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ふたしき
2021年3月31日 00:13
自宅から逃げ出し、這う這うの体で近所の公園に駆け込んだ私は、蛸を模した巨大な滑り台にぽっかりとくり抜かれたトンネルの中に身を潜めた。 取るものもとりあえず家を出たので、靴は片方しか履いていない。街は不自然に静まりかえっていて、耳が痛いくらいだった。それに、昼過ぎだというのに、外の景色が薄衣越しに見る世界のように薄暗い。 少し離れたところにあるフェンスの向こう側では、そこらじゅうからあふれ出た
2021年3月21日 01:47
胸に浮かんだ円盤にそっと触れてみる。 増幅した振動が口をついて溢れ出ると、憂いを帯びた僕の声は、雨雲のすきまに吸い込まれていった。 彼女の声は美しかった。その声を生む心盤も当然、美しい。 明け方の空を切り取ったような、やや白みがかった千草色の心盤。陽の光を受けるとそれは目の醒めるような青い揺らぎを地に映して、清廉で凛とした、彼女の人格そのものを世界に表していた。 それに比べて僕の心盤と