ある愚かな社長の英断

我が社はこの物価高騰ぶっかこうとうの波に、
社員一丸となって対処してきました。
 
昔から繰り返さる価格変動を、
様々な創意工夫で乗り越えて来ました。
 
社内のコスト削減、
調達先・仕入先の見直し。
 
価格転嫁かかくてんかや容量変更ようりょうへんこうなど、
お客様にもご協力頂いたこともありました。
 
その時代時代に合わせて、
一生懸命してきたつもりでした…。
 
あの日までは…。
 
先週末のことです。
 
ふと立ち寄ったコンビニで、
私は自社のポテトチップスを買い、
その足で近くの公園に行きました。
 
実はその公園。
 
私が子供の頃によく遊んだ場所でして。
 
水飲み場に一番近いベンチ。
そこが私のお気に入りの場所。
 
奇声きせいを上げ走り回る子供を眺ながめてると、
自分も当時はああだったのかと、
少し昔の記憶が甦よみがえったり…。
 
懐なつかしさを感じながら何十年かぶりに、
思い出の場所でポテトチップスを
食べようと思ったんです。
 
私はベンチに座り、
買ってきたポテトチップスの、
パッケージを見て記憶を手繰たぐり寄よせます。
 
パンパンに膨ふくらんだ袋。
 
両手で引っ張り開けると、
微かすかな香辛料と油の匂においが、
鼻孔びこうをくすぐります。
 
でも私の記憶の色は…ここで失われました。
 
空気が抜けた途端に袋は縮み、
目に飛び込んできたのは、
内側の銀フィルム。
 
率直そっちょくな感想を申し上げますと、
とても寂さびしい気持ちになりました。
 
幼少期のあの●●ワクワクは…開封前までした。
 
社内でも試食ししょくはしてましたが、
こんなに変わってしまっていたとは…。
 
現状に合わせ、
最善さいぜんを尽くしてきたつもりでしたが…。
 
そこで私は決断しました。
 
ポテトチップスを…
値上ねあげします！
 
現在の180円から20円上げて、
200円とさせて頂きます。
 
更なる値上げが、
家計への負担になるのは、
重々承知じゅうじゅうしょうちしております。
 
ただし…
内容量は増やします！
 
ポテトチップス全シリーズ、
袋満杯にします！
 
私は袋を開けた時の、
気持ちを大事にしたい！
 
開けた時の幸福感。
 
家のリビング、友達の家、公園のベンチ。
ひとりで友達と家族で、
袋を開けた時の笑顔を取り戻すために。
 
お客様のお腹と心を満たすため、
社員一同これからも頑張っていきます。
 
私のこの気持ちが、
皆様と共有できる日を楽しみにしています。
 
それが届くまで…
しばしお待ち下さい。
 
以上です。
 
 

このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。