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綾瀬はるかはどこまで進化するのか

綾瀬はるかと高橋一生のW主演が話題の日曜劇場『天国と地獄~サイコな2人~』が高視聴率を記録している。正義感と負けん気に満ち溢れた刑事と、サイコパスな殺人鬼の魂が入れ替わってしまう、奇想天外なサスペンスドラマだ。

この特異な設定を聞いたとき「おもしろそう!」という印象を抱いた人が大半だと思うのだが、僕は違った。

「設定ありきで中身はスカスカな安っぽいドラマになりそう」「映画ならまだしもこれを連続ドラマで?」「サイコな2人ってサブタイトルはダサくない?」みたいな、うがった見方をしまくった。

しかし、見始めたらあっさり手のひらを返さざる得なくなった。

第3話消化時点の感想としては間違いなく面白い。思うに、設定が奇抜であればあるほど、脚本や役者に求められる技量は増す。設定だけが浮かないよう説得力が要求されるからだ。

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名脚本家×日曜劇場というブランドの強さ

その点、このドラマはまず脚本や演出において余計な違和を感じさせない。サスペンスとして気持ちのいい違和感は提供しつつも、視聴に差し障りの出る雑念を抱かせない。細かな点をいじわるに揚げ足取りだしたらキリがないのはドラマである以上仕方ないとはいえ、少なくとも本作は揚げ足を取ろうとする気にもならない。

脚本、演出、芝居、音楽、美術、ロケーション…それぞれが調和し、総合的に機能していればいるほどドラマには素直に没入できる。突拍子もない設定の場合はその点が非常に繊細になる。最初にうまく食いつかせても、ちょっとでも気になる雑念を与えてしまう粗さがあると、視聴者はすぐに離れる。

そもそも脚本が森下佳子さん、放送枠が天下の日曜劇場とあれば、下手なことするわけがないのだ。森下作品といえば『JIN-仁-』『とんび』『天皇の料理番』など日曜劇場でヒットを連発している。

綾瀬はるかとの縁も深く、古くは『白夜行』、近年では『義母と娘のブルース』でもタッグを組んでヒットさせている(佐藤健とのタッグでも同様)。

最高の芝居で魅せる主演2人

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そんな強力かつ相性抜群の脚本家を味方につけた綾瀬はるか、そして実力派俳優の高橋一生。それはもう当然のようにドラマを成立させている。

高橋一生はもとから(いい意味で)サイコパスっぽさがあるし、善人よりも狂人のほうが観たくなる役者だ。実際、日高というシリアルキラーを巧みに演じている。

驚くべきは綾瀬はるか演じる刑事と入れ替わった後、つまり高橋一生が見た目そのままに¨女性¨を演じるのだが、日高の時とは打って変わって女性にしか見えないのだ。声のトーンから言葉尻、仕草、姿勢、表情に至るまで絶妙に女々しく、自然と「女」を感じさせる。その柔らかな立ち振る舞いは時におかしく、コメディパートとしても十分に役割を果たしていた。

綾瀬はるかも「高橋一生に霞んじゃうかな」と思いきや、まったく負けずにサイコパスを体内に宿していた。迫力をたたえた低めの声色に、得体の知れない雰囲気。それはもう微笑するだけで恐ろしい。

綾瀬はるかのパブリックイメージとのギャップも手伝って「見たことのない綾瀬はるか」を見事に誕生させている。このキャリアにしてまだ新境地を見せ、進化を続けるのか。

「天然女子」から「強い女性」へと脱皮

『義母と娘のブルース』で綾瀬はるかは文字通り義母役で、血の繋がらない娘の母親役を好演していた。仕事から家事から何でもスーパーにこなすキャラクターだった。無機質系×スーパーといえば主演映画『僕の彼女はサイボーグ』が思い浮かぶものの、あれほど極端ではない。

アクションに秀でたスーパーな要素もありながら、しっかりと人間味もある役として最近では『精霊の守り人』や、『奥さまは、取り扱い注意』で演じた役も記憶に新しい。

『義母と娘のブルース』では、アクション的な意味合いではなく、女性としての芯の強さを見せている。そう、綾瀬はるかは着々と「天然女子」から「強い女性」としてのイメージを世間に浸透させていたのだ。

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彼女のパブリックイメージであり代名詞といえばかつては「天然キャラ」だった。代表作ともなった『ホタルノヒカリ』は完全にハマり役だったし、映画『ハッピーフライト』も適役をこなしていた。

天真爛漫でちょっと抜けた感じ。そのマイペースっぷりはバラエティーでも見られるし、素の部分であるのは間違いないはず。とはいえ、一歩間違えるとあざといだけなのに、彼女の好感度はなぜ高いのか。

彼女がずっと好かれる理由

おそらく、ざっくり要因をあげるなら3点。

・内面からも滲み出ているピュアな明るさ。
・親しみやすさがあるのに男に媚びた感じはみせない凛とした雰囲気。
・スキャンダルもなく、清純派女優としての王道を歩み続けるキャリア。

それらが絶妙にブレンドされているから敵を作らないのだと思う。

天然ではなく、自然体。媚びるのではなく、親しみやすい。

同じ女性からするときっと「天然」は嫌いじゃないですか。でも、「自然体」は好きじゃないですか。綾瀬はるかの魅力は、自然体を突き詰めたような存在感にある。

そんな彼女も年齢を少しずつ重ね、「明るい自然体」のイメージ一本槍では心許なかったと思う。幅広い役はこなせるものの、結局ヒット作となるのはいつもの天然キャラでは苦しい。

いや、求められてしかもヒットさせる役柄があるだけ凄いんだけど。でも世間はすぐに「いつもと同じじゃん」とか難癖つけてくるから。

彼女がすごかったのはCMで重宝されるような好感度の高いイメージは守りつつも、役者としてはナチュラルに脱皮していったところだ。「強い女性」という新たなイメージへの進化。

それを『義母と娘のブルース』のヒットを持って固めた。すでに手にしている「天然系」ではない役柄でヒットを飛ばした意味は大きかったと思う。

強い女性ではなく、母性と言い換えてもいい。予兆はあった。

是枝監督の映画『海街ダイアリー』における四姉妹の長女役だ。

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綾瀬はるかはこの作品で妹たちに世話を焼くしっかり者の長女役を見事に演じている。広瀬すず演じる末っ子に寄り添う場面などは母性の塊だった。映画は日本アカデミー賞の各賞を総なめにするほどヒット。彼女は新たな一面を印象づけていたのだ。

そんな布石があっての本ドラマでの活躍。綾瀬はるかは完全に女優として進化を遂げている。

綾瀬はるかの際立つ母性。思えば一部で熱狂的支持を得ていた2005年放送のTBS系ドラマ『あいくるしい』で演じた、家族を支える長女の役ですでに片鱗は見せていた。

天真爛漫なコメディエンヌも抜群に上手いうえ、母性の強い役も違和感なく演じられるとなると、日本映画では確実に重宝されるだろう。息の長い活躍ができる女優として、約束されたといってもいい。

綾瀬はるかはどこまで進化するのだろう。彼女にこの役をやってもらいたい、CMのイメージキャラクターになってもらいたい。制作サイドにそう思わせる魅力が満載なのは明らかだ。

ちなみに小林武史がプロデュースした綾瀬はるかのデビューシングル『ピリオド』は隠れた名曲です。

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サポートが溜まったらあたらしいテレビ買います