見出し画像

『誰もが深海を知ることができる世界を目指して』 水中ドローンのFullDepth社とFURUNOのタッグ

"深海"

明確な定義はないようですが、一般的には200mよりも深い海域を総じてそう呼ぶようです。高圧、低温、暗黒という過酷な環境、太陽光が届かないその海域には独特の生態系が存在しています。
そしてなんと、海洋全体の95%がこの深海と呼ばれる範囲に含まれており、未だ多くの謎が残されています。
そんな深海には多くの"海好き"が惹きつけられ、様々な想いを馳せています。

今回インタビューしたのはそんな海好きの一人。
ロボット工学の専門家かつ深海魚好き、その両面の知識やスキルを活かして産業用水中ドローンの会社 株式会社FullDepthを起業するに至った伊藤 昌平さんです。

株式会社FullDepth 取締役 伊藤昌平 氏
神奈川県出身。筑波大学第三学群工学システム卒。
大学でロボット工学を学んだのち、エンジニアとしてキャリアをスタート。
2014年に同社の前身となる空間知能研究所を創業し、2016年に株式会社FullDepthを設立。

なぜ"水中ドローン"なのか・・・? 起業に至るキッカケとは?

FullDepth社が開発した水中ドローン「DiveUnit300」
水深300mまで潜航できる能力と水中での姿勢安定性を有しながら28kgと軽量化に成功

伊藤さんはFullDepthを立ち上げ現在取締役をされています。
どのような経緯でFullDepthという会社を立ち上げられたのかをお聞きしました。

伊藤さん「私は学生時代から"ロボットの開発"というのを専門に勉強、研究をしてきました。すでに小学生の頃には夢に"発明家"って書いていたくらいなので、昔から工学をやり続けて仕事にすると決めていましたね。
幼少の頃からタミヤのキットなどで物作りを楽しみ、高校からはマイコン制御部という部活に所属し電気回路やソフトウェアの知識を身につけ、筑波大学工学部に入学し、ロボット工学を専攻したという流れです。

ただそれとは別に自然科学、生き物や自然といったものは物心ついたときからずっと好きで、深海に関してはその好きなものの中の1つでしたね。
ですが、いざ深海を調べてみると本当にわからないことだらけなんですよ。まだ誰も知らないことが多すぎる。なので、これから自分たちでも世界初を発見できる可能性が残っているっていうのがとても面白いと感じています。」

幼少の頃の伊藤さんは生き物の図鑑と水木しげるさんの"妖怪大図鑑"を愛読書にしていたのだそう。妖怪好きだった伊藤さんが深海というミステリアスなエリアや深海魚の不気味さに興味を持つのは当然だったのかも知れません。

妖怪と深海魚、どことなく似てますよね

しかし大学卒業後は自然科学から離れた分野でロボット関係の事業に携われていたとのこと、そんな伊藤さんを深海の世界に呼び戻したキッカケはなんだったのでしょうか。

伊藤さん「大学卒業後はベンチャー企業でロボットの試作開発に従事していました。望み通りの仕事なので楽しくはあったのですが、ある時なぜか少しモチベーションが下がっている気がしてしまったのが始まりですね。
『やりたいことはやっているのに何でなんだろう』と考えたところ、"作りたい"という欲求はできていても、"コレを作りたい"という目的の部分が弱いことに気づきました。
そんな中、ふと息抜きに川釣りに行った時にシャケが川を遡上しているのを見たんです。その瞬間『シャケは子孫を残すためにあんなに一生懸命やってる。自分はやっていないぞ。』と思ったんですよね(笑)

そこから『何なら自分は一生懸命、一心不乱にやれるだろう』と考えていました。そうした時にあるテレビ番組で"ナガヅエエソ"という自分が幼い頃に図鑑で見ていた深海魚が映っていました。その時、この映像はロボットが撮影しているということに初めて気づいたんです。これらがかみ合わさって『自分で作ったロボットでナガヅエエソを見たい!』と目的意識が生まれたのが今の事業を始めたキッカケですね。」

伊藤さんが追いかけている深海魚「ナガヅエエソ」

そこから夢に向かっての挑戦が始まりました。2015年には伊藤さんの大学の同期でもあり、ベンチャーキャピタルを仕事にしていた吉賀さん(のちのFullDepth共同創業者および代表取締役CEO)に相談したことで、さらに具体的に起業に向けて加速したのだそう。

伊藤さん「夢である"ナガヅエエソを見る"ということは自分の欲求なので、実際に起業するにあたり、深海ロボットの需要の調査を行いました。
それで実際に水族館や潜水工事業者さんや水産業の方々に聞きに行ったところ、潜水士さんの作業が大変かつリスクがあることや深海調査は滅多にやれないってことがわかりました。ならば気軽に深海を見れるロボットがあれば役に立つんじゃないかなという考えに至り、2016年にFullDepthを設立しました。」

