第2章:無脊椎動物(節足動物以外)に関して

① 腔腸動物

卵の大きさは種によって雑多で、アサガオクラゲ属Haliclystusは卵の直径が0.03mmだが、オキクラゲ科Pelagiaでは0.3mmに達する。この卵の大きさによって発生段階も変わり、小:ポリプ、中:プラヌラ→ポリプもしくはスフィゾストーマ、大:アクチヌラ、極大:エフィラ→メデューサになるようである。

ヒドラでは、大きな卵を持ったものは、メデューサの時期が完全に抑制されている。この大きな卵だが、他の卵を吸収して成立するとされている。胚発生が終わってからはポリプを形成する時期だけを過ごすので、progenetic neotenyと言える。メデューサの時期の抑制に関しては、卵の大きさのみならず、海水の塩濃度の低下にも原因があるとされている。

 一方で、環境に応答できる内分泌系メカニズムが欠けていることで、卵の大型化ができないものも知られている。クダウミヒドラTubularoideaや鉢虫類Scyphozoanの数種が該当するとされている。

 低温の影響を受ける例では、Coryne tubulosaがいる。14℃ではヒドロ虫の成長が見られるが、2℃ではヒドロ虫はメデューサを形成する。ただし、この種は卵が大きくてもポリプを作らずにメデューサを形成することはないとされている。

② 有櫛動物

 ふうせんくらげ類では、直接発生あるいはネオテニーを起こすことが知られている。有触手類やうりくらげ類はふうせんくらげ幼生を持つ。

③ 吸虫類

 単生類では、Polystoma integerrinumが挙げられる。カエルの一種に寄生するのだが、成体の膀胱に寄生したものは成熟に3-4年を要するのだが、オタマジャクシの顎に寄生したものはわずか5週間で成熟する。宿主は生殖器官の発達が見られなくなるという。これは宿主から十分な栄養を獲得できたことによって起こる発生の早期化であり、progenetic neotenyと位置づけられる。

 二性亜網では、宿主によって発生過程が変わり、ヘテロクロニーによる柔軟な形態形成が見られるとされている。また、淡水や20℃以上の環境に住むことで、宿主の脳下垂体や甲状腺のホルモンが寄生体である本動物の発生早期化を引き起こすと推察されるが、鎌形異形吸虫trichobilharzia ocellataのように宿主のホルモンの影響を受けない種も知られており、必須要因ではないとされている。

 条虫網では、成体になるまでに複数の宿主に寄生していくことが知られており、体節を失う“片節”(proglottization)はネオネニーではないかとも言われている。この片節については、すべての条虫網で共通ではないようで、種によっては酸欠状態で抑えられる、ともされている。むしろ、水中での一個所への集合が宿主のホルモンに依存するものであり(クルミヨウジョウチュウ目caryophillidae等)、宿主によっては矮小化した成体を生み出すprogenetic

neotenyにもつながるところがあるとされている。

④ 環形動物

多毛類では、大きな卵になると、トロコフォアやネクトケータといった幼生がなくなる傾向が見られる。例えば、ゴカイの一種Neanthes condataは幼生も変態もなく、55体節からなる稚体が生まれる。この多毛類の胚化現象には、低温が卵黄の増加を引き起こしているのではないか、と考えられている。砂に住む狭隘な環境の種にもこのことがいえる。ムカシゴカイProtodrilusの場合、卵の直径40-50umのレベルでは不完全な幼生が生まれるようで、これは幼生の時期の短縮と思われる。中でもP.symbiotianでは卵の直径140-150umになり、幼生の時期そのものがなくなる。一方で、低塩濃度下でホルモンの量が変動し、非生殖個体になるものもある。ゴカイの一種Nereis limniolaは自身の持つたった一種類のホルモン量が少ないと精子を形成し、多いと卵を形成できるが、このホルモンが作れなくなると、エピトーキーepitokeという生殖変形の状態になり、遊泳用に変形した該当の体節が個体から切り離され、配偶者を求めて海面に向かう。寄生性の多毛類では、ネオテニーによって幼生と成体の構造が混在するらしい。Ichthyotomus sanguinariusはウナギの鰓に寄生し、全長わずか2mm、13体節で性成熟する。それから10mm、100体節まで成長する。

有帯類では、大きな卵を産むものが多い。精子形成は脳のホルモンによるらしいが、卵はホルモンに依存せず、自然に生まれるらしいのである。基本的に陸上生活なので、この環境が胚化を促したのだろう。両性具有ということになる。アンドロジェン様の雄性ホルモンが抑制されて、単為生殖のみを行う種が生じたと考えられている。

