見出し画像

風をいっぱいに集めたら

電車待ちのホーム。

今日は、晴天なれど思いのほか風が強い。
着ているシャツが、パタパタとはためく。
バタバタといってもいいくらいだ。

電車到着までは、まだ時間があるようだ。
そこでおれは、目をつむり思考を飛ばしてみる。

目の前に広がるのは、広大な海だ。
ここは日本海か。
海風が容赦なくおれを洗う。
あいにくの曇空。
じきに一雨くるだろう。
人影も無く、猫の子一匹見当たらない。
ただただ、白浪のたつ海が広がるばかりだ。

かと思うと、遥か上空に舞い上がる。
もう少しで宇宙に届きそうだ。
高気圧の上に佇み、大陸からの強い風を全身で受ける。
遠い南の海には、生まれたての台風が見えた。

おれは、腕をめいいっぱい広げ、全身で風を受ける。
地上での汚れが、吹き飛ばされて行くようだ。
このまま風になってしまおうか。
振り向きざまに偏西風に乗れば、どこまでも行けるだろう。

その時、今までよりも強い風が、意識を引き戻す。
ボンっという音とともに、車両が目の前に現れる。
ビクッとしたおれに、誰か気が付いただろうか。
しばらくして、車両ドアがダルそうに開いた。
先頭で乗り込んだおれは、ふとホームを振り返る。

まだ腕を広げだおれと、目が合ったきがした。
「あのまま、風になるのも悪くなかったよな」
心の中でそうつぶやいていた。
もう一人のおれは、気持ちよさそうにまた目を静かに閉じた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?