学び直しに大学院を選ぶということ
美大の大学院に通い始め、社会人美大生歴はもう5年になります。昨今注目を浴びているMFA(Master of Fine Arts)、アートのスキルを学べる場所です。
社会人歴15年前後のタイミングで大学院に入学し、修士課程で2年学び、現在博士後期課程の3年目になりました。
ここに来てようやく、アカデミックな領域のイロハがわかってきたように思います。学び直しを考え始めている皆さんや大学院への入学を視野に考えている皆さんに「学び直しに大学院を選ぶ」ということがどのような意味なのか、先人としての気づきをシェアしたいと思います。
学びとは何か
私の学び直しのきっかけは、ビジネスの世界で新しく出てきたデザインやアートの考え方を、正しい理論で学び言語化できるようになりたいという思いからでした。
たまたまふと目にとまったムサビの新しい学科の1期生募集に心惹かれ、願書の申し込みをすることに決めます。
願書を提出する前、学びたいという気持ちの中心は、「アカデミックな知識を色々得たい」「それをキャリアに活かしたい」というものでした。
しかし、提出書類として研究計画書が必要であると募集要項に書かれていた時にハッとしたのです。
「一体何を教えてくれるんだろう、どんな知識が得られるだろう」という聴講スタイルのイメージで「学び」を捉えていたことに気づきました。
小中学校での経験からくるものでしょうか。「学び」=「授業に出席して知識を習得する」というバイアスを持ってしまっていたようです。
また、学びをキャリアに活かす際に、研究という要件を課した上でアウトプットする必要があることも実感します。
大学院での「学び」には一段階上の主体性が必要であることを再認識したわけです。
学び場の選び方
社会人学生にとっての学びのハードルは「時間」です。掛けられる時間がどの程度あるのか、ご自身の生活スタイルや仕事の状況に応じて学び場を選択するのが賢明です。
どのような「インプット」のスタイルを望むか
❶ 聴講形式 = 知識吸収型の学び
❷ 課題取組み形式 = 知識創造型の学び
❶知識吸収型は、各所で開かれる講座やワークショップなど単発の勉強会で見受けられるタイプです。大学院や企業、有志の団体、研究会をフォローしておくと、それらが開催する公開講座が、Facebookの広告やPeatixなどでレコメンドされてきます。それに参加するだけでも一定の学びがあります。
言わずもがな、❷知識創造型は時間も労力も4-5倍かかります。大学院などの学位や資格の取得に相当する学び場では、❷のような学び方が一般的です。ある程度長期的なプログラムや、メンバーが固定されるものは、一つの課題を一定の時間をかけて取り組むようなカリキュラムが用意されています。特に、チームで取り組むケースもあり、その場合は授業以外にも多くの時間を要します。
次に、アウトプットです。
どのようなプロセスを通じて「アウトプット」したいか
❸ 学術研究(文献調査や論文執筆など)を通じて学びを活かす
❹ 実践(仕事や社会での実践など)を通じて学びを活かす
学び直しをする以上、学んだことをキャリアに活かすことが前提になるでしょう。その際、どのようなプロセスを経て学びを活かすか、についてです。
大学院で学位を取得する場合は、一般的に❸学術研究が要件になりますが、大学院によって濃淡があります。大学院を選ぶにあたって、どの程度学術研究の成果を厳しく求められるかをよく理解することが重要です。
さらに、そもそも自身のキャリアに活かす手法として、文献調査や論文執筆などのアカデミックな領域での研究は有効なのか、をよく考える必要があります。感覚的には、❸学術研究を経ることは10倍以上の時間と労力が掛かります。「大学院の履修証明プログラム」などを学び場として選び、学びを直接❹実践に活かすことのみに専念することも一つの手なのです。
大学院(修士)を選ぶということ
修士課程は、学位を取得することになるため、単位取得や修士論文などの定められた要件をクリアすることが必要になります。
そのため、インプットは❷知識創造型の学びが中心となり、その上で❸学術研究というプロセスを経てアウトプットすることが求められるということです。
実際に掛けた時間
私の経験では、インプットに係る、授業+課題取組みに使った時間は、ざっくり計算で720時間です。
つまり、修士2年の前期までに単位を取るとして、毎日平均1.3時間を割き続けたということです。
また、アウトプットである学術研究は、もはやカウントができないレベルであるため感覚値ですが、1000時間くらいでしょうか。
つまり、最終発表会などが開催される修士2年の12月や1月頃までに終えるとして、1日平均1.6時間を費やしていることになります。
総合すると、1日平均3時間程度を掛けていくということです。
留意したい点
このような大変さだけ先に知ってしまうと躊躇してしまうかもしれません。お伝えしたいのは、時間と労力が想定以上に掛かるものであることを認識したうえで、それでも大学院という学び場を選ぶんだということを意識することが大事なのです。
そうでないと、時間に追われてただこなすだけの学びになってしまいます。私が掛けた時間よりももっと少なく卒業することももちろん可能です。しかし、授業や研究をこなし始めてしまうと、学ぶ意味がなくなってしまいます。自分の中で学ぶ意味を持たせておかない限り、ただただ辛い2年間になってしまうからです。
おわりに
リスキリングやリカレント教育などという言葉も認知されるようになり、学び直しを応援される時代になってきましたが、実態はまだまだ過渡期です。大学も社会人を受け入れる前提として整っていない、加えて会社自体も学びながら働くような状態ではないなど、課題は多く残っています。
そのため、学び直しのチャレンジには、それなりの覚悟と情報が必要だと思います。せっかくであれば、皆さんそれぞれの学ぶ意味を全うできるようにと思っており、学び場を選ぶ参考になれば幸いです。
なお、修士課程(博士前期課程)と博士課程(博士後期課程)はまた大きな違いがありますので、そちらは追って紹介したいと思います。
最後まで読んで頂いた方に、少し宣伝させてください。修士・博士での学びを通じた新しい発見「ビジネス×アートの交差点」について書いています。ぜひご注目ください。