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昔話なお宿 ~お庭~

前回はこちら。 

古めかしい老舗旅館に、
泊まりに来た男性。
 
独特な宿のサービスに、
戸惑うことばかり。

立派なのに、
風呂もトイレもない客室。

果たして今回は…。 


 
お部屋。
 
「あっ、そうだ女将。
 食事は何時ですか?」
 
「準備が整うのは19時になります。
 それ以降でしたら、いつでも大丈夫です」
「19時か…。
 本館の大宴会場へ行かないと、
 いけないんですよね。
 まだ時間あるし…どうしよう…」
 
「せっかくですから、
 当館自慢のお庭を散策さんさくされては、
 どうでしょう?」
変な生き物とかいません?」
 
「そんなものはおりませんよ。
 安心●●してご覧頂けます」
「そ、そうですか?
 まあどうせ時間もあるし、
 さっき見た感じ、とても綺麗だったから、
 少し歩いてみようかな」
 
「では私は所要しょようがございますので、これで。
 お客様、ごゆっくりおくつろぎ下さい」
「はい。ありがとうございます」
 
「では失礼します」
 
女将が出ていくと、
聞こえてくるのは、
かすかな草木のざわめき。
 
庭に出てみると思った以上に広く、
奥には竹林があり、
遊歩道がそこへと続いていた。
 
かぐや姫のイメージかな?
 
 良い!
 こういうのでいいんだよ!
 
 池にサメとか…
 タヌキのお茶とかじゃなくてさ…。
 
 この美しい庭だけでも充分、
 お客様来ると思うんだけど…」
 
竹林の小径小道に入ると、
笹鳴りの心地よい音。
 
青々と生い茂る竹林を歩き進めると、
いおりのような休憩所が現れる。
 
「これは、ちょうどいいところに」
 
四方を緑に囲まれ、
笹の音と時折聞こえる甲高い鳥の声。
 
「いい場所だな~。
 今までのは何だったんだろう…」
 
私はあまりの心地よさに、
時を忘れ…ウトウトしてしまう。
 
ふと気がつくと、
辺りは少し薄暗くなっていた。
 
遊歩道の両脇の照明が、
竹林を美しく浮かび上がらせていた。
 
「これはまた夜はおもむきが変わって、
 幻想的というかロマンチックな感じに」
 
ザックザックザック
 
左奥の方から…音がする。
 
「なんだなんだ。
 何か掘ってる?
 今度は何…
 花咲かじいさん?…
 
ザックザックザック

音のする方へ、
ゆっくりと近づいていく。

すると竹林の中に、
一本だけななめめに切られた竹があり、
その切り口がまばゆい光りをはっしている。
 
光る竹!
 やっぱりこの竹林、
 かぐや姫がモチーフなんだ」
 
男性は光る竹の中が、
どうなってるか気になり、
のぞいてみようと林の中へ。
 
「何か、仕込んであるのかな…」
 
切り口を覗こうとしたその時。
 
その竹の真上に、
恐ろしい形相ぎょうそうが浮かび上がる!
 
「うおおおおっ!
 出たっーーー!!!」
 
「あっ、お客様」
 
「へぇ?」
 
声の主は、女将だった。
 
切り口の光が、
女将の顔を下から照らし、
陰影いんえいにより鬼の形相に見えたのだ。
 
「女将さんか~。
 ビックリさせないで下さいよ~。
 
 散歩中、何もないので油断してました。
 
 女将には失礼ですけど、
 正直、山姥やまんばが出たかと思って、
 もう心臓が止まりそうでしたよ」
「これがですか?」
 
「いや、もういいですって。
 
 懐中電灯で下から照らすみたいな、
 古典的なおどかしは。
 
 ところで女将はこんなところで、
 何をしてたんですか?

 さっき所要とか言ってましたけど」
「はい。
 トイレ用の穴を掘ってました
 
ぼ、ぼ、僕の?!
 
つづく
 

このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。 

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