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博士を1ミリでも考えている人の学び場の選び方

こんにちは、朝山絵美です。

ここまで、博士後期課程における振る舞い方や研究活動とは何たるかについてお伝えしてきました。ここまでの話を踏まえると、社会人院生にとって学び場である大学院をどう選ぶべきかがクリアになってきます。
そこで、今回は、最適な大学院の選び方について私見をお伝えします。

ここまでの話はコチラをご覧ください。(こちらを読んで頂いた後に、今回の記事を読んで頂くことをお勧めします)


では、まずは、大学院という役割についての前提から。

大学院の役割

大学院を修了するにあたって、研究(学術研究)という活動が求められること、その意味についてお伝えしてきました。

研究は「学術界(学会)に貢献をする」活動であり、それに主眼を置いて説明すると、大学院は、あくまでも学術界とをつなぐ架け橋に過ぎない、と捉えておくのが妥当であると考えます。

「大学院で学ぶ」という言い方をすることが多いので、思わず「大学院がゴール」であるかのように錯覚してしまいます。
しかしながら、本来の研究活動とは、水平線近くにある学術界という離れ島(やや蜃気楼で見えにくい)の中から、どこに貢献したいかを自身で決め、自分でボートを作って、自身の力で漕ぎ進めていかなければなりません。
大学院は、そのボートを出航させるための港にすぎないのです。

大学院はあくまでも学術界へ出航するための港

大学院の位置付け(筆者の私見イメージ)

「大学院はあくまでも港」と捉えると、大学院が学び場のゴールであるかのようなバイアスから逃れることができるでしょう。つまり大学院を選ぶ際に、どの港が一番最適かを考えるということです。

では、大学院の選び方について触れていきましょう。

大学院の選び方

まず、大学は、行きたい学部があるかどうかで選びますよね。高校生の時を思い出すと、ぼんやりと学びたい領域を定めて、文理のいずれかを選び、入りたい学部を決めていました。とてもわかりやすいです。

大学は、何を学びたいか、Inputしたいことを軸に学部を選ぶ

大学院は、大学から進学した場合は、その学部の系列の研究科にそのまま進むことになります。大学院から選択する場合であっても、学びたいことがどの研究科で学べるかで、選ぶことが普通ではないかと思います。

特に社会人の方が学び直しを意識した際、どの大学院に籍を置こうか、という視点で調べ始めると思います。例えば、デザインを学び直したい場合、デザインなどのキーワードで大学院を検索し、そのカリキュラムを眺めます。そのようにして、どのような学びが提供される学校なのかを探索します。

私の思い込み:大学院は、何を学びたいか、Inputしたいことを軸に研究科を選ぶもの
直面した現実:大学院は、貢献したい学術界の研究領域の最適な架け橋となる場所か、Outputしたいことを軸に研究科を選ぶとよい

学び場の選び方(筆者の私見イメージ)

ビジネス界にいる社会人にとっては、特に見えにくい世界である学術界を押さえて、自分自身が貢献したい研究領域の架け橋となってくれるだろう先生のいる研究科を選ぶことが大事であるということだったのです。

確かに、博士後期課程において出願する際は、「主査の先生」という欄があります。主査の先生から事前に承諾を得ていることを条件に願書を出すことができ、その旨を出願書に記載をしなければならないようになっています。(恥ずかしながら、私は願書をダウンロードしてからその事実に気づきました)

では、具体的にどのようにして学び場を選ぶのか。
と、本題に入る前に、私が思う「大学選びのゆがみ」を、「修士課程の入学からその選び方はできないよ」という正直な気持ちを少しばかりシェアします。

大学院選びのゆがみ

修士課程(博士前期課程)の卒業要件である、修士論文の質がなかなか高まらないという問題を耳にします。理想系として、修士論文や修士課程における研究活動の質を、博士後期課程並み(査読付き論文掲載が可能なレベル)にすべきであると仮定します。

そうすると、修士課程で大学院を選ぼうとしている方も、博士と同様、学びたいことを中心に考えるよりも、軸を置きたい研究領域(学術界)との架け橋になる場所か否か、で選ぶのが理想であるとなります。(M1くらいまでは、何をインプットしたいかに力点を置いた選び方が健全。M2以降は、学術領域の中のどこにアウトプットしたいかで選ぶのが正しい。ということなのかもしれません。)

しかし、社会人にとっては、学び直しを目的に大学院修士を選ぼうとすると、やはり何を学びたいか、何をインプットしたいかを軸に選んでしまうものです。とはいえそれは仕方ないことです。大学院のホームページも、概ねカリキュラムなど学びの中身を紹介するページが中心となっています。一方、研究の世界である学術界という世界が見えにくく、新参者はそこに意識を置くことが難しい環境となっています。

修士課程において、研究活動が本質的な活動に近づかない要因の一つは、入学前にそのような意識を持てないからだと思うのです。環境要因、構造的な課題であるので、決して学生個人の問題だけではないというのが私の意見です。

そういう意味でも、修士課程の入学を考えている方でも、博士を1ミリでも考えている方は、この記事を参考にしてもらえればと思い、この記事のタイトルに至りました。では、本題に戻りましょう。

選ぶ観点

先述のように、博士後期課程では先生(教授)を主査として指定したうえで入学します。先生が、自分と学術界との架け橋になってくれる役割だとすると、どのような観点でその先生を選ぶのが望ましいのか。