吸口虫類においても、ヒトデに寄生する種で体の簡略化しているものが知られている(サガミスイクチムシprotomyzostomum polynephris)。多くは平板で頭や尾がなく、体節もないとされている。

⑤ 星虫動物

 針ひもむし類のProstomaの卵は卵黄が豊富で、直接発生であることが知られている。P.graecenseでは、卵の中でピリジディウム幼生の時期が圧縮されている。これは胚化であり、低温濃度がビテロジェニン合成を促したものと考えられている。ゴナドトロピン抑制ホルモンが前述の環境条件で抑制され、ビテロジェニン合成につながり、同時に、その抑制ホルモンが出なくなることで体が小さくなったのではないか、と考えられている。

⑥ 顎口動物

硫黄のある場所で生息可能で、嫌気性の代謝を営む。卵の直径は約300umで卵黄が豊富である。親世代は単一の卵を産み、直接発生を行って成体になる。

⑦ 輪形動物

 ほとんどは卵が大きく、変態を行わない(ワムシCupelopagisは幼生を持つらしいが・・・)。日長や個体群密度がビテロジェニンの合成を引き起こしているのかもしれない。外に、ビテロジェニンではないが、季節や栄養条件が整うと、単為生殖の雌は有性生殖のできる雌に誘導されることが知られている。また、ネズミワムシの一種Notommata copeusでは、日長が両性の雌を作るのに必要とされているが、密度も必要らしい。

⑧ 線形動物

一般的に卵のサイズは小さく、成体の全長も小さいが、例外的にPlacentonema gihantissimaは全長8mに達するらしい。卵が小さいのには、元々祖先が陸生で、卵が小さくなるにつれ卵黄を作らなくなり、かつ、幼生の体を作る遺伝子も働かなくなり、早くに稚体、やがては成体になれるようになった(adultationと呼ばれる)。

 線虫は環境条件によって体の大きさや形が左右されることが知られている。とはいえ、成体の長さの話であって、ネオテニーのような話ではない。でも、栄養状態によってはネオテニーは起こるようだ。例えば、シーエレガンスCaenorhabditisやカンセンチュウRhabditisでは、精巣の成長が止まっているのだという。

 なお、独立生活でも寄生でも、形に大幅な変化は見られていない。

⑨ 鉤頭動物

 全ての種が寄生性である。卵は直径約25-120umと差はあり、細胞分裂はごく初期に終わり、あとは細胞が大きくなって成長する。幼生世代であるアカンソ幼生は既に稚体とされている。これには、本来祖先からずっと発現されていた第一の幼生が、卵黄がなくなったことで抑えられたのではないか、と考えられている。

⑩ 外肛動物

 苔虫類が最も有名である。小さい卵はキノフォーテス幼生が孵化するが、大きな卵は幼生期がごくわずかである。ただし、小さい卵でも胎生のものもいて、これも幼生期がごくわずかである。苔虫は群体を形成するが、これには胚への栄養供給がされているのではないか、という考えもある。

⑪ 箒虫動物

 卵の直径は約125umで、アクチノトロカ幼生を経て底生の成体になる。ただしこの幼生自体が不完全な形とされ、卵黄があることで幼生の体を作る遺伝子が部分的に抑制されていると考えられている。変わった例を一つ挙げると、ホウキムシの一種Phoronis ovalisでは大きな卵にも係わらず小さな成体になる。体の構造等、成長が止まっているところが見受けられるとされている。

⑫ 棘皮動物

 クモヒトデでは、卵の大きさと直接発生には相関性が見られるとされる。”Krikのクモヒトデ”では0.5mmの大きな卵を産み、小さな成体が生まれる。ニュージーランドの岩礁に生息し、低塩濃度の環境にある。Ophiolepsis kieriでは、成体自体は小型なのだが、骨格だけは大型のO.pacificaに似るのだという。これはネオテニーによる不釣り合いとされているが、パナマの低塩濃度下では生存に不利である。おそらく、岩礁で生きるための反応としてビテロジェニン合成が起こったが、その副産物として骨格の大型化が起こったのかもしれない、と考えられている。

 ヒトデでも、同じことがいえるようだ。卵の大きさ次第で、幼生が不完全になっていく。しかし、Ophionereis annulataでは、大きな卵であるにも係わらず、オフィオプルテウスが変形してビテラリア幼生になっている様がわかるという。他にも、大きな卵でも遊泳する幼生はあるらしいが、理由は不明である。

