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特別な日のためのランジェリー

母と私は、洋服を滅多に買わない。
現に..ここ数年は、買った記憶がない。

...というのも・・

都会に住む母の妹..つまり、私の伯母と
伯母の娘...つまり、私の従姉妹は
ファッションが趣味であり、

そして..
人前に出る仕事をしていることもあり...

洋服をたくさん持っていて、
不要になると、
母と私にまとめて送ってきてくれるからだ。

お古が届くと 母と私は、
まるで..子どもたちがクリスマスのプレゼントを
ワクワクドキドキしながら開封する時のように..

お古の入った段ボール箱を
ワクワクドキドキしながら開封して、
目をキラキラと輝かせながら
それらの品定めをするのだ。

そして...
お互いに あれこれと試着してみては、
鏡台の前に立ち、
母娘二人
観客なしのファッションショーを繰り広げる。

お古は、どれもこれも皆・・
私たち好みのものばかりだ。

大変 ありがた〜く...
私たちは、それらのお古を
互いに 取っ替え引っ替えしながら
楽しませて頂いている。

さてさて・・

洋服は、私たち...
お古で十分なのだが・・・

下着だけは....

そうはいかない。

そして 私たちは、

" 何かあった時用に・・ "

..と、

良い下着を数枚購入して
取り置いている。

その..

" 何かあった時用  "

..というのは・・・

母にとっては、

まぁ..御年70ということもあり..

" 急に具合が悪くなって
   病院に運ばれた時用 "

..であり、

私にとっては、

たとえば..
友人 知人 身内の結婚式だったり、

言わば..非日常の・・
何か特別なイベントや行事の際に
 自らの気分を上げたい..という気持ちからであり、

そして..その際に・・

もし 万が一にも・・
スリリングなことが起こった場合を
想定しての..

" 何かあった時用 "

という意味づけなのだ。

万が一...

と言ったが、
億が一ですらないのは、
40代女である自分自身...
重々承知なのだが・・・

女というものは、
いくつになっても乙女であり、
夢を見続けることは
とてもとても大切なことなのだ。
いつまでも夢を見続けていたいのだ。

....というわけで、

" 何かあった時用 "

に取り置いてある下着..

...お洒落に言うと・・

ランジェリーだ。

特別な日のための
とっておきのランジェリー。

取り置いてあるのはいいが・・・

...思い起こせば ここ数年・・
友人 知人...
周囲は みんな すっかり落ち着いてしまっていて、
結婚式などの華やかなシーンに
お呼ばれされることも なくなってしまっており...

それに伴い、

そのランジェリーの出番も
なくなってしまっていた。

だがしかし・・・・

森の動物たちが 冬眠する期間なんかよりも
ずーっと遥かに長いこと
収納ケースに眠ったままになっていた
その ランジェリーの出番が、
ついに!とうとうやってきたのだ!

・・・

私は、普段..
日中は、パソコンを使った作業をしている。

パソコンに向かっている時、
部屋の暖房の他に
いつも ハロゲンヒーターを併用している。

扇風機型の そのハロゲンヒーターは、
冷え性の私には なくてはならない
マストアイテムだ。

そして、さらに...

私は この冬からnoteをやり始めたので、
子どもたちが眠ってからも
真夜中過ぎまで..
無我夢中で パソコンにかじりついている。

・・が故に....

日中含め、だいぶ長〜い時間..
私は ハロゲンにあたっていることになる。

常に 自分が座っている椅子の左側に
ハロゲンを置くのが テッパンだ。

左腰からお尻..太もも辺りにかけて・・
じ〜んわりと温か〜い感じが、
とてもとても心地良いのだ。

ずーっとコタツの中にもぐっているような..
ぬっくぬくの..そんな暖かさ・・

そうやって、1日の大半..
ず〜っとハロゲンを
左サイドから あてていたために、
左腰からお尻..太もも辺りにかけて・・
低温ヤケドを負ってしまったのだ。

はじめは、その症状に全く気づかなかった。

ただ 最近になり、なんとな〜く..
左のお尻から太ももにかけて
ヒリヒリする感じは していたのだが、

特に 直接 肌の状態を
チェックしてみるようなことは
しなかった。

そしたら・・

娘とお風呂に入っている時に

娘が、

「ママ〜!
 ママの左のお尻と もものところが
 なんか 茶色くなってるよ〜!」

...と言うのだ。

えーーーーーーっ!!??・・・・・・・

お風呂の鏡で 急いで確認してみると..
ホントだぁーーーーー.....

