

園長は万能でないことを恥じることも、恐れることもない。ただひとつ、そのことに目を伏せ、保育士の伸びるべき資質を閉じ込めることは、やめてほしいと思う。

目の前の保育士は、保育士になることを目指して資格を取り、人生の時間を使い、今ここで働く選択をしているのだから。

そう思って園長をしてきたし、これからもその気持ちで、園長たちと付き合って行こうと思う。

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