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【物語】二人称の愛(中) :カウンセリング【Session51】

※この作品は電子書籍(Amazon Kindle)で販売している内容を修正して、再編集してお届けしています。

▼Prologue
Prologue05
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※前回の話はこちら

2016年(平成28年)06月15日(Wed)

 午前10時頃 から学のカウンセリングルームがある新宿では、何やら慌ただしい動きがあった。それは東京都知事である舛添要一知事が政治資金の私的流用疑惑に絡む内容で、「6月21日付で辞職したい。議会の承認を求めたい」との内容の書面を都議会議長宛に提出したからだ。
 この報道を各局のテレビ局が中継で伝え、学はこのニュースを自分のカウンセリングルームで観ていたのだった。

 この日のカウンセリングを何時ものようにこなしていた学は、ちょうど午後15時頃に一本の電話を受け取った。それはみさきからの電話であった。その内容とは次のような内容であった。

みさき:「もしもし、倉田さんのカウンセリングルームでしょうか?」
倉田学:「はい、そうですが。どちら様でしょうか?」
みさき:「倉田さん、みさきです」
倉田学:「もしかして、『銀座クラブ SWEET』のみさきさんですか?」
みさき:「はい、そうです。前に話した弟の件なんですけど」
倉田学:「弟がどうかされましたか?」
みさき:「実は、わたしの弟の勇気が『甲状腺がん』の手術をして。それでリハビリが終わりカウンセリングを受けるって言って」
倉田学:「弟の勇気くんの年齢は幾つですか?」
みさき:「今、勇気は高校三年生で17歳です」
倉田学:「そうですか。それで彼は今、どうされていますか?」
みさき:「しばらく自宅療養した後、学校にも行けるようになるんじゃないかと」
倉田学:「カウンセリングを受けに、新宿にある僕のカウンセリングルームには来れるのかなぁ?」
みさき:「わたしと両親が付き添って、倉田さんのカウンセリングルームに伺いたいと思うのですが」
倉田学:「わかりました。『親子カウンセリング』になると思います。ゆうきくんは未成年なので、僕のカウンセリングルームでは必ず親子で来て貰ってるんです。それでいつ来れるでしょうか?」
みさき:「えぇーと。6月21日(火)の15時からでも大丈夫でしょうか?」
倉田学:「ちょっと待ってね。うん、大丈夫です」

 こうして学は、みさきの弟の勇気のカウンセリングを『親子カウンセリング』と言う形で引き受けることにしたのだ。学は勇気と言う青年がどういう青年で、またみさきの両親がどういった両親なのか想像を膨らませていたのだった。

 ちょうどその頃、東京都庁の都議会では、都知事の舛添要一知事の辞職提案を全会一致で了承されたのであった。しかしそんな出来事とは関係なく、新宿では今日も遅くまで人の流れが止めどなく流れ、繁華街では明け方までひとが行き交い、誘惑の渦や人の蠢きが絶えず、活気に満ち溢れていたのだった。
 そしてこの日は、実は噂の男、吉岡響の30歳の誕生日で、透をはじめじゅん子ママやひとみも響が店長を勤める『新宿歌舞伎町ホストクラブ ICE』に招待されていたのだ。響は相変わらずひとみをモノにしようと迫っていた。

吉岡響:「ひとみちゃん、相変わらず綺麗だねぇ。この前の水色のドレスも最高だったけど、今日のひとみちゃんのピンクのドレス、僕好みだなぁー」
綾瀬ひとみ:「あっそー、わたし別にあなたの為にこのドレス着てきた訳じゃないから」
吉岡響:「ツレれないねぇー、ひとみちゃん。僕のこと意識しちゃったぁ」

 この言葉を聴いたひとみは、この男と関わると自分がアホになると思って相手にするのを止め、無視することにしたのだ。しばらくして会場が盛り上がり、じゅん子ママが響への誕生日の挨拶を行った後、カウントダウンと共にシャンパンが一斉に開けられたのだった。響は常連の女の子達からプレゼントを次から次えと受け取って行った。そしてひとみの傍まで近づいて来てこう言ったのだ。

吉岡響:「ひとみちゃんからのプレゼント、楽しみだなぁー」
綾瀬ひとみ:「わ・た・し・の。ほ・し・い・の♡」

 ひとみはわざとらしく響にこう言ってみたのだ。すると響は。

吉岡響:「ほ・し・い。ワンワン」

 こう響はふざけて言ったのだった。ひとみはコイツ本当にアホだ!と内心思いながらも、次のように言ったのだ。

綾瀬ひとみ:「しょーがないわねぇー。お手をしてくれたら、あ・げ・る♡」

 こうひとみは冗談で言ったのだが、響は右手を出しひとみにプレゼントちょうだいと言わんばかりに手を差し出したのだ。これにはひとみも笑いを堪えることができず笑ってしまった。そしてこう言った。

綾瀬ひとみ:「わかったわよぉ。はいこれ」

 そう言って響の差し出した右手の上に小さめの箱を乗せたのだった。響はすごく嬉しそうな表情を浮かべてひとみにこう言った。

吉岡響:「今開けてもいいかなぁ?」
綾瀬ひとみ:「いいわよぉ」

 響がひとみから貰ったプレゼントを開けると、それはPARKERのボールペンだった。響はとても喜んでこう言った。

吉岡響:「いやぁー、僕にぴったりのプレゼントだよ。こう見えても僕は筆まめでね。良く手書きで手紙を書くんだよ」

 これを聴いたひとみは、こころの中でこう呟いたのだ。

綾瀬ひとみ:「どーせLINEとかSNSで女の子にメッセージ送るだけで、ボールペンなんか使わないでしょ! だからPARKERで、あなたの頭もパーカー」

 そんなことをひとみは思っていたのだった。そして女性から男性にボールペンを送る意味としては、「エールの気持ちを伝える贈り物」でもあるのだが、ひとみにはありがた迷惑なエールであった。こうして響の三十路の誕生日パーティーは、響の店を挙げて盛大に夜更けまで行われたのである。


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