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在りし過去、遥か未来、

夢を、見た。

経緯も理由も 同じく場所もわからないが、友人と二人で海外を旅する夢だった。

私たちは異国の地でなんとかバスに乗り、どこかも知らない目的地を目指していた。車内では、同じく観光客と思われる乗客たちと話に花を咲かせ、互いにSNSを交換した。

無事に目的地に辿り着いた私たちは、共通の趣味であるカメラを構え、
その美しい風景をファインダー越しに捉える。


夢は、そこで途絶えた。


瞼を擦り、傍らに置いてあるスマートフォンを見ると推しの姿。さすが今日も格好いい。
じゃなくて。でかでかと映し出される<9:47>の表示。

「やっべ」

今日は休日であるのだから焦らなくてもいいのだが、15年以上早起きが習慣となっている私にとっては この時間帯はかなり珍しい。

現在世界を賑わせているワールドカップ。弟が11年間サッカーをやっていたのもあり、各国の戦略・選手をある程度調べて試合観戦に挑むくらい好きなスポーツの一つである。
前回大会も、今は絶賛一人暮らし満喫中の弟と夜な夜な大騒ぎし、目も喉もカラッカラにしながら学校に行ったものだ。

例にもれず、前日(日を跨いでの開始だったため、とっくに「今日」であったが)も興奮冷めやらぬまま布団を頭までかぶり、無理やり寝ようとしたのが数時間前。そして今に至る。

閑話休題。


朝食は紅茶で済ませよう、とお気に入りのマグカップを棚から取り出す。
以前訪れた展示会で販売されていた、イギリスの画家ジョン・コンスタブルの風景画がプリントされたものだ。
コポコポと音を立てて熱湯が注がれると一気に湯気が立ち、私の眼鏡を曇らせる。まだ飲めそうにないソレを机に置き、今朝の夢のことを考えた。


彼女とは高校で出会った。
私の通っていた中学のすぐ近くにあり、偏差値は少し高めであるが「近いから」という理由で進学する生徒が多かった。私もその一人だった。
そのため、緊張で迎えたクラス発表の際 、保育園からの幼馴染が3人もいたことに驚きと安堵を覚えたのは懐かしい話だ。
初日からその面子で固まってしまったのは、自然な流れだった。

件の彼女はその逆であった。隣の市から数少ない新入生として高校生活を始めた彼女は、クラスにかつての同級生が一人もいなかった。

私の記憶はいつだって曖昧で、初めての会話は憶えていない。
だが、幼馴染の一人が後ろの席であったという彼女から「お昼一緒に食べてもいい?」と声をかけられ、昼食時に私たちの集まる席に連れてきたのが始まりだった。らしい。

「クラスに知り合いがいない、といっても別のクラスには何人かいるし。
でもまあ、さすがに一人は不安だったから○○に話しかけたんだわ~」

と、聞かされたのが出会って数日後。共に行動するようになり関係もより深まった私たちは、まるで昔からずっといたような錯覚すら覚えた。
クラスが別になっても、テスト期間は当たり前のように近くのファミレスに集合し、 名ばかりの「勉強会」を三年間続けた。彼女は英語が得意だった。
大学が別になっても、必ず年に数回は誰かの家に集合し、いつまで経っても彼氏ができないだとか、バイトがだるいだとか代わり映えのない話をした。彼女は、外語大に進学していた。

先ほど言ったようにそもそも最初の記憶が薄れるくらい、彼女と私たちとの思い出は濃い。


ここまで書いておいてなんだが、別に彼女は亡くなったわけではない。
つい先日も「Silentやばい。鈴鹿央士を幸せにしたい。」とかLINEが入ってきたので全然心配ない。
自分でもなんだか「おセンチな話になっていないか?」と気がついたので
一応ご忠告。


さて、そんな彼女は大学時代に何度か留学を経験している。アジアだったりヨーロッパだったり。そのため価値観や人生観がかなり柔軟であり、かつ生まれながらのポジティブであるため、心底ネガティブな私にとっては目標のような存在なのだ。

そして私もアメリカ留学をしたことがある。詳細は後日書こうと思うが、(今思いついた) 苦手だった英語に挑戦し、どうせなら!と決意したのだ。
その前に、人生初の飛行機、人生初の海外の予行演習として彼女と台湾に行ったことを思い出した。それも今度書こう。

台湾桃園国際空港にて



彼女は留学の関係で私たちより一年後に卒業し、大きな車販売の会社に勤めると聞いた。海外ともやりとりできる部署で仕事がしたいのだと。

かくしてその目標は叶わなかった。
「何年か経って仕事に慣れてから、異動希望出す。世の会社員様はそういう流れなんだろうけどさあ。一番嫌な部署になって、しかも全然希望してなかった同期はウチが希望したところに配属。やっていけるかなあ。」と珍しくしおらしい姿を見たのが今年の6月。

数か月後には退職していた。この辺りで「人生をなめるな」「そんなんだったらこの先どの会社でもやっていけない」などの声が挙がりそうだが 彼女の人生なので黙っ・・お口チャックで願いたい。私も似たようなもんだし。


さあ、長々と続けてきたがやっと話は現在に。
今の彼女の目標はずばり、海外留学だ。

え?まただって?

いや私も思った。というか直接聞いたので直接言った。

「また?今度はどこ?」
「んー、カナダ。ビジネスと語学を並行して勉強できる学校があってさ。」
もうなんなんだこの子は。次々と周りの人間がやらないようなことに挑戦していく。手あたり次第、無鉄砲とは違う。「今、自分がやりたいことに全力で突き進む」それが彼女のすごいところ。私の尊敬しているところ。

試験に合格すれば来年の9月入学なので、それまで勉強の毎日らしい。期間は一年だというが、やはり定期的に会っていた身としては、この国に居ないという事実がすでに寂しい。過去に何度もあったのに。というか、まだ試験すら受けてないのに。

「いつか会社立ち上げたらさ、私雇ってよ。雑用でもなんでもやるから。」
寂しさを紛らわせるために彼女にこんな言葉を投げかけた。
「もちろん。その時は一緒に楽しい仕事しよ。」
彼女は笑って答えてくれた。


そんな会話の矢先に見た今朝の夢。
あれは、過去の旅行の思い出から見せた 潜在意識だろうか。
それとも未来に起こるかもしれない 彼女と語った「夢の続き」だろうか。

いずれにせよ、私は彼女の「今」を応援する。大人になってより一層、互いの本心を、弱音を曝け出せるようになったあなたを。


ちょうどいい温度となった紅茶を啜りながら、今日も緑のフクロウがアイコンの英語学習アプリを開く。
あんなに苦手だったのに、習慣とは恐ろしいものだ。

まずはもちろん自分のため、次に当分の間、彼女が行くであろう国へ遊びに行くときのため、と目標付けて。







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