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一瞬にして周りをトリコにする提案を生み出す新しい経営のあり方|山口 周さん

5月8日、武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第4回の授業内にて、 山口周さんのお話を聴講しました。

2018年ビジネス書の話題の中心であった『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』の著者であり、独立研究者として哲学等について多面的に話題提供してくださる方で、大変興味深いお話を伺うことができました。

ものが豊富にある世の中でシンプルな欲求が満たされてしまった今の時代において、正解がコモディティ化してしまい、正解を磨く戦いのアプローチに競争力がなくなってしまった、という時代背景からお話しくださいました。そのような時代において、解くべき問題を立てることに希少価値があり、それを実現するためにありたい姿を描く、つまり意味形成が必要になってくるとのこと。ビジネスにおいて意味形成がより一層求められ、美意識、審美眼が必要であること、サイエンス偏重型の経済活動に一石を投じるアートの必要性に関する課題提起について、共感を持ってお話を伺いました。

ここからは私の所感ですが、ビジネスを実現するにあたり、事業者が意味のない、あるいは役に立たないものを世に提案し、そこから消費者ら周りが意味を与えてくれて意味を持つということはないと考えます。常に事業者側が何らかの意味を持たせて製品を世に提案し、さらにそれに共感した人が更なる意味を付加していく、という流れであり、必ずどのような製品でも役に立つものを、そしてそれにどう意味を持たせるかを考えて製品は世に提案される状態にしなければなりません。

どのような意味を持った製品とするか、を考えるにあたり、これまでのように正解がありベンチマーク対象があってそれを参考に磨いて付加価値があった時代と比べ、これまでにない新しく意味のあるものを形成することは非常に難しいです。周りから賛同を得て意思決定すること自体の難易度が上がっています。これまで正解があってそれを参考にビジネスを磨くことで周りのGOサインを得ていた経営者が、これまでにない新しいビジネスに対して意味があるのだと自信をもって表現し、そのアイデアに共感してもらえるようにすることが最も難しいポイントだと捉えています。

今後経営者に求められる論点として、「厄介な状況、すなわち現収益は順調に推移している、しかし何かを始めないといけないと思っているといった行動に移すことが難しい。そのような状況において、いかにこれまでにない新しいビジネスを実現するための一歩を踏み出す意思決定をするか。」について真剣に向き合い、解いていきたいと強く思いました。

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そんな中で、良い意思決定の例としてご紹介された、マルニ木工のHiroshima(http://www.maruni.com/jp/items/st_maruni_collection/st_hiroshima.html)のアームチェアのお話が印象的でした。深澤直人さんがデザインされたことをきっかけに深澤さんのSNSを見たアップル社のトップが、クパチーノの本社に数千脚導入すると決めたとのこと。

もちろん深澤さんの功績は大きいと思いますが、マルニ木工社として「ものづくりが好き」という原点に立ち返り、デザイナーと職人らと一体になって新しい体験の提案と職人ならではの技術の追求を掛け合わせ、共創することが大事だと意思決定したことが素晴らしいと思います。「無意識に心地よいと感じていただける椅子」を目指してようやく実現した椅子だと社長が語っておられ、非常に素敵なビジョンだと感じました。

講義を受けたその週末に、マルニ木工社の店舗に出向きました。

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座ってみてすぐにこのHiroshimaのアームチェアを買ったということ、それほどであったことをお伝えしておきます。一瞬にして周りをトリコにするような体験を自社の原点から見出し共感を得ながら共創する意思決定に勇気を持つことが、これからの経営者に求められるアプローチではないでしょうか。




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