 棘皮動物では、幼生の形態のまま性成熟する例が見つかっていない。早くても、”Kirkのクモヒトデ”のような稚体に限られているようだ。

⑬ 軟体動物

 低塩濃度に依存して、少数の大きな卵を産む傾向がある。例えば、後鰓類のBrachystomia

rissoidesでは、三種類の発生様式がある。Type1:卵の直径40-170umで小さい卵から遊泳する幼生が生まれる。Type2:先よりも直径の大きい卵から餌のいらない幼生が生まれる。Type3:卵の直径205-400umの大きな卵から、直接発生となる。卵内でベリジャー幼生の時期を通過しているのがわかるらしい。

 一般的に、深海や高緯度で幼生時期の短縮が見られ、浅海や砂地や河口等の環境条件では、緯度に関係なく両方の発生様式が見られるようだ。そのため発生様式が変わる以前に卵の大型化が確立されたと考えられている。淡水・陸生の有肺類は、後鰓類の中でも卵がとりわけ大きいとされている。淡水であることがビテロジェニン合成に影響したのかもしれない。

 柄眼目では、陸生のものは数少ない大きな卵を産む。他の腹足類よりも顕著なのだという。幼生を持たず直接発生を営む。これには、カルシウムの欠乏した環境で外殻を持てなくなったことが要因と考えられている。ただし、卵のサイズと発生様式の相関性は不明である。

 頭足類においては、一般的に卵が大きい。最大のものでは、マダコの一種Octopus bimaculoidesで9.5×17.5mmの卵が生まれる。直接発生だが、卵内では一時的に幼生の器官が見出されるといわれている。ビテロジェニンはゴナドトロピンに促されて合成され、視柄腺から出ている。コウイカSepia afficinalisでは、20℃でこの腺の発生が早まる。短日条件でも起こるようだ。これは、温度や日長が卵黄合成に影響しているということを示唆する。ただし、不思議なのは、海という生活の場を変えていないのに、どうしてビテロジェニン合成が起こったのか、である。この原因は不明である。魚との餌を巡る競争で外殻を捨ててビテロジェニン合成に到達したともされているが、あくまで一説である。内分泌系は、他の軟体類より原始的とされている。

 狭隘な環境に住む軟体動物について。前鰓類では、溝腹綱Solenogastresと多くのウミウシ亜網Opisthobranchで、小型、退化した構造、腺などの特殊化した体つき、繊毛が広域に存在する、接着、収縮能力といった特徴が挙げられる。いずれも、酸素不足、異常な塩濃度、食糧不足がもたらしてネオテニー、それを補うための発生、殻の喪失による矮小化と考えられる。

 寄生性の軟体動物。幼生期での寄生では、カワシンジュガイ超科Unionaceaのグロキディウム幼生が有名である。寄生した魚の顎に行き渡り、変態時に体が溶けて胚の器官に成り替わる。そして、宿主の体から落ちて成体になるのである。一方、成体期のみでの寄生では、Enteroxenos oestergreniがクモヒトデに寄生し、雌は宿主の食道で変態し、雄は雌の中空で変態する。その後、雌はカイアシに乗り換える。雄の生殖器形成が目的とされている。

⑭ 脊索動物

 尾索類では、多くは餌を食べない幼生の時期を過ごす。直径は0.1-0.2mmくらいである。また、群生のホヤでは、大きな卵で栄養のある幼生は卵の中にいる時期が長い。例えば、同じモルグラ属であっても、卵胎生では直径3-12mmの卵なのに対し、卵性では直径13-40mmとなっている。卵がとても大きい種では、Polycarpa tinctorの卵の直径は0.73mmで、幼生を経ず、体長2.2mmのミニチュアの成体になる。これは胚化である。砂地に住み、浅い海であり、塩濃度が低い環境に住むことが知られている。

 狭隘な環境に住むホヤは、浅海にも深海にも存在する。ウミタルDoliolimでは、幼生の感覚器が失われているが、尾は残っている。筋肉が鰓と共同して移動に関する器官になっている。これは幼生のネオテニーといえる。また、オタマボヤOikopleuraでは、卵は直径0.085mmと小さく、感覚器を持たず、底への接着もなく、変態もない。感覚器欠如や接着不能という要因がネオテニーの特徴へと向かわせたのかもしれない。

 頭索動物では、二つのタイプの幼生、アンフィオクサスとアンフィオキソイデスがある。後者の方が鰓孔が多いことで区別できるらしい。分かれ目としては、食餌の量である。これにより鰓孔が増え、咽頭が二つに分かれ、幼生の体を保ったままの性成熟が成される。


使用文献

The evolutionary process in taltrid amphipods and salamanders in changing environments, with a discussion of “genetic assimilation” and some other evolutionary concepts Ryuichi Matsuda著 National Research Council of Canada 1982年

Animal Evolution in Changing Environments with Special Reference to Abnormal Metamorphosis Ryuichi Matsuda著 JOHN WILEY & SONS 1987年

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