セーリングを通して子供たちが得る"自立性と対応力、そして絆"
野球、サッカー、武道、水泳。
幼少の頃からスポーツを習い事とするお子さんは多いのではないでしょうか。
近年はスケートボードやバスケットボールなど様々な習い事を耳にする機会も増えてきたように思いますが、今回ご紹介するのは"セーリング"という競技です。
え、そんな子供向けの習い事もあるの?と思った方もおられると思います。
しかし今回、小・中学生が参加するレースの取材を通して、セーリング競技が子供達の自立性や対応力を伸ばす興味深いスポーツであることが見えてきました。
これから夏に向けて活性化していくセーリング競技、注目です。
春風吹く、兵庫ジュニアオープン選手権
4月15-16日の2日間、西宮沖で開催された兵庫ジュニアオープン選手権。オプティミスト級(OP級)と呼ばれる全長2.31m、幅1.13mの一人乗り用の小型ヨットでレースが行われます。
参加した選手は15才までの子供たち、なんと最年少は小学3年生。
西は大分、東は東京から66名の選手が集いました。
最初に目に映ったのは朝早くから出艇に向けて準備する選手たちの姿。
自分よりも大きなセールを立てたり、艤装品を艇に取り付けたりしていきます。
まだ小学生3,4年生くらいのお子さんは保護者の方も手伝っているようですが、それ以上の年齢になると1人でテキパキと作業を進めていきます。
父兄の方にお話を伺うと
「海の上で忘れ物に気付いてもどうしようもない。何かあったときに困るのは本人。ヨットは様々な道具やウェアを使いますが、それらのセッティングやチョイスが結果を左右することもあります。準備をしっかりできないと勝てないことを、身に染みて感じている選手も多いでしょう。子供ながらにしっかりと準備ができるようになってきますよ」とのこと。
経験を積むに従って、起こりうるトラブルも予想してより入念な準備になっていくのだとか。
ここでひとつ、セーリング競技のルールについて説明させていただきます。
海の上で行われるセーリング競技には目に見えるスタートラインはありません。
本部艇とアウター艇と呼ばれる2つの運営艇に挟まれた仮想のスタートラインを合図の後に通過することでスタート成立となります。
ここでのポイントは時間管理なのだとか。
レースはいきなりスタートするわけではなく、スタート5分前、4分前、1分前にそれぞれホーンが鳴らされて合図があります。
そのため、"選手たちはスタート何分前にはどのあたりまでスタートラインに近づき、何分前にはどのポジションを取り、良いスタートをきるための準備をする"といった逆算した行動が求められるのだそう。
試合後、とあるチームのミーティングを覗かせてもらうと、スタートにおける準備やポジションどり、そのために日常から時間を逆算して考える習慣の重要性をお話されていました。
戦っている相手は海という自然、観察眼が鍛えられる
取材した16日は天気には恵まれたものの、風が強く波も高く、実力がハッキリと出るコンディションでした。
全員が同じサイズの艇に乗り、同じ大きさのセールを使っているにも関わらず、フィニッシュ時点では先頭と後続には大きな差が開くこともありました。
この点を運営委員の方に伺うと大事なのは観察眼なのだと言います。
「よく風を読むと言われますが、簡単ではありません。遠くの海面や周囲のライバル艇の様子などを見て予測しています。それらの変化はわずかな場合もあります。その中で、すぐさまセールの張り具合や艇の角度などを適切に調整できる選手が好成績を残します」
また、他艇とのスピード差や全体での自分の位置を確認しながら都度戦略を修正する必要もあるのだとか。
「だんだん周囲をよく観察できるようになります」と教えてくださいました。
ライバルであり、良き友人にもなれる。セーリングで広がる輪。
無事2日間の大会が終了し、レースの表彰式にも参加させていただきました。表彰式会場に集まった選手たちを見ると、まだあどけない小学生・中学生そのもの。先程まで海上で波風と闘っていた姿とのギャップが大きく驚きました。
また、良い成績の選手の名前が呼ばれると周囲からも祝福の声が上がる様子が印象的でした。そこにはともに海という強大な自然を相手にしているセーリングならではの絆を感じます。
また本大会はジャパンナショナルチーム(日本代表として世界選手権やアジア選手権に出場する選手たち)の選考会直後とのことで彼らの紹介もありました。
彼らが抱負を述べていく中で特に印象に残った言葉がありました。
「私は世界選手権に出て、いろんな国の選手たちと友達になりたいです!」という言葉。
"良い成績を残すこと以外にも大切なことがあると彼らは感覚的に理解しているんだ"と非常に感心したことを覚えています。
競技を通じて同じ困難を乗り越えた相手の強さや技術を認め合い、その中から尊敬や友情が芽生えるのでしょう。
「海に出れば世界中どことでも繋がっている」
そんな言葉をまさに体現しているスポーツ、それがセーリング競技なのかもしれません。
また入念な準備や計画性を持った行動でレースに備える自立性、周囲を観察し、状況の変化に臨機応変に対応する力、そして共に認め合うスポーツマンシップ。これらがセーリングを通して得られる学びなのだと子供たちに教えてもらいました。
彼らの中から、将来のオリンピック選手も輩出されるかも知れません。
引き続きフルノは学生のセーリング競技を応援していきたいと思います。
■兵庫ジュニア海洋クラブHP
執筆:高津 みなと
監修:久保田 有吾