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ショート:【ぼくスシえモン】

のり太の親は寿司職人で、のり太も将来は寿司職人になるように、うるさく言われていた。しかしのり太は反発していた。

「クソ・・・。寿司職人なんか絶対なるもんか」

寿司職人にならないために大学を目指して勉強しているが、イマイチ身が入らず、成績もかんばしくなかった。大学に入って他のみんながそうするように、いい企業に就職したかったのだが、成績が悪く気持ちばかり焦るのであった。

「あーーー、大学受かんなきゃ職人にさせられちまう・・・」

のり太がそうつぶやいた時だった。
机の引き出しがガバッと開いて、中から青っぽい奇妙な物体がモゾモゾと這い出てきたのだ。

のり太は一瞬仰天したが、このシチュエーションどっかで見たことあるなと思うと、妙に冷静になった。その青いやつの姿形も、国民的によく知られたアレそっくりなのだが、引っかかる部分があった。
魚っぽい尻尾だ。文字通り、引き出しに引っかかって出てくるのに手こずっている。

「・・・。」

のり太は黙って出てくるのを待った。

「あの、もういいすか。しゃべっても」
「はいおまたせ。やあのり太くん、ぼくスシえモン。」
「ツッコミどころが満載だけど、まず聞かせろ。誰の差し金だ?」
「未来ののり太くんだよ」
「なるほどな。で、なんか道具出してくれんの?勉強うまくいくやつとか」
「それは出せないけどお寿司は出せるよ」

そう言うとスシえモンは例の四次元らしきポケットに手を突っ込んだ。

「らっしゃい。何にぎる?」
「え、じゃあ中トロ」
「へい!」

そう言ってポケットからヌッと中トロの握りを出してきた。
食べてみると、確かにウマかった。
それから何カンも、言えばなんでも出てきた。が、あのポケットの中はネットネトだろうと思うと、なんともいえない気分だ。

「なるほど。てかなんで未来の俺はお前を送り込んできたんだ?」
「それはね、未来ののり太くんが助けを必要としてるんだよ。」
「どんな?」

聞くと、この後ののり太は大学に行かず、親元で修行したのちに独立し、回転寿司チェーンを起業するらしい。
高校生の頃から構想していたスシえモンを開発し、経営は軌道に乗った。
しかし、競合他社が次々とさらに性能のいいスシロボを開発したことで、のり太の会社の業績は落ちていった。
そこで、スシえモンを構想していた頃の自分にスシえモンを送りこみ、意見を聞こうとしたのだという。

「なるほどな。じゃあはっきり言わせてもらうぞ?」
「うん、なんでも言ってよのり太くん」
「まずな、お前全然スシロボっぽくねえし、だいたいポケットから寿司出されても気持ち悪いだろ。品質普通に怪しいわ。しかもなんだよそのまん丸なお手手は。そんなんで握れるわけねえだろ。粘土みたいにコネられたやつが出てきそうだもん。あと、その尻尾だけ魚なのヤメろキモいわ」

容赦なくのり太が言うと、スシえモンは泣きだしてしまった。

「あーあー悪かったよ。てか未来の俺が悪い。ちと文句言いに行こう!連れてけ!」

そう言うとのり太は、強引にスシえモンを連れて引き出しの中に飛び込んだ。

「おほーースゲーーー!マジであるんだなこういうの!」

キュイーーーーン
アニメで見たまんまのワープに感動した。


ガッシャアン!
どうやら10年後の未来についたようだ。
周りを見渡すと、立派なビルの上層階のようだ。
目の前にいるのは、、、10年後の俺だな。そんなに変わってない。

「おいお前、俺だな?てかこのロボは無いぜマジで」
「まじか、自信あったんだが・・・」

高校生ののり太はボロクソにスシえモンをけなした後、改善案をメモに書き出した。
デザインはもっとシュッとしたやつでリアルな人っぽくて、職人風に。顔はスシえモンのイケメン風。
機能はここを削ってこれを追加・・・・

「ほれ。これを開発すれば売れるから!そんじゃな!」

そう言って嵐のように去って行った。
・・・と、引き出しが再び開き、

「あ、そいつ連れてくわ!」

そう言うと旧式のスシえモンは連れていかれた。


現在に戻ってきたのり太とスシえモン。
のり太は、受験勉強のために机に広げてあった参考書やノートをゴミ箱に放り投げた。

「スシえモンよ。俺は未来の俺が心配、てかさっき説明した新型ロボを最初っから作れば成功できるから、今から作ることにしたわ」
「さすがのり太くん。なにか握る?」
「じゃあ、中トロ。新型ができるまでサポート頼むな。」

のり太は新型スシえモンの開発に没頭し、それから3年ほどかけて完成させた。かたわらでは旧式スシえモンがいつも寿司を握って応援していた。

完成した新型スシえモンでのり太はスシチェーンを起業し、見事に成功させた。
のり太は一躍有名になり、忙しくも充実した日々を送っていた。

しかし、いつもあの四次元ポケットから寿司を出して応援していた旧式スシえモンは、いつしか相手にされなくなっていた。
新型に搭載されたAIは優れたもので、ユーザーの心理を読んで適切なタイミングで好みの寿司を出してくれたからだ。
そのうち旧式の方は社長室の隅っこでほこりをかぶっていた。


気がつけば、あれから10年経っていた。

(そろそろスシえモンを高校生の俺に派遣する頃だよな・・・)

そういえば、と、ほとんど忘れていた旧式スシえモンを、部屋の隅に見つけた。のり太はホコリを手で払った。

「コイツとずっと一緒だったんだよな・・・」

のり太は急に懐かしく感じ、整備してまた握ってもらいたい、と思った。

「よし、旧式の方は整備しておこう。代わりに過去の俺に送るのは、こっちだ」

そう言って新型のスシえモンに命じ、10年前の自分へ派遣したのだった。

すると、わずか5分後のことだ。
ガバアア!と机の引き出しが開くと、高校生ののり太が飛び出てきたのだ。

「おいお前、俺だな?てかこのロボは無いぜマジで」
「まじか、自信あったんだが・・・」

高校生のり太は新型のスシえモンをボロクソに言うと、新型は泣き出してしまった。
そしてのり太はもっとこうしろ、とかメモを取り始め、周りをぐるっと見渡した。

「なんだいいのがあるじゃないか。あれがいい」

そう言って指さすのは、旧型のスシえモンだった。

「こっちの方が可愛いし親しみもあるじゃん。こいつ連れてくわ!」

高校生のり太はそう言うと、旧式スシえモンを連れて引き出しの中に飛び込んだ。

「あ、ちょっと待って!」

引き出しが閉まる寸前、大人のり太は引き止めた。

「のり太、もう泣かさないであげてな。」

のり太はうなずくと、引き出しの中に去って行った。


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