どうりでヒリヒリするわけだ・・・・・・。

....って、.....

ヒリヒリするのは
まだ我慢できるから いいとして・・・

問題は・・

見たくれだーーー!!!

よーく観察してみると、

特に 左お尻の部分が
茶色くなっていて、
まるで あざのような感じになっちゃっている。

いやぁーーーー・・・・

さぁて...困ったぞぉ〜!

これは 一大事だぁ〜〜!!!

私は、ついつい...

もし 万が一の・・
いや..億が一の...
スリリングなことが
起こってしまった時のことを想像して
急に不安になる。

お風呂から上がり、
すぐさま 母に...
その茶色くなっている 左お尻の部分を
見てもらった。

「ねぇ お母さん..医者に行ってきた方がいいかなぁ・・」

...と私。

「跡に残ると困るから、明日 行ってきた方がいいよ〜」

...と母。

意外な答えだった。

きっとおそらく 母からは・・

「もういい歳なんだし、
 あんたのお尻なんか見るヒトなんて・・
 まず..いないんだから・・
 別に茶色くなったままでも いいんじゃないの?」

......と言われるものと…
てっきり思っていたのに・・・

それなのに

予想に反して、
医者に行くことを推奨してくれる母。

まるで、私の万が一...
いや..億が一...なことが
起きた時のことを想定して
その時のことを心配してくれているかのような..

母の前向きな即レスが・・
私は ちょっぴり嬉しかった。

さてさて..

それはそうと....

診察時にお尻のヤケドの状態を
診てもらうということは・・・・・

とっておきのランジェリーの出番が・・

きたぁ〜〜〜〜!!! 

...のは いいが・・・

こ..これじゃ....

母がとっておきのランジェリーを
取り置いている理由と
まるっきり同じになっちゃうじゃないかぁ〜〜

...と、

私は、晴々した気持ちでではなく…
非常に残念な気持ちで
その 特別な日のために取り置いてあった
とっておきのランジェリーを身につけて
診察を受けに行くことになるのだ。

・・・

でも・・

素敵な男性以外に
とっておきのランジェリーと私のお尻を見せるなんて...
とてもじゃないが、したくない!!!

....というわけで、

私は、
ネットで女医のいる医院を
必死になって探した。

ラッキーなことに
自宅から車で20分くらいのところに
見つかった。

私は、非常に理不尽な思いで
収納ケースの中で冬眠していた
とっておきのランジェリーを
そお〜っと揺り起こしてあげて
身につけた。

" おはよ〜!
とうとうアナタの出番がやってきたわよ〜! "
...と、
そのランジェリーに向かって囁きながら・・

・・・

私の番が呼ばれ、診察室に入り、
事情を説明した後、

女医に、ベッドの上で
うつ伏せになるよう指示された。

私は、指示通りに
ベッドに上がり、うつ伏せになった。

そして、

スカートをまくって、
タイツを膝の辺りまで
ずり下ろし、
とっておきのランジェリーを
左脇からチラリとめくって、

ヒリヒリする
特に茶色くなっている左お尻の状態を...

胸が締め付けられるほどの虚しさを
ひしひしと感じながら...
女医と看護師に披露した。


あぁー..願わくば...
素敵な男性に
このとっておきのランジェリーと
私の左お尻を見せて
その男性を魅せたかったのに・・・

・・・

「先生...これって、跡に残りますかね??」

...との私の質問に・・

女医は、一瞬..私から視線をそらし
カルテに目をやった。
私の生年月日をチェックして
年齢を確認してやろうとでも 思ったのだろうか・・・

そして再び 女医は私の方に目をやった。
そして…
たいそう呆れた感じで私を見つめている。

それはまるで...