それは、行いたい研究に関して、どの部分をアドバイザーとして補ってもらいたいのか、という観点で選択することが望ましいと考えます。

そもそも研究は、①既存研究の蓄積の中から批判対象を見つけ、②新しい知を提案し、③信頼性・妥当性の高い手法で証明し、④正しい構造で論文にする、活動です。
この工程の中でどの部分を補ってもらいたいか、それを自分自身で決めることから始まります。欠点を補ってもらいたいという考えもアリでしょう。難易度が高そうなところに厚いサポートが欲しいという考えもアリでしょう。

たとえば、
①のアドバイスを求めるなら、既存研究領域の専門の先生を探す
②のアドバイスを求めるなら、新しい視座や知の領域に専門性のある先生を探す
③のアドバイスを求めるなら、手法自体の研究をしている、あるいは手法を熟知している先生を探す
④のアドバイスを求めるなら、論文指導経験豊富な方、あるいは査読付き論文を出した経験のある先生を探す

もちろん、この四つすべてのアドバイザーとなってくれる先生が見つかれば最高ですが、そうでない場合は、どのような他の方法で補うかを、入学前までに決めておくことをオススメします。

ちなみに、私の場合は、②新しい知の導入において、先生からのサポートを望んだということになります。

私の例
①は、経営学ディシプリンの領域
→既存研究の文献リサーチ、査読付き論文を投稿する過程で補う
②は、アートや美しさという視座
→ムサビの主査の先生にご指導を仰ぐ
③は、定性調査と定量調査の混合手法
→経営学関係なく多岐にわたる文献リサーチ、参考書、解析のプロとの討議
④は、該当学会の文献や、経営学関係なく多岐にわたる文献リサーチ

こんなことを書いている私ですが、このように理路整然と考えて博士に進学したわけではないので、手探りで研究を行った結果論として記載しています。おそらく①を補ってもらうための先生を探すのが一般的であると思うので、私の例はトリッキーなのだと思います。

では、①を補ってもらおうと決めたうえで、どのように調べるのか、最後にお伝えします。

先生を探すにあたって事前に行うこと

1 研究のテーマを決める
いわずもがな、やりたい研究のテーマを決めます

2 ディシプリンを決める
自身の研究のテーマを概観し、どの学問分野に貢献したいかを決め、自身の研究が属するディシプリンを定める。ディシプリンは学問分野のことを指し、例えば、経営学、マーケティング学、デザイン学、等。
そのディシプリンのうち、どのディスコースに貢献するかを定める。例えば、経営学は経済学、心理学、社会学ディシプリンがあり、心理学の中にも更に、組織科学等のディスコースがある。

3 貢献することになるだろう学会を定める
そのディスコースごとに概ね学会のコミュニティが形成されているので、学会を探す。
(これがなかなか探すのが難しい。。。先人のまとめサイトなどを見ます。)
学会のホームページや、その学会のジャーナルなどを読み、どのような研究領域に根ざした学会かをよく観察する。
余力があれば、その学会の正会員となっておく。(正会員の手続きは1ヶ月かかるところもある。D1に発表したい場合6月発表が多く、すると3月末までに〆切のところも多いため、入学前までに是非)

決め方のポイント
· 過去の学会誌等を参考に自身の研究テーマに関心を持ってくれそうな学会にする
·  関連がない学会は、なんとしてでもこの投稿を通してあげたいという意欲を持った査読者が現れてくれないため、後々研究が進みにくいので注意
·  その学会の骨子を批判するようなテーマは、前向きに議論してくれないため、おすすめできない

4 その学会で論文投稿している先生を見つける
その学会で論文投稿している先生を見つける。
researchmapというサイトがオススメ。検索すれば研究者である先生方の過去の論文などを辿ることができます。
所属していたり、委員を担っておられたりするので、学会のホームページで確認できる情報もあります。

ぜひ指導を仰ぎたいと思う先生がいれば、アポを取って出願前に意識のすり合わせをします。
ここまでは理想の話。結局は人間と人間。相性もありますので、ぜひ対面で数度お話するのが望ましいと思います。

5 その先生の所属する大学院の出願方法を見る
ここからは想像の通りだと思うので割愛します。

おわりに

学び場の選び方、いかがでしたでしょうか。
研究活動の①から④すべてを学べる学び場はそうありません。
学校批判ではなく、世の中完璧な人間がいないように、完璧な大学院が存在する可能性も低いわけで、理想の大学院を血眼になって探すよりも①から④をどのような方法で補っていくべきかという観点で、自身の研究の地盤を固めていくのがよいのではないかと思います。

言い換えると、大学院でなくてもいいかもしれません。先生に補ってもらうのではなく、少し探せば知り合いの専門家がいるかもしれません。調べ物が得意な方は自身の力で文献リサーチができるかもしれません。時には生成AIを活用可能かもしれません。

自分にとって補いたい部分がどこなのかをしっかり見定め、計画することが大事だと言えるでしょう。

もっとも、やりたい研究を定めることが一番大切ということは、言うまでもありません。

社会人学生のための備忘録
01 |学び直しに大学院を選ぶということ
02|MFA(美大修士)を修了した私が博士に進学したワケ
03|私が思い込んでいた博士後期課程とその現実
04|私が思い込んでいた博士での研究とその現実
05|博士を1ミリでも考えている人の学び場の選び方
06|coming soon…

最後まで読んで頂いた方に、少し宣伝させてください。修士・博士での学びを通じた新しい発見「ビジネス×アートの交差点」について書いています。ぜひご注目ください。


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