左:共同創業者および代表取締役CEOの吉賀さん

FURUNOとのタッグ、それは海というフィールドならではの親和性

2022年に古野電気はFullDepthに資本提携を行いました。しかしその繋がりはもう少し前、2017年ほどに遡るとのことです。

アングラーでもある伊藤さん、FURUNOのロゴにはずっと馴染みがあったとのこと

FullDepthのロゴはナガヅエエソをイメージしてデザインされています

伊藤さん「実際海洋調査機器、水中の可視化装置という枠で考えると魚群探知機というのが最も一般的なモノだと思いますね。昨年資本提携をいただきましたが、以前から『何か共同でできないか?』ということは模索していました。ですのでこれから古野電気さんと一緒に活動していけるというのはとても嬉しく思いますね。」

古野電気はこれまで魚探やレーダーなどセンシング技術で舶用機器を作ってきたメーカーです。古野電気と水中ドローンを手がけるFullDepthは今後どのようにコラボしていくのか、展望をお聞きしました。

伊藤さん「水中に限らず、陸のロボットも同じですが、空間把握の能力というのはとても重要です。人間でいう目や耳といった能力ですね。
ただ水中に関しては光が使えないという制約があります。それは深海だけでなく浅瀬でも同様で、プランクトンによる濁りや単純な汚れなど見通しが悪い環境は多々ありますよね。ですので水中ではやはり音響が空間を把握する上で大事な技術です。また水中ロボットの役割には海中の構造物などの計測もありますが、そこでも音響技術は活躍します。
そういった点でFURUNOさんの持つセンシング技術とFullDepthの持つ水中ドローンの技術の親和性というのは非常に高いなと考えています。」

DiveUnit300の水中の様子

伊藤さん曰く、水中の生き物は音波を使って様々な探知をしていることを考えると水中ロボットでも音響を使うことは正しいやり方の1つであると確信しているとのことです。
確かにイルカやクジラのように音波を活用して獲物を探す生き物が海の生態系でトップクラスに君臨していることは重要なヒントなのかも知れないと感じました。

伊藤さん「もう一つ大事なのは水中ドローンをどこから操作するか?ということです。海面における起点、基地局的なものがやっぱり必要になってきます。そうなると音響技術だけでなく船のあらゆる装置を作ってこられた古野電気さんというのは非常に頼りになりますね。」

海を知ることが人類が地球にすみ続けられることに繋がる。

ナガヅエエソとは別にもう一つ、伊藤さんには大きな夢があるそうです。それはGoogle社のストリートビューの"海バージョン"を作ること。
その実現のためには途方も無い時間と装置、そしてテクノロジーが必要で、まずなにより計測機器の自動化による効率化が重要だと話します。

伊藤さん「まず海に出るということ自体に様々なリスクがあります。さらにそこに人が関わることによって安全性やコスト、時間などリスクが加速度的に増えていきます。その解決の一つの手段として計測機器の自動化・機械化による効率化が必要不可欠だと考えています。
要するに水中ドローンもその海面の基地局もロボット化、無人化し、人は遠隔でそれらの動きを見ているという状況ですね。それが実現できれば海の中の可視化、情報化は劇的に進んでいくんじゃないかと思っています。
そこには古野電気さんの自動航行の技術との提携は必要不可欠だと考えていますね。」

この"海中の可視化"というのはもはや人類がやらなくてはいけないことなのではないか、とも伊藤さんは話します。

「現在SDGsについて叫ばれていますが、例えば海洋プラスチック然り、ブルーカーボン然り、現状の把握がまだまだ進んでいないと思います。分からないことが多くある中で改善しようというのは非常に難しい、場合によっては良かれと思ったアクションが逆効果を生むことだってありうるわけです。
まずは海中の把握をして理解を進めながら、環境対策を検討・実行していくことが重要なんじゃないでしょうか。」

"海を知り、地球を知り、そうして初めて人類が地球に住み続けられる"
このインタビューの終わりに伊藤さんがスッと口にした一言が私の胸に残りました。洋上風力発電や海難事故の調査など、様々なところで活躍が見込まれる水中ドローン。
人類が到達しずらい深海に果敢に挑む伊藤さんとFullDepthの挑戦、古野電気との協業にも期待を込めて今後も追いかけていきます。

FullDepthの皆様と古野電気 矮松わいまつ 舶用機器事業部長(左から2番目)

■株式会社FullDepth Website

水中ドローン「DiveUnit300」で撮影された深海の様子もご紹介させていただきます。

コトクラゲをロボットアームで収集しようとする様子
トリノアシ、ウミユリの一種。
ウミユリの仲間は5億年前から生息しており「生きた化石」とも言われている
アカザエビ、生で食べても焼いて食べても美味しい
光に寄せられてドローンに近づいてくるコウイカの仲間

深海の様子が気になった方はぜひFullDepth youtubeチャンネルへ

取材・執筆 高津こうづみなと

この記事が参加している募集

生物がすき

仕事について話そう

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

- 海を未来にプロジェクト -