【朗読】立ち上がるときは
文月悠光
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立ち上がるときは
ひとりの方がいい。
だれかと足並み揃えるよりも
裸足で無防備にさらされること、
その贅沢を足裏で味わうために。
立ち上がるときは
ひとりの方がいい。
海辺を わたし一色に染めるため。
空が晴れるのを見計らっていたら
日が暮れて取りのこされる残骸の身。
もう長いことうずくまっていて
立ち方がわからなくなっていた。
わたしだけが低い目線で、
なすすべもなく世界を仰ぐ。
みんなが走り出したとしても、
わたしは焦って身を起こしたりはしない。
砂浜から立ち上がるとき 頼れるのは、
この転びやすい脚だけなのだ。
立ち上がるときは
ひとり無様な方がいい。
青い痣のひとつもできるだろう。
だれかを恋しく思うこともない。
ひとりで立ち上がるとき、
痛みを忘れたような顔はするな。
苦い記憶を丁寧にたたみ、膝に包み込む。
膝頭を立てて短く息を吐き、顔を上げた。
わたしはちゃんと立てているか。
この胸に約束したとおり 真っ赤な裸足で
夕焼けに発熱しているか。
詩「立ち上がるときは」文月悠光
*「婦人之友」2021年6月号 ミヨシ石鹸さん広告より。
毎月、裏表紙広告欄に詩を書き下ろしています✍
写真:岩倉しおりさん
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ひとりの方がいい。
だれかと足並み揃えるよりも
裸足で無防備にさらされること、
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立ち上がるときは
ひとりの方がいい。
海辺を わたし一色に染めるため。
空が晴れるのを見計らっていたら
日が暮れて取りのこされる残骸の身。
もう長いことうずくまっていて
立ち方がわからなくなっていた。
わたしだけが低い目線で、
なすすべもなく世界を仰ぐ。
みんなが走り出したとしても、
わたしは焦って身を起こしたりはしない。
砂浜から立ち上がるとき 頼れるのは、
この転びやすい脚だけなのだ。
立ち上がるときは
ひとり無様な方がいい。
青い痣のひとつもできるだろう。
だれかを恋しく思うこともない。
ひとりで立ち上がるとき、
痛みを忘れたような顔はするな。
苦い記憶を丁寧にたたみ、膝に包み込む。
膝頭を立てて短く息を吐き、顔を上げた。
わたしはちゃんと立てているか。
この胸に約束したとおり 真っ赤な裸足で
夕焼けに発熱しているか。
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