ガチ産業医3

3.健診判定の落とし穴

はじめに

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産業医活動の中に、健診判定というものがあります。さてここで、産業医は健診で何を判定すればよいのでしょうか?

参考にするべきは、厚労省の「労働安全衛生法第66条の5第2項の規定に基づく健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」です。

この指針では、健診を実施した医師(産業医とは限らない)が診断区分をつけ、異常所見がある労働者については企業が医師(産業医や地域産業保健センターの医師など)に意見を聞き、その結果として就業区分をつけるという流れになっています。

根拠法令

健診判定(医師の意見)に関する根拠法令は労働安全衛生法66条の次の部分です。

(健康診断の結果についての医師等からの意見聴取)
第六十六条の四 事業者は、第六十六条第一項から第四項まで若しくは第五項ただし書又は第六十六条の二の規定による健康診断の結果(当該健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない。

医師の意見として就業区分を事業者に意見するというのが健診判定になります。就業区分は「通常勤務」「就業制限」「要休業」といったものに区分されます。こちらの詳細はまた別記事でご説明しております。(就業上の措置に関する記事、就業制限に関する記事、要休業に関する記事

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他の判定区分(診断区分・指導区分)

他にも治療の要否としての「診断区分」(異常なし・要観察・要医療)や、保健指導・受診勧奨などの対応の要否としての「保健指導区分」(指導不要・要保健指導・要医療指導)といった判定区分をつけることもありますが、最も重要なことは「就業区分」をつけるためのものです。「診断区分」や「保健指導区分」の判断だけで終わってしまうという落とし穴にはご注意ください。産業医によっては、数百人から数千人の労働者の健診判定を行うこともあります。そのような場合においては、あれもこれもと判定項目があっては、健診判定に膨大な時間を費やすことになります。産業医活動が健診判定業務で忙殺されてしまってはいけません。だからこそ、判定すべき項目を明確にする必要があります。

健診結果だけで判定という落とし穴

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健診判定は、産業医だけではなく、地域産業保健センターの医師、労働衛生機関の医師なども行うことができます。しかし、診察しないで診断や処方するといったことがありえないように、労働者がどんな働き方をしているかといった情報がなくては、就業区分は本来判断できるものではありません。自分がどう働いているかを全く知らない初めて会った医師に、数字だけで突然就業制限されたら困るでしょう。例えば、上のイラストのように、初めて会った医師に突然シフト勤務制限と言われたら、どうしますか?だからこそ産業医はしっかりと現場を知るということがとても重要です。(参照:「職場巡視の落とし穴」)
特に健診結果が悪い方や、有害性の高い業務に就いている方は、入念にその労働者の情報を収集してその労働者が本当に安全に健康に働けるのかを判断する必要があるでしょう。平成29年の労働安全衛生規則の改正により、事業者は産業医への情報提供が必要になりました。産業医として適切に労働者の就業区分を判断するために、健診結果だけではなく労働者の業務に関する情報も収集することが必要だと言えます。

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(健康診断の結果についての医師等からの意見聴取)
第五十一条の二 
3 事業者は、医師又は歯科医師から、前二項の意見聴取を行う上で必要となる労働者の業務に関する情報を求められたときは、速やかに、これを提供しなければならない。

判定の記録

また、産業医活動では記録を残すことがとても重要です。以下の労働安全衛生規則にも定められているように健診結果個人票に直接書いたり、就業上の措置の関する意見書や報告書を作成するなどして、記録として残すことが求められます。私は、判定する人数が多い場合には、就業区分のハンコを押印して効率的に健診判定しています。

労働安全衛生規則では以下のように定められています。

(健康診断の結果についての医師等からの意見聴取)
第五十一条の二 第四十三条等の健康診断の結果に基づく法第六十六条の四の規定による医師又は歯科医師からの意見聴取は、次に定めるところにより行わなければならない。
一 第四十三条等の健康診断が行われた日(法第六十六条第五項ただし書の場合にあつては、当該労働者が健康診断の結果を証明する書面を事業者に提出した日)から三月以内に行うこと。
二 聴取した医師又は歯科医師の意見を健康診断個人票に記載すること。


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