備忘録:線虫のストレス耐性に関する研究成果と博士の勇み足

ウィリアムソン博士が寄稿した2017年のAmerican Scientsit誌の”The Origins of Larvae”はp.509-517にわたり掲載されているが、p.515で「幼生の進化における他の視点」の章で、生物は幼生期のない状態で始まり、生存および生殖の目的で幼生期を発生させることは可能であることの根拠として、線虫の研究成果を例にあげている。以下にこの箇所を示す。


C.elegansでは発生中にストレスがかかると、少し異なるボディプランを生む。ただし、ストレスが除かれると通常のボディプランに戻る。遺伝子がこの多様なボディプランのために存在しており、このことを報告した研究チームによると、環境の変化を継続させることで二通りのボディプランが生まれ、ついには、そのうちの一つが幼生になり、もう一つが成体となったのではないか、と仮説を立てた。


私は、博士があげた2件の引用文献(本記事の参考文献に示す)を実際に拝読した。しかし、いずれの文献にも、博士が述べたような仮説の記述は見当たらなかったのである。これらの文献は、線虫が好ましい環境では生殖可能な発生段階へと成長を進ませ、そうでない環境(餌のない、など)では耐久性のある状態(dauerと表現される)になり長命になることに関して、関連するシグナル伝達の因子の解析や特異的に発現する遺伝子の探索に留まっていた。幼生・成体の個体発生の分岐ともいうべき考察は、博士自身によるものと思われる。また、線虫は幼生と成体の区別はされているものの、外観の明らかな相違は見られない。本件のような仮説は、面白くはあるが、勇み足と言うべきかもしれない。


使用文献

The Origins of Larvae Donald I. Willamson他著 American Scientist p.509-517 2007


参考文献

A Hormonal Signaling Pathway Influencing C.elegans Metabolism, Reproductive Development, and Life Span Birgit Gerisch他著 Developmental Cell Vol.1, 841-851, December, 2001

Global analysis of dauer gene expression in Caenorhabditis elegans John Wang他著 Development 130, 1621-1634 2003

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