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非公式の卒業論文に≪裏≫を設ける理由

長い年月を自分なりにかけた「非公式の卒業論文」は、大学4年間の集大成を自身で出した実験結果を全く含まず、研究室内では常に怒りを買い続け、教官達の質問にも回答できず、先天性の無脳児と言われ、同窓会においても過去のことを冷やかされ、野次られ、恥をかかされ、おまけに、醤油のどばどば注がれたフルーツをどか食いするよう求められ、笑いものにされる、いわゆる落伍者の消えない烙印を押されたことに対する、自らの意思表示である。大学側に承認されなくとも、ブログというオンライン上に残すことで、私自身の意志表示を形にしたのである。かけた時間と勉学の量においては、公式の卒論の数百倍はあるだろう。そして、その意思に終章を設けない決意が、私にはある。閲覧数やコメントの内容によって、ブログ開設の当初の目的が、揺らぐことは微塵ともない。


その変わることのない意思表示の姿形をより明瞭にするために、非公式の卒業論文に≪裏≫を設けた。ドナルド・ウィリアムソン博士の幼生転移仮説を心から没入した≪表≫とするならば、これから紹介する、スタンリー・ショスタク博士の刺胞動物と微胞子虫の共生進化の仮説は、≪裏≫に相当する。この仮説は、遺伝子の水平移動を肯定しており、巨視的な形質の別生物への移転という大規模な共生現象という点では、幼生転移仮説は勿論のこと、かのリン・マーギュリスの連続細胞内共生説とも通じる所があり、表裏一体の関係にある。スタンリー・ショスタク博士はピッツバーグ大学で長年教鞭をとり続け、ヒドラの再生に関する研究に精力的に取り組んできたほか、生と死、不死や再生をテーマに、数多くの書籍を出版してきた。広汎な知識を縦横無尽に披露し、英語の表現力もノンネイティブに容赦ない博士ゆえに、文献の全知識を余すところなく展開することは、私はあまりに未熟ではあるが、博士が展開した、刺胞動物に細菌が移入し、やがて微胞子虫という新たな生物が成立するまでの、思考の変遷を記述したく思う。1990年代の博士の論文、その約20年後にあたる2015年の論文を用いる。


英語名については、和名で明らかに決められたものに限り和名のみとするが、異なる英語名で同じ和名のものについては、英語名のままとした。例えば、cnidocyst, cnidoblast, nematocystは、和名ではいずれも「刺細胞」になるが、英語名では記載の通り異なる。この場合は、cnidocystのみを「刺細胞」と和名のみで表現していることを断っておく。

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