" あら あなた..40代じゃないの..
 その歳で、いったい誰に
 あなたのお尻を見せるって言うの?
  ふんっ...年甲斐もない... "

...って、言われてるような・・・。

そんな被害妄想に
駆られてしまったユウリ乙女...

実際 女医からは・・

 「そりゃ多少は 跡になっちゃうかもだけど・・。

 でも....

   ヤケドの箇所は、
 段々とキレイになっていくとは思いますけどね...

   もしも 2〜3ヶ月しても 跡が消えないようなら
 また診せに来て下さい。
 それからでも遅くないですから...」

...と言い放れて、退出を促された。

こちらは 診察の番が来るまで 随分長いこと待ったというのに..
わずか数分で 診察終了となったのだった。

" くだらない質問をしてくるヤツは
 相手にしてらんないわっ!
 さっさと、ベッドから起き上がって
タイツを履いて とっとと退室してちょうだい!
 次の患者さんが待ってるんだからっ! "

..と言わんばかりのような..
とってもとっても素っ気ない女医の態度に..

私は、少々悲しくなった。

もしも、この時..
その女医が・・

「 女性ですものね..
  ヤケドの跡が残るかどうか
  やっぱり気になっちゃいますよねぇ...

   私も女だから、同じ女同士..
 患者さんの心配なお気持ち..
   よーくわかりますよ! 

   大丈夫ですよ..ちゃんと治りますからね
  安心なさって下さいね.. 」

...とでも 言ってくれていたならば・・・

とっておきのランジェリーを
不本意な場で披露したという理不尽さからは
パーッと解放されたと思うのに...

" お〜い!先生様!!

  もし、万が一...
  いや..億が一..

  この2〜3ヶ月の間に・・

  ヤケドの跡が消えないうちに・・・

  私の身に ミラクルでスリリングな... 
  何か 特別な..
とってもいいことが起こったら..
  いったい どうしてくれるんだい〜〜〜!!! "

....と、

私は、内心..
その女医に不満タラッタラに・・
診察室を後にしたのだった。

あー...

とっておきのランジェリーを身につけて
横になるのが、

高級ホテルのさらりとしたシルクのシーツに包まれた
フワッフワのベッドの上..

ではなくって..

築30年は軽く超えているであろう
古びた医院の..
色んな患者さんが入れ替わり立ち替わりに寝転んだ...
ごわごわしたシーツに包まれた
カチンコチンのベッドの上になるなんて.....

と〜〜っても残念・・・。

きっとおそらく..この先も・・・

色恋のために
とっておきのランジェリーが
活躍することは...

...なさそうだ。トホホホホ....

...と・・

虚しい思いを抱えながら...
薬をもらって 帰宅。

お風呂あがりに
例の負傷した左お尻に 薬を塗りながら、
私は、すぐ側にいた 2年生の次男坊に話しかけた。

「ねぇ、次男くん...
   薬 塗って 茶色くなったところが
   キレイになってもさぁ...
   ママのお尻なんて見るヒトなんかいないよねぇ・・・」

....そう呟いたところ...

「いやっ!・・いるよ!!」

...と 次男坊。

「えっ!?・・・」

一瞬 失いかけていた私の乙女心が
再び開花した。

「誰 誰〜〜っ?????」

...と、期待に胸を膨らませる ユウリ乙女。

そしたら、
次男坊から返ってきた言葉が・・・

「はーっはっはぁ〜っ! この俺様だぁ〜〜!」

...とのこと・・・

わ〜ん!

そうだった..そうだったぁ〜!!

こんなにも素敵な男が
ユウリ乙女の一番近くにいたんだったぁ〜!

これからもしばらくは・・

ユウリ乙女と一緒に
お風呂に入ってくれるであろう次男くん。

その次男くんのためにも・・

ヤケドした部分をしっかりと治して
元のキレイな肌に戻さなくっちゃ・・・・

...そんな思いで....

負傷した 左お尻に
念入りに念入りに薬を塗る
ユウリ母なのであった。

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