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ひとつ越えたね、よかったね

体力も気力も能力も乏しい私。
最近は特に疲れやすく、家事もかなりいい加減。お弁当作りも休んでいる。
これではいけないと気をはっても長続きはしない。今にはじまったことではない。
こんな私を母に持って、苦労も多いであろう息子達。
そのせいか、皆私に似ず、しっかりしてきて頼もしい。


三男は中学生になってからサッカー部に入った。経験者が多い中で、未経験の三男は追い付こうと懸命に練習に励む日々。
毎日クタクタになりながらも、充実した日々を送っているように見えていた。

ところが、1年生が終わる頃、急に部活をやめると言い出した。
理由は部活内での人間関係。
他にも、勉強のことや絵を描く時間が欲しいなどいくつかの理由があるようだった。
サッカーが一番ではなくなってしまった。

いつか部員同士の考え方の違いが大きいことをぼやいていたことがあった。
でも仲間内でどんなことがあったのか、詳しいことは話さなかった。
思うように上達しないことに、もどかしさを感じていることも気付いていた。
いつの間にか、サッカーを始めた頃とは、違う表情になっていた。

これまでも、空手や塾もやめると言い出したらもう気持ちは変わらず、引き止めることはできなかった。
できれば続けて欲しいとも思ったけれど、
やる気がないの続けても伸びることはないし、新しいことに挑戦するならそれでいい。
その挑戦がサッカーだった。
今度は絶対にやめて欲しくない。
体の成長の為だけでなく、今しか出来ない貴重な体験がたくさんあるのに。
仲間もたくさん出来たのに。
せっかく今まで努力してきたのに。



大したことじゃないという態度で、さらっと切り出した三男。
途中で投げ出して欲しくないときつく反対する私。
感情的になってしまい、嫌な雰囲気になってしまった。


それからしばらく部活の話はしなかった。
気が変わってくれたならいいけれど、と願いながら私の方からもその話には触れなかった。

しばらくして
「部活やめるから。ちょっと休憩したいだけやから」
一学期の間は入部せずに、夏休み頃に入部届けを出すと言う。

でもやめることには変わりない。

休んでいる間に一年生が入部し、三年生は引退する。
戻りにくくなるのではないのか。
追い越されてしまうかもしれない。

何より少しでも部活から離れてしまうと、サッカーへの気持ちが消えてしまうのではないか。
それが気がかりで、信じきれなかった。

融通のきかない、頭の固い私。

やめずに籍をおいたまましばらく休んだら、と言っても
「けじめをつけたいから」
と、頑なだった。

顧問に相談してみようか、部の中でどんなことがあったのか皆に聞いてみようかと、さんざん悩んだ。
でも、親が知らないことがたくさんあって当たり前。
親の知らないところで、大人になっていくのだから。
私は知らない方がいいのかもしれない。
そう自分に言い聞かせた。

入部届け提出の締め切りの日、顧問に自分の気持ちを伝えたらしい。
やりとりの最後に、いつでも戻ってこいと言ってくれたそうだ。
私はやっとあきらめた。

そうして、サッカーのことはまるで忘れたかのように、ゲームをしたり絵を描いたり、しばらくのんびりと過ごしていた。
3ヶ月近くたった頃、ボールを持って出かけた時は、ほっとした。

そして、夏休みよりだいぶ早く入部届けを出し、練習に戻ったのだった。

部活の日誌には
『三ヶ月でいろいろ考えが変わりました。
みんなにちゃんと伝えられるか分からないけど、またよろしくお願いします』

と書いてあった。

後日、練習に戻った日のあいさつの時、みんなに謝った、
ということだけ耳に入ってきた。


詳しいことは話したがらず、私には分からないけれど、本当はきっと、いい仲間たちだったんだと思う。

休んでいる間にいろいろと考え、反省し、謝ることが出来た。
また頑張ると決めた。
立派だな、と思った。




久しぶりに応援に行った練習試合。
背は伸びたけれど、特別大きいわけではないし、まわりに比べ、とても華奢。
それでもセンターバックというゴール前のポジションで、走って跳んで転びながら、果敢に挑む姿を見た。

親が思う以上に、成長しているんだ、心も体も。
そして少し遠い存在になったように感じた。

その日は早朝に家を出て、帰ったのは夕方。
疲れているはずだけど、何年ぶりかのお祭りに、部のみんなと出かけると言う。

家を出る前、
「お母さんジップロックちょうだい。
あ、2枚ちょうだい、ごみ袋にするから」

と言い、2枚のジップロックをポケットにねじ込んで慌てて出かけて行った。

感心しながら後ろ姿を見送り、ひと息つこうとお茶を入れる。

私はどんと構える肝っ玉母さんにはなれないな。
ことあるごとに悩み、右往左往しながら、なんとかひとつづつ越えていく。
今回も親子ともに、勉強させてもらういい機会になったと思う。






読んでいただき、ありがとうございました。

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