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【童話】お人好しな王子

ある広場に立つ王子像。
 
至るところに宝石があしらわれ、
全身は金色で…
腰の剣は銀色に仕上げられている。
 
王子はここから、
人々の暮らしをながめるのが、
とても好きでした。

 
王子像には毎日のように、
大勢の人がやってきます。
 
像の前で写真を撮るもの、
像に触れて運をあやかろうとするもの。
摘んできた花を手向たむけるものもいます。
 
そして夕方になると人もまばらになり、
やがて辺りが暗くなり人影が消えると、
代わりに人々の家に火がともるのです。
 
王子は思います。
 
(人々の暮らしとは夜にこそわかるもの。
 日中は何事もなく生活してる人も、
 実はとても大きな問題や苦労を抱えている)
 
王子のあおまなこの先には、
人々の生活が見えました。
 
夫婦の言い争い。
親に叱られている子ども。
わずかな食事を分け合う家族。
 
(日中はあんなに楽しそうだったのに…)
 
ある家ではギャンブルで大損した夫を、
憤慨ふんがいした顔でとがめている妻が見える。
 
ある家ではおばあさんが、
お金をだまし取られて落ち込んでいる。
 
ある家では子どもが、
親におもちゃをねだり断られ泣いている。
 
(全て…、
 お金があれば解決することなのに…)
 
そこへ一羽のツバメが、
王子の肩に止まります。
 
「こんばんわ、王子」
「こんばんわ、ツバメさん。
 こんな肌寒い時期に大丈夫なのかい?」
 
「ちょっと用事があって、
 出発が遅れたんです。
 でもそれも今さっき終わって、
 もう間もなく旅立ちます。
 これ以上は寒くて耐えられない。
 深夜ですがいつものコースなので、
 行こうかと…」
「ツバメさん、急いでるところ済まないが、
 私のお願いを、
 聞いてもらえないだろうか?」
 
「何です?」
「あそこに見える家々があるだろ?
 みんなお金が原因で苦しんでるんだ。
 だからあの人々に私の体についてる、
 金銀パールサファイヤルビーを、
 プレゼントしてあげてくれないか?

 
「全部ですか?」
「町の人は私を大事にしてくれた。
 その町の人のために私も何かしたいんだ」
 
「ほんとにそうですか?
 私にはそうは見えませんけど」
「どういうことだい?」
 
「あなたの体に宝石が
 散りばめられてるのは、
 それを話題にして、
 お客を呼びたいからですよね?
 別に大事にしてるというよりは、
 見栄えよくしてるようにしか、
 見えませんけど?」
「その話は本当ですか?」
 
「たぶん、間違いないと思います。
 人なんてそんなもんですよ。
 観光収入のためなら、
 どんな手でも使いますよ、奴らは」
「人は…」
 
「私も世界各地を転々としてるので、
 よくわかります。
 国が違っても人がやることは一緒。
 王子、止めた方が身のためです。
 絶対、悲しい結末になりますから」
「いや、それでも私はあの人達を救いたい。
 眼の前で困ってる人は放っておけない。
 お願いだツバメさん。
 私の宝石をあのまずしい人々へ」
 
「やります?
 あ~あ、明日はモルディブで、
 明後日にはセイシェル諸島で、
 バカンスだったのに…。
 わかりましたよ。
 宝石を全部ついばんで、
 家に届ければいいんでしょ?

「ありがとう、ツバメさん」
 
ツバメは王子の体の宝石を、
クチバシでくわえて各家々の窓に、
置いていきます。
 
体を包む金銀もがされ、
王子は薄茶げた見窄みすぼらしい姿に。
 
「終わりましたよ王子」
「ありがとうツバメさん。
 本当にありがとう」
 
「王子は良い人だけど、
 幸せにはなれないタイプですね」
「そう見えますか?」
 
幸福な王子というお話を、
 ご存知ありませんか?」
「すいません。わからないです」
 
「ちょうど、
 私たちと同じようなことをする
 お話なんですが、
 結末は私は凍死
 王子はもう用済み扱いで、
 溶鉱炉で溶かされてしまい
 何やかんやで天に召されて
 良かったねという…
 これのどこがよかったねん!
 と言いたくなる話です。
 王子の施しと優しさを踏みにじって、
 恩を仇で返す仕打ちに及ぶ町民たち。
 天国行けて良かったねじゃないでしょ?
 ペニンシュラバンコク●●●●ならいいけど」
「そうであっても…私はそれでいいです。
 あの人たちの生活が守れましたから」
 
「お人好しは搾取さくしゅされるだけですよ」
「それでも私の心は充足じゅうそくしてます」
 
ツバメはその日は旅立たず、
王子のかたわらで一夜を過ごしました。
 
そして翌朝。
 
ツバメは朝から寒空さむぞらの中、
何やら作り始めました。
 
しばらくすると、
王子像の前に看板が。
 
そして満足気に旅立って行きました。
 
やがて町の人々がやってくると、
王子の変わり果てた姿に、
驚きを隠せませんでした。
 
「何てみっともない姿だ」
「さっさと片付けた方が町のためよ」
「ちょうどいいから、
 もっと派手な銅像に変更しよう」
 
その人々の心無い言葉を、
王子は黙って聞いています。
 
するとひとりの男が、
ツバメの立て看板に気付きます。
 
「おい!!何だこれ?!
 みんな来てみろよ」
 
「なんだ!なんだ!」 
「なんなの!」
 
封印されし宝あり
 宝を望むものよ
 王子のまなこに蒼き光を
 王子のつかに炎の魂を
 王子の御身おんみ
 まばゆきらめく時
 宝の鍵は水面みなもに現る

 
「なんだこれは?」
 
「これは、宝の在処のヒント?
「いや、こんなの誰かの悪戯いたずらだろ」
 
「じゃあ、お前は参加するなよ!」
 宝は俺が独り占めするから!」
「勝手に決めんなよ!
 俺が先にサファイアを…」
 
やがて王子は元の姿に。
 
今日も王子はここから、
人々の生活を温かく見守っているのでした。
 

このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